第3部 第14話 §3 食後のデート
アインリッヒが、どういう食べ物を食べるのか、恐らく想像のついた者は誰一人いないだろう。
どこに何を食べに行くのだろう?などと、まず何となく思ったのはエイルだった。
イーサーは、お腹が満たせればなんでもこいと、言い足そうに楽しみな顔をしている。
ミールは、どんな嗜好品が食べられるのかと、過剰な期待をしていて、フィアは特にお構いなしだった。その点はグラントも変わりない。ただ、目上の人間と食事をするということに、少々緊張をしているようである。
彼女の選んだのは、ちょっとした街の有名なレストランである。というか、アポイントメント無しで、彼女やザインを受け入れられるような店は少なく、殆どがパニック状態に陥ってしまうだろう。
オーディンにも、ブラニーにも、共通していることだが、彼等はふらふらと出かけてしまう事がある。
だが、それを受け入れられる場所がないのだ。だから、行く店は自然と限定されてしまうわけだ。
自ずと、会員限定だの、著名人御用達などと、そういう触れ込みのある名店となる。
そういう、ゴージャスな雰囲気を一番喜んだのはミールだった。
そして彼等は、個室に入ることになるが、天井につり下げられたシャンデリアだけでも、一生背の生活に藤生しなくて済みそうである。
「なんでもいいぞ」
「はぁ、ハンバーガーが食いてぇな……」
ザインがメニューを見ながらボソリと呟く。
「全くだ……」
アインリッヒもメニューを見ながら、溜息混じりに呟く。要するに彼女の本意では無いと言うことである。
「そういえば、大学前のハンバーガー、暫く食べてないな……」
エイルもメニューを見ながら、ハンバーガー話につられてしまう。
「あ、あそこのダブルバーガーいいよねぇ、レタス良い感じだし……」
「じゃ、大学初日につれてってもらおっと」
ほぼ合格を確信しているリバティーの暢気な一言。
その間メニューを追い続けているのは、イーサーとミールである。
「ドーヴァのやつ、今頃ノンビリしてやがんのかな……」
「あの子は、ハンバーガーより、イチゴショートケーキだ。と、ヨークスは、デーモン騒ぎの最中だったな」
「だったな……、街大丈夫なのか?」
彼等は相変わらず、メニューをみつつ、半分意識のない会話を続けている。
「うん。友達もみんな、大丈夫だって。亡くなった人には申し訳ないけど、街自体の被害は、それほど大きくないみたい……」
リバティーの連絡相手はシャーディーである。久しく顔を見ていない友人達は、元気そうである。被害にも遭ってないようだ。
「あ、あたしこれ!チキンとキノコのオムライス……」
散々迷ったが、ミールの選んだのはそれだった。普段食競るようなモノと余り変わらないが、それとて、金額は一桁変わる。
「私は、パスタだな、上質のオリーブオイルとチーズで仕上げたシンプルな仕上がりでいい」
「あ~そう来たか……。俺マルゲリータでいいや……」
ザインもアインリッヒも可成りシンプルなメニューを選ぶ。ティナーでないというのもそれを手伝っている。側に控えているウェイターが、次々にメモを取って行く。
「上等なところそうだから、もっと凄いのばかりだと思ったら、シンプルなのもあるんですね……」
グラントが、妙なところに関心を寄せている。
「まぁな。あまり味付けの強いものばかり、食していると、いやけがさしてくる……」
ある意味贅沢な言葉である。誰もが目を眩ませるほどの高級料理に嫌気がさしているのである。
「じゃぁあたしも、アインリッヒさんと、同じものにする。それとトリュフバターソースのチキンソテー、それにあったワイン……、テイストなしでお任せね」
フィアは昼間から一杯引っかけるつもりだ。
「いいな、それ……私もそれを追加だ」
「俺、お腹いっぱいになるなら、なんでもいいや……」
と、メニューに飽きはじめてきたイーサーが、 面倒くさそうにいう。
「じゃぁ、これにしよ。牛タンと香草の塩竈蒸し、ステーキポテトサラダ添え、あとポタージュ」
リバティーが主導権を握っているが、イーサーはお構いなしである。
「俺も、ミールと同じでいい。正直確かに、ハンバーガーの方が、俺達向きかもな……」
エイルもどうでも良くなってしまったようだ。
「俺も元々は、平民出だからな。シンプルなのが一番性に合う……」
ザインの家系はもともと、平民であり、彼の父親は王城に勤める一兵士長だった。ただ、彼の父親は洗浄で非常に優秀であり、人望も厚く。一介の兵士からそこに上り詰め、戦場では失われた師団長の代役まで務めた。そのころザインは、少年兵であった。だが、彼の判断力は、当時からずば抜けており、戦場では父の補佐として、影の活躍を見せた。当時、そのことが明らかだったわけではない。彼の持つノーザンヒルの称号は、父から譲渡されたというのが、表面での出来事である。
尤も彼がこうしているの、彼の才能だけではなく、彼の父を理解し、また彼を理解した父がいたからこそである。彼の家は、父の代で貴族となり、そして彼は女王三剣士と呼ばれる存在になっている。
彼自身が、地位に追いついていないというのが、正しい表現になるだろうか。
暫く、食事をしながらの、何気ない話の遣り取りが続く。特にエイルが、彼等の過去などを聞き出す様子もなかった。ただ、彼等がまだ学生であることや、ドライ達彼等の出会いの切っ掛けなどを、ザインが訪ねるのだった。
イーサーにとっては、あのときの話というのは、あまりしたいものではない。小さく苦い、思い出の一つ出る。その対象となるリバティーが、毛木にすることではないと、珍しく肩身の狭いイーサーの頭を撫でる。
「出会い」というのは、どんな切っ掛けで始まるものなのか、誰にも解ったものではない。
感動的であったり、空気のように自然であったり、イーサーとリバティーのように、マイナスの思考同士がぶつかるケースもある。だが、それがもたらす結果もわからないものである。
大事なのは、今自分達がそうしていることなのではないだろうか?そう思ったのは、ザインだった。
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