第52話 猫耳

「それは大変だったね、森野さん。

くふふっ。それで、結局三○志読んだの?」


いつもの昼休みの時間。


昨日の顛末を聞いた恭介さも愉快そうに笑いながら森野に問いかけた。


「読まされましたよー。一巻丸々読み終わるまで先輩の部屋に3時間缶詰めで!おかげで今日は寝不足です。」


ふわぁっと欠伸をする森野に俺は文句を言ってやった。


「何だよ、読まされたって。為になるって言ってただろーが?」


「為にはなりましたよ。横から弾丸のように先輩の解説を浴びながらの読書。本当に濃密なお勉強タイムでした!」


森野に隈のある目でギロリと睨まれ、俺は少し怯んだ。


「なっ、何だよ?」


「ははっ、最近の浩史郎はホント面白いね。

女の子を部屋に連れ込んで三○志読ませるって…。何をやってるんだか。」


恭介が苦笑いした。


「でも、りんご。そんな深夜に里見先輩の部屋に二人きりでいたって事?危ないじゃない!仮にも年頃の男女が!」


宇多川に指摘され、俺と森野は慌てて弁解をした。


「えっ。で、でも本当に本を読んだだけで、そんな色っぽい雰囲気じゃないし!

読み終わったら普通に自分の部屋に帰って寝たし。」


「そ、そうだよ。それだけだ。俺は森野に指一本触れてないぞ。」


「例えりんごはそうだとしても、里見先輩は信用できないわ。風呂上がりのりんごに内心フラッとしたりしてたんじゃないの?」


「そんな事…ねーよ。」


宇多川に厳しい疑惑の目を向けられ、俺は否定したが…俺の部屋を訪ねてきたときの森野の姿を思い出し、目を逸した。


まぁ、最初上気してほんのり色づいた頬とかシャンプーの香りとかにちらっと動揺しなくもなかったような気がするが。


「んん?なんか、怪しいわね?」


「もぅ、夢ちゃん。心配しすぎ!里見先輩は私みたいなのには興味ないよ。ホラコレ証拠。」


森野は例のペン型のボイスレコーダーを出してきた。


「それやめろっつの。もう、再生すんなよ。」


俺は釘を刺した。


「いざとなったらそんなの何の抑制力にもならないわ。もう一つの武器はちゃんと持ってるでしょうね。」


「大丈夫。いつも携帯してるよ。」


もう一つの武器って何だ?


俺は宇多川の言葉が少し気になった。


「あんなケダモノみたいな二股先輩と同居してるだけでも心配なのに、私をこれ以上心配させないで。りんごに何かあったらと思うと気が気じゃないのよ。」


宇多川が涙目になりながらの必死の訴えに森野は大きく心を打たれたようだった。


「夢ちゃん。ごめんよぉ。もう心配させないよぅ!」


森野も涙を浮かべて宇多川に抱きついた。


最近慣れてきた事だがお昼のこの時間、最低一回は森野と宇多川の突然の百合展開が訪れる。


俺は冷めた目で、恭介は嬉しそうにその様子を、見守った。


「りんご。分かってくれればいいのよ。これからは、夜9時以降は里見先輩の部屋に入っちゃだめよ。」


「うんっ。うんっ。」


「部屋には鍵をかけて、武器を備えてね。」


「分かったよぅ!」


二人の少女が抱き合って感極まったように盛り上がっている中、悪者にされて納得いかない俺は文句を言った。


「おい。俺は野生の獣か何かか?」


「おおぅ。美しい光景。まさに眼福だねぇ。」


恭介は顔を綻ばせて喜んだ。


「そんな美しい友情で結ばれた君達に、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ…。」


恭介は持っていた紙袋から、一冊の本を取り出そうとした。

(その紙袋は以前恭介がいかがわしい本を入れていたものと同じものだった。)


「ひっ。」


森野は怯えた様子で宇多川に抱きつく腕に力を込めた。


「東先輩!この上りんごに何を見せようというの?この変態!!」


宇多川は森野を後手にかばうようにして恭介を睨みつけた。


「違う、違う。そういうんじゃないから。

生徒会の仕事の関係だって。ホラ。」


恭介は慌てたように言うと、分厚いカタログのような本を見せた。


「イベントグッズ、レンタル屋ぁ?」


宇多川は、疑り深そうな目を向け、そのカタログのタイトルを読み上げた。


「そう。文化祭で使うイベントグッズのカタログなんだ。君達に相談したいのは

衣装についてなんだけど…。どんなのがいいかなぁ?」


恭介がピンクの付箋がついているところをめくると、際どいカットのメイド服やチャイナドレスが沢山掲載されている頁が現れた。


宇多川と森野は再び固まった。


「やっぱりいかがわしいじゃないっ。」


頬を赤らめて抗議する宇多川に恭介は再び急いで否定する。


「だから違うって。今年文化祭で、姉妹校の四葉学園と合同で有志の出し物をするんだけど、メイドカフェとボーイズカフェいう案が出ていて、その衣装をうちで担当することになってるんだよ。生徒会の奴ら、男ばっかりだから他に相談できる人がいなくってさ。


「ああ、そういう事なのね。だけど女の子がいないっていうけど…。」


宇多川は不思議そうな顔で、森野と顔を見合わせた。


「うん。生徒会長さんって女の人…。」


察した恭介が言い直した。


「うん、訂正する!普通の女の子感覚を持った人間が生徒会に存在しないので、君達に相談したいんだ!」


いつになく、キッパリしたもの言いの恭介にあの宇多川が気圧されていた。


「あっ。そっ、そうなのね。」


「でも、なんか楽しそうですね。カタログ見せてもらっていいですか?」


「勿論だよ!ありがとう、森野さん。」


興味をひかれた様子の森野が恭介からカタログを受け取って、宇多川と一緒に見始めた。


俺と恭介はその後ろからカタログを覗き込んだ。


「際どい服も多いけど、これなんか学校の制服をちょっと改造したような感じで、可愛いんじゃないかな?」


「そうねぇ。碧亜と四葉の校風だと、あんまり露出の高い服はちょっとね。保護者もそれなりの方が来られるし。かと言って、あんまり、暑苦しくて、動きにくいのも…。これだと、袖が長すぎてお給仕には向かなそうじゃない?」


「そっかぁ。品があって、デザイン性と実用性を兼ね備えたメイド服…。なかなか難しいねぇ。」


森野と宇多川が、首を捻って考えていると、


恭介は紙袋から更に何かを取り出して、二人に声をかけた。


「二人とも!その意見、ぜひこれを付けて猫語で言ってくれないかい?」


「はあぁ?」


「猫…耳…?」


恭介が取り出したのは白と黒の猫耳カチューシャだった。


「雑誌のカタログ取り寄せたら、おまけでついてきたんだ。ぜひ、君達がそれをつけて猫語で喋っているところを動画に撮らせ…。ぐふぅっ。」


言い終わらない内に宇多川のエルボーが恭介の脇腹にきれいにきまっていた。


「やるワケないでしょ?この変態が!!自分の変態趣味に私とりんごを巻き込まないでちょうだい!せっかく人が親切心で協力してあげようとしたのに…!」


宇多川は怒り心頭に達した様子で、恭介を罵った。


「恭介、お前命知らずの奴だな。」


変態には変わりがないが、俺はあの恐ろしい宇多川にこんな提案をできる恭介をどこか称賛の目で見てしまった。


しかし、恭介は涙目で弁解をした。


「いってぇ。違うの。俺じゃないの。会長から頼まれたの。宇多川さんと森野さんに猫耳つけて、猫語で喋っている動画を見せてくれたら、その意見に重きをおくって。」


「石狩先輩が?」


意表を付かれ、宇多川は目を見張った。


「まぁ、でも、宇多川さんはお嬢様だし、森野さんは大人しい子だから、まず無理だろうけどとは言ってたんだけど。」


「それも、石狩先輩が言ってたの?」


宇多川はきっと恭介を睨みつけた。


「あ、う、うん…。」


恭介も、流石に気まずそうに答えた。


宇多川は少し考えていたようだったが、森野に向き直ると…。


「こうなったら仕方がないわ。りんご、猫耳やるわよ!」


「えええ?マジなの?夢ちゃんっ?」


「大マジよ。石狩会長にバカにされたまま終わるわけにはいかないわっ。女は度胸よ!」


「わ、分かったよ。夢ちゃんが本気なら、不肖森野林檎、全力でサポートさせてもらいます!」


最初は驚いていた森野も宇多川の熱意に押されて、俄然やる気になっていた。


「宇多川、何でそこまで…。」


森野はともかく、宇多川は文化祭の衣装なんてそんなに興味なさそうだったのに、何故そんなにまでして、石狩会長に対抗するのか、俺は宇多川の行動が不思議でならなかった。理詰めで行動し、無駄を嫌ういつもの宇多川らしくない。


「不思議そうだね、浩史郎?」


恭介はニヤッと笑った。


「まぁ、宇多川さんにも思うところがあるんだと思うよ?それより、浩史郎。一緒に動画撮るの、お願いしていいかな?」


「え?俺も?」


「うん。俺動画撮りなれてないから、きれいにとれるか分からないし、保険としてさ。それに…。」


恭介は声をひそめて言った。


「森野さんの猫耳姿、残しておきたいだろ?

なんならそっちメインで撮ってくれていいからさ。」


「なっ。俺は別に…!」


抗議する俺の肩をポンポンと叩くと


「照れない照れない。二人共、準備はいいかい?」


「い、いい…にゃ…。」


「いいにゃよん?」


それぞれ黒い猫耳をつけた今一恥ずかしさが捨てきれず、赤面してぷるぷる震えている宇多川、白い猫耳をつけたノリノリの森野の姿がそこにあった。


「おおーっ!二人共似合うじゃん!」


恭介は感嘆の声を上げた。


もともと際立った美少女である宇多川に小悪魔系の黒い猫耳はよく似合っていた。


しかも、今は恥ずかしさからか、妙に大人しく可愛らしい雰囲気になっている。


性格の恐ろしさから普段はその容姿を正当に評価できないのだが、こいつも、黙っていれば学年で1、2を争う美少女なんだよな。


俺は宇多川が学園のアイドルだという森野の話に妙に納得した気になった。


「ちょっと!里見先輩、ジロジロ見ないでよ!この変態!!」


宇多川はそんな状態でも俺への罵倒は忘れなかった。


うん。訂正。やっぱ全然可愛くないわ。


「ふふっ。しょうがないよ。夢ちゃん、メッチャ可愛いもん。」


そして、意図的に正視をさけていた森野は、

宇多川の猫耳にキュンとした様子で顔を緩めていた。


もともと童顔で、猫のような顔立ちの森野に白い猫耳はよく似合い、ニコニコ微笑んでいる様子は…。


控えめに言っても、天使もかくやという愛らしさだった。


くっそ。破壊力半端ねぇ!


俺は目の前の光景に耐えるべく、懸命に全身に力を込めた。


「せ、先輩、大丈夫?何か、目が血走ってるよ…?」 


そんな俺を見て、心配そうに近付いて来る森野を俺は手で必死に制止した。


その姿で近寄ってくるなっつーの!


「大丈夫だ。ちょっと寝不足なだけだ…。」


「それならいいけど…。」


「りんご、放っておきなさい。その人からは危険な匂いがするわ。」


宇多川はゴミを見るような目をこちらに向けると、森野を俺の近くから引き離した。


「浩史郎、気持ちは分かるけど、今は落ち着けよ?ここ学校だから。撮影終わったら、猫耳持って帰って、家で好きなだけそういうプレイしてくれていいから。」


恭介が俺の肩をポンポンと叩きながら、とんでもない事を言った。


「宇多川も恭介も俺を何だと思ってるんだ!?」


「東先輩!縁起でもない事言わないでよ!」


宇多川が金切り声を上げた。


「プレイ…?」


森野は一人話についていけず、首を傾げていた。

❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


「夢にゃん夢ニャン、文化祭でメイドカフェの出し物をする予定ニャンけど、どの衣装がいいニャンかねー。」


「そ、そう…ニャンねー。りんごニャン。


やっぱ高校生ね文化祭ニャし、うちの校風から言ってもあんまり、露出が多いのはNGじゃニャいかと思うにゃんね。」


「あっ。じゃあ、こういうのはどうかニャ?」


白猫(森野)はカタログのページから中世ヨーロッパのメイドが着ているような黒くて長いワンピーススカート、大きな白エプロンの一般的なメイド服の写真を指差して指差してこちらにも見えるように向けた。


「そうニャンねー。これだと、露出は少ないニャンけど、デザイン的に野暮ったくて、女の子達から不評じゃにゃいかと思うニャンね。他校からも有志でメイド役を募るなら、衣装は女の子が着てみたくなるような可愛いデザインじゃニャいと…。」


「なかなか難しいニャー。」


「こういうのはどうかニャ?りんごニャンによく似合いそうニャン。」


黒猫(宇多川)はアリスが着るような白いレースのエプロンに水色のサテン生地のメイド服を指差して言った。


「可愛いニャー!!ひざ丈だし、タイツを履いてしまえば、そんなに露出も感じないニャン。動きやすくてお給仕もし易そう。」


白猫(森野)は可愛いメイド服にテンションが上がった様子だった。


「じゃーニャ、じゃーニャ。これニャんか夢ニャンに似合いそうじゃニャいかニャン?」


白猫(森野)は良家のお嬢様が着ていそうな

衿付き、幅広のネクタイ、ダブルボタンが付いたロイヤルレッドのワンピースに薄手のレースエプロンを合わせたメイド服を指差した。


「○坂みたいでカッコイイニャン?

夢ニャンのイメージピッタリニャ?」


「りんごニャンの中で私のイメージって、○坂だった…ニャン…?

ま、まぁいいニャンけど、確かにこれならひざ下丈だし、品もあるニャんね…。

ちょっとレンタル料高めニャけど…。色違いのブルーをりんごニャンに着せて双子コーデしたいニャー。」


「よし、決まりニャ。文化祭はコレを着て、

二人で○協和音を踊るニャン!」


「主旨が変わってるニャン!?」


❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇❇


「はーい、カットカットー!!」


恭介の声で、はっと我に返った俺は慌てて録画を止めた。


なんだ、今の桃源郷は…。撮影が終わって森野のホッとしたような笑顔で止まった画面を見て、ニヤけていた俺の肩をポンと叩いて、恭介が耳元で囁いた。


「よかったな。浩史郎、俺に感謝しろよ?」


「…!」


くっ…!見られた!


それから、恭介は満面の笑みで二人(匹?)に駆け寄って行った。


「いやぁー、二人共新人アイドルの緩いコントみたいで良かったよー。」


「そんなつもりは毛頭ないのだけど!?」


宇多川は不本意のあまりか涙目になっていた。


「夢ニャンよかったよ?恥ずかしさに耐えながら頑張って猫語を喋っているところ!可愛すぎて身悶えちゃったニャ!!」


森野は別の意味で瞳をうるうるさせていた。


「森野。猫語残ってるぞ?」


「あ…。呼び慣れちゃってつい…。」


森野は頭をポリポリかいた。


「にしても、何だか森野は猫語を言い慣れてたな?もしかして本当にメイドカフェとかでバイトしてたんじゃ…。」


俺が疑いの目を向けると森野は慌てて否定した。


「違う違うそんなワケないでしょ?いつも家で動物のごっこ遊びしてたから。いーちゃんに鍛えてもらったおかげです。」


「ああ、苺ちゃんお人形遊びが好きだったわよね。」


宇多川にしては珍しく、目を細めて顔を綻ばせた。


親友だけあって宇多川は森野の妹弟とも親交があるのだろう。


「はい。東先輩。もうこれで、お役目果たしたわよね。」


宇多川は黒い猫耳を外して恭介に渡した。


「ああ。宇多川さん、森野さん、無茶振りしてごめんね。でも、動画想像以上の出来映えだったよ。これなら石狩会長にも十分に満足してもらえそうだ。」


「それならよかったわ。あと、動画では言い切れなかったけど、袖のゆったりした和風の衣装もいいと思ったわ。ホラ、コレ。」


宇多川はカタログの該当部分を指し示し、俺と森野も後ろから覗き込んだ。


「わぁ。本当だ。これも可愛い!」


「うん。和風もいいね。」


「スカートは少し膝より上の丈なのだけど、上半身の露出がないから、品よく見えるでしょう?」


「そうだな。よく見ると森野がバイトで着ていたエンジェル・ドーナツの衣装とあまり丈が変わらないけど、全体の印象としてこっちはそんな短く感じないな?」


「……。」

「……。」

「……。」


俺が意見を言った途端に、三人からなんとも言えない表情で無言の責めを受けた。


「なっ、何だよ皆…。」


「浩史郎。今のはセクハラだぞ?森野さんに謝れ!」


恭介は真顔で言った。


「ええ?何でだよ?恭介の猫耳の方がよっぽど…。」


「バイト中に先輩からいやに熱い視線を感じるような気がしていたのですが、気のせいじゃなかったんですね。」


森野は俺から一歩引き、自分の体をかばうように抱きしめた。


「りんご、我慢しないで訴えていいのよ?里見先輩がおぞましかったら、今日は私の家にとまりなさい?」


宇多川はもはや俺には目も向けず、りんごに優しく語りかけた。


「ありがとう。夢ちゃん。でも、待って。

先輩、そんな人じゃないと思う。」


「森野。分かってくれたか。」


「思うに、先輩は私に興味があるのじゃなくて、コスチュームに興味があって見ていたんだと思うの。」


「はんあ?」


「猫耳にも、すごい反応してたし。だから、コスプレっぽい格好してなかったら大丈夫だよ。」


「ああー、あるよね。特定の衣装に反応するフェチズム!そういえば、小さい頃から浩史郎は遊園地やイベントとかでコスプレをしているお姉さんに異常な興味を…。」


「恭介!?お前面白半分に過去を捏造するなよ!」


真剣な顔で嘘八百を並べる恭介に俺は抗議した。


「じゃあ、里見先輩に聞くけど、興味があって見ていたのは、りんごなの?コスチュームなの?」


宇多川が意地悪い笑みを浮かべて聞いてくる。


こいつ…!!


分かってて聞いてきてる。


今ここで森野を見ていたと言ったら、特別な好意があるって言ってるようなもんじゃないか。


しかし、コスチュームと答えたら、俺はコスチュームマニアの変態の烙印を押される事になる。


森野は白猫の耳を付けたまま、純粋な瞳を大きく開いて興味津々で俺を見ていた。


そんなガン見してくるな!似合いすぎなんだよ、ソレ…。


俺は大きく脱力して言った。


「コスチュームだ…。」


「ふっ。この変態!」


宇多川は勝ち誇ったように言った。


「やっぱ君達面白いね。」


恭介はお腹を抱えて大笑いしていた。


一人森野だけは俺に優しかった。


「趣味趣向は人それぞれですよ。先輩、気にしないで下さいね。」


「森野…。」


その優しさは有り難かったが、俺が答えた途端宇多川に変態と言われたよりも、森野が速攻で猫耳を外したことの方が実は胸にこたえていた…。




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