カマキリ少女(現状で分かっていること)

 俺とエレクシアがカマキリ少女と睨み合っている間、ひそかは酷く怯えた様子ながら常に俺達を間に挟むようにして移動していた。でも、それでいい。さすが野生動物だ。身を守る上では合理的な判断をする。

 カマキリ少女も、襲ってくるというよりは身を引くタイミングを窺っているようにも見えた。背中を見せて逃げれば逆に殺されると判断してるんだろう。さっきから少しずつ距離が離れていっている。このまま引き下がってくれるなら、俺としても助かる。さっきはつい咄嗟に撃ってしまったものの、明らかに人間に近い姿をした、それも十代半ばくらいの少女を思わせる姿をした生き物を殺すのは忍びないからな。

 俺が放った三八口径のハンドガンの直撃を受けてもあの外皮は貫通はしなかったようだが、衝撃までは打ち消せなかったようだし、はっきり言ってエレクシアに始末させれば一瞬で片が付く程度のただの猛獣だ。そういう意味でも大した脅威でもない。

 が、さっきからなぜか、カマキリ少女の視線がやけに俺の体を舐めまわすように向けられてるような気がするのは、ただの錯覚なのかね。特に下腹部辺りに意識が向けられているような……?

 なんてことを思ってると、カマキリ少女と俺達の間に大きめの木が入った瞬間、空間に溶け込むようにして彼女の姿が見えなくなった。

「離れていきます。どうやら逃げたようですね」

 エレクシアがそう言ったことで、俺もようやく緊張感から解放された。

「エレクシア、あのカマキリ少女のことで分かったことを教えてくれ」

 状況が終了したのを確かめた俺は、エレクシアにそう尋ねる。

「はい。結論から申し上げますと、あの生物はいわゆる昆虫ではありません。収集できたバイタルサインからも、人間に非常に近い内臓を有した脊椎動物だとみられます。外皮こそキチン質に近い物質で構成されていると思われ昆虫のそれに酷似していますが、決して外骨格ではなくあくまで皮膚なのでしょう。至近距離で三八口径の直撃を受けても貫通はしませんでしたので防弾チョッキ並みの強度はあると思われます。

 接触した際の衝撃の伝わり方から見ても体内の構造は人間のそれに酷似しており、内骨格によって肉体を支え、心臓によって大量の血液を循環させて体温を維持する恒温動物であり、かつ哺乳類であると推測されます」

「え? ということはあの胸の膨らみは……?」

「ええ、見た目通りの乳房だと考えていいでしょう」

「マジか…となると本当に少女ってことか……」

「幼体かどうかはまだ分かりませんが、外見上は少なくともそう見えますね」

 エレクシアからの報告を受けた俺は、そのカマキリ少女を<じん>と名付けることにしたのだった。


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