第22話 時間VS念力

 月狼がグレンに言われた場所に行ってみると、そこには何もなかった。


「なんでだ…。グレンの情報によれば確かにここにあったはずなのに…。」


 その時。


「背後には気を付けたほうがいいよ。月狼。」


 聞き覚えのある低めの少女の声がした。


「その声はっ!」


 振り向くまでもなく月狼は能力によって引き寄せられていた。


「あまりに至近距離に近づきすぎると君のゾーンに入っちゃうからね。」


 声の主は能力を解くと、カービンを月狼に向けた。


 月狼は急いで刀を抜くと、振り向いて能力を発動した。


 そして声の主の少女に刃を振るう。


 しかし


「うわっ!」


 少女は念力で月狼を吹き飛ばした。


「やっぱりお前だったか…!


 名前は聞いてなかったな。誰だ!」


「僕かい?


 僕はレキネ。能力は見ての通り、念力テレキネシスだ。」


「そうか…。」


「おっと、お前だけに手柄は横取りさせないぜ、レキネ。」


 そういわれた先で立っていたのは。


「クロー!」


 暁で倒したはずの、クローだった。


「そろそろ正体を明かす時が来たようだな、月狼。」


 そういってクローはマスクを取った。


「ローン…!」


「そうだ。久しぶりだな、月狼。」


 かつて連邦国の一員として月狼とともに戦った能力者、ローンだった。


「お前、よく敵方の人間なのに共和国軍に入れたな。」


「俺もテルに捕まってよ。


 それで、第二連隊に所属するか、死ぬか選択させられたんだ。


 もし第二連隊に所属したら、月狼と戦わせてやるともいわれて、俺は第二連隊に所属することを選んだ。」


「お前、俺に恨みでもあるのか?」


「別にお前個人には恨みはねえよ。


 むしろ俺はお前のことを誰よりも慕っていた。


 そしていつの間にか嫉妬していた。


 俺より圧倒的に強い能力と戦闘スキルを持つお前に!」


 ローンは拳を強く握った。


「それでテルに言われた時、誓ったんだ。


 もしあんたと出会えたら、その時はあんたに勝つと!


 勝って、俺がお前より強いということを証明してやると!」


「そのためにあのクズのもとへ落ちたのか!」


 月狼は怒号を挙げた。


「分かるぞ、その気持ち。


 俺も第二連隊に入った後、受けたからな。


 あいつの徹底的な虐待を。」


「…!」


 月狼は思わず黙った。


「体中に炭酸水をぶっかけられた。


 まあ、俺はまだましなほうだ。


 隣のレキネなんて、もっとひどいことをされていたぞ?」


「ああ、思い出すだけでもおぞましいことをされた。


 だからお前を殺した後はあいつも殺すって心に決めたよ。ローンたちと一緒に。」


「じゃあ通してくれ。


 俺は今からあいつを殺しに行くんだ!」


「分かってないな、月狼。


 俺たちにとって、あいつが死ぬことそれ単体にはあまり価値はない。


 俺たちの力であいつをこの世から消し去ることに価値があるんだ!」


 そういうとローンはマスクをかぶり、3人の分身体を作りだした。


「その前に、あんたを超えてみせる!月狼!」


「来い!」


 ローンは月狼に分身体を用いて向かっていった。


 そして月狼を囲む。


「クソ!


 銃術使いが4人か!」


「食らえ!」


 パパパパパパパン!


 ローン分身体たちは月狼に一斉射撃を行った。


「あぶねえ!」


 月狼は一斉に発射された銃弾を銃術と能力を用いてよけた。


 そしてそのまま分身体一人を


 ザシン!


 斬った。


「ライフルは銃口を見ることでよけれても、さすがに俺そのものはよけれないみたいだな。


 数が増えたことによる弊害だ。


 人海戦術を使うと個別の攻撃に対して対応することが難しくなる。」


「そんなことも分からなければあんたを超えられない!


 本題はここからだ。」


「何っ!」


 その時。


「僕の存在を忘れてもらっちゃ困るね!」


「っ!」


 背後からレキネが能力を使って月狼を突き飛ばした。


「クソ!」


「これはもらっておくよ。」


 レキネは月狼の刀を能力を使って回収する。


「くっ!」


「さあ、自分の刀と戦ってね。


 何!」


 レキネの能力によってひとりでに動く月狼の刀が、持ち主に襲い掛かる。


 一閃


「うわっ!」


 一閃


「うおっ!」


 一閃


「くっ!」


 さすがに武器を操られると攻撃手段がなくなるのでうかつに攻撃できない。


 そしてローン分身体3人が新たな分身体を1人ずつ生み出した。


 7人に増えたローン軍団は、刀への対応を迫られている月狼を再び包囲する。


 レキネは包囲の外から刀を動かしていた。


パン!パン!パン!パン!


 月狼は次々と撃ち込まれる銃弾を能力と銃術を使って避けた。


「流石に持久戦に持ち込まれるときついか!」


 射撃と斬撃が交互に襲い掛かるので、月狼はとても対応することができない。


 しかも包囲されているので四方八方から襲い掛かる圧倒的な弾幕と包囲陣地の中で動く斬撃にうまく対応することができない


「これで俺はお前を超えるっ!」


 その時


キィィィィッ!


 どこからかバイクの急ブレーキ音がした。


 そしてバイクに乗っていたライダーはバイクを飛び降りて戦場に乱入する。


 パパパパパン!


 容赦のない射撃により月狼を囲んでいた分身体は5人死んだ。


 そして銃を撃ち終わると、ライダーはヘルメットを脱ぎ捨てた。


「能力に由来する分身はともかく、2対1とは少々卑怯じゃない?」


 ライだった。


「ライ!」


「ただいま、月狼。」


 ライが銃をリロードしながら言った。


「テルを処理したから、助けに来たよ。


 まあ、監獄とかでは助けてもらったしね。


 これで貸し借りはなし。いいよね?」


「…ああ!」


 ライがレキネによって操られた月狼の刀を能力を使って回収した。


「ほら。」


 月狼はライから送られた刀をキャッチする。


「サンキュー、バディ!」


「さあ、行きますよ。」


「ああああああもう!僕たちの計画が大幅に狂いだしてる!」


「まあ、何人増えようが結果は同じだ。」


 ローンが自分を含め4人に分身した分身体を生み出した。


 さらにその分身体も分身を1人ずつ生み出す。


 分身体は合計で7人になった。


 具体的には前方に4人、中間に3人、後方にレキネだ。


「これでラッキー7だな。」


「来い!ローン!レキネ!」


「ああ!」


 ローンの分身体4人が一斉に襲い掛かった。


「まあ、私をもってすれば分身体が何人来ようと弾数の限り負けることはないですけどね。」


 ライと月狼は分身体に突撃する。


ザシン!


 月狼は能力を使って突撃し、前方の二人を斬り伏せた。


 ライもフルオートで撃たれる銃弾をかがんでよけた。


 そして


 パパパパパパン!


 かがんだ状態から分身体の銃のマガジンをつかんで接近しながら銃撃を行い、分身体二人を銃撃して倒した。


 残るは3人。


「分身はあれで最後だといつ言った?」


 ローンたちは分身体を3人生み出した。


「何人来ようと結果は同じだ!」


「食らえ!」


パパパパパパパパン!


 大量の銃弾が月狼にばらまかれる。


 それを月狼は高速でよけた。


 だが、対狼マニュアルはその状況も把握している。


『狼は、通常の人間と同じと銃弾を撃たれると利き手の反対側に避ける性質があります。


 狼は全員右利きである可能性が高いです。


 そのため、利き手の反対側である左側に向かって銃弾をホースの水のようにばらまくのが良いでしょう。』


 これのせいで窮地に陥ったことが何度あったことか月狼は覚えていない。


 そして共和国に入ったローンは今対狼マニュアルを読み込んでいる。


 そのため万事休す


 かと思われたが、


 チャキッ!


「弾がないっ!」


 銃弾がなくなった。


 よく見るとマガジンがいつの間にか抜かれている。


ザシン!

ザシン!


 そこをついて月狼に切断される。


「なぜだ!」


「ああ、マガジンはこっちにありますよ。」


「なっ!」


「対狼マニュアルの弱点は、結果を確実にするためには動けないことだ。


 途中で弾が切れたらあとはこちらの独壇場さ。」


「そうか。


 だが、これで俺たちは残り四人だ。


 銃術の運営上はこっちのほうが有利になる!


 来い!」


「ああ!」


 そしてレキネも加わった4対2の戦いが始まった。


 ライは二人のローン分身体を相手にする。


パン!パン!


 二人の銃弾がライに発射された。


 当然ライはそれをよける。


 分身体の一人(もうめんどくさいので仮に分身体Bとする。もう一方は分身体A)がスライディングで移動しつつ、分身体A、ライ、自分の順に一直線になるように並んだ。


 一方、ライは比較的冷静に分身体Aだけをとらえ続けている。


(この二人はどちらの銃弾にも当たらないように動いている。


 ということはそのうち一人の動きを押さえていれば、相手の銃弾がどこから飛んでくるかはだいたい想像がつく。)


 そして銃弾をよけつつ双方に銃弾を撃ち込み続けるという攻防が始まった。


「死ねえ!」


 パパパン!


 月狼に銃弾を発砲し続けるローン。


 それをよける月狼。


「そろそろリロードしておくか。」


「何っ!」


「食らえ!」


 レキネが叫ぶと。


ブゥン!


 バイクのエンジンがひとりでに動いた。


「何!」


 そして月狼に向かって突進する。


 月狼は能力を使って避けた。


 だがレキネはなおバイクを動かし続ける。

 

 回転させ再び月狼に追突させようとする。


 そして、


ドン!


 月狼は思いっきりバイクに追突した。


 もちろん月狼の小さな体は吹き飛ばされる。


 が、


「痛いな。」


 軍隊で受け身の技術を学んでいる月狼にとってはバイクの追突くらいどうということはないのだ。


 わざと追突させてバイクの動きを止めるのが今回の作戦だ。


「ちっ!」


「まあ、僕のテレキネシスをなめてもらっちゃ困るけどね。」


 レキネはバイクを宙に浮かせて。


「上からなら避けるしかないだろ!」


「何っ!」


 確かに上から攻撃されたら必然的に頭部に激突せざるを得ないから避けるしかない。


「くっ!」


 月狼はよけた。


 バイクは地面に激突する。


 だがなおバイクは形を保っている。


「なんて頑丈なバイクなんだ!」


 一方、ライは分身体との戦いを続けていた。


 そして、


「今だ!」


 パパパパン!


「うっ!」


 利き手である左側の分身体を倒した。


「これで敵は一人。


 まあ、一対一で最強の銃術使いに勝利するのは難しいということは、当然わかっていますよね?」


「来い!」


「まったく男はいつもこうだ。


 いつもはある程度冷静になるくせに、いざってときほど何も考えていない。」


 まあそんなこんなでライは戦闘に突入する。


パン!


 発射された銃弾をよけて、


カチャッ


 銃をどけて弾丸の狙いをそらす。


 そしてふと横を向いてみた。


「くっ!」


 上から突進してくるバイクと月狼が戦っている。


「どうやら援護が必要みたいですね。」


パン!


 ライが上空に浮かぶバイクに向かって銃弾を発射した。


 銃弾はエンジンを貫通する。


 そして


ドゴォォォォォォォォン!


 バイクは大爆発した。


 さらにそのまま戦いを続ける。


 そして


パン!


 ライは分身体に一発銃弾を撃ち込んだ。


「勝った。残るはあなたたちだけ。」


「はっはっはっはっはっ!」


「何がおかしい!」


「いや、あまりにも君たちが強いからさあ、僕も楽しくなってきちゃったよ。


 どうやらこれを使うしかないみたいだね。」


 その時。


 今まで死にまくった分身体が持っていた銃がいくつかレキネのもとに集まった。


 そしてその銃たちの銃口が一斉にライと月狼のほうへ向く。


「何をするつもりだ!」


「月狼こっち来て!」


 ライがバリケードを形成しながらいう。


「食らえ!」


 その時。


パパパパパパン!

パパパパパパン!

パパパパパパン!

パパパパパパン!

パパパパパパン!

パパパパパパン!


 銃たちが一斉に火を噴いた。


 ライはバリケードの後ろに隠れる。


「銃を大量に並べて一斉射撃か。」


「このバリケードはそんな何発も耐えられる仕様じゃない。」


「しかもローンのやつ、マガジンを大量に複製してやがる!」


「どうするの!」


「弾幕の中を潜り抜けるしかねえ!」


「ちょっと待って月r」


 ライが止めるまでもなく月狼は弾幕をくぐりつつ移動した。


 そして


 ザシン!


「あっ」


「くっ!」


 二人同時に斬り伏せた。


 月狼は何発かかすったと見えて、頬と腕から血がにじんでいる。


「残念だったなローン。


 俺の勝ちだ。」


「はははっ…。そうみたいだな…。


 でも、殺されたのが月狼でよかった。


 ほかのやつには殺されたくないからさ…。」


「…なんて言ったらいいのか。」


「君との戦いは最高に楽しかったよ。月狼。」


「その闘志に敬意を示そう。名前は忘れない。ローン、レキネ…。」


 月狼は静かに二人に敬礼した。


「さて、戦いはまだ終わっちゃいない。


 俺たちは早くここから脱出しなければならない。


 奴らが包囲された今、ここらへんは敵があふれている。


 早く脱出しないと、俺たちもいつ見つかるかわかったもんじゃない。」


「そうだね…。


 そうと決まれば善は急げだね。」


 ライはバイクを新しく取り寄せた。


「はあ、はあ。


 さすがに取り寄せられる重さはこれくらいが限界みたいだね。」


「じゃあ、次は俺が運転する。


 実はずっと前からあこがれてたんだ。こういうバイクに。」


 月狼がバイクに飛び乗った。


「じゃあ、運転は頼んだよ。」


 ライが後ろに乗った。


「行くか…。」


 月狼はバイクのアクセルを回転させた。


ブゥゥゥゥゥゥゥゥン!


 空気を切り裂くようなエンジン音を立ててバイクが走り出した。

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