第20話 復讐、完遂
一方そのころ。
ライは空軍基地に向かってバイクを走らせていた。
(あと少しだ、あと少しでたどり着く。)
そして角を曲がった時。
「っ!」
分隊に遭遇してしまった。
月狼のように非能力者と圧倒的な差をつけられる能力や、範囲攻撃を行える能力を持てば一人で圧倒的な数の敵を倒すことができるが、ライが持つ物体取り寄せ能力はそこまでの力がない。
そのため、せいぜい普通なら三人が倒せる上限だ。
そう、普通なら。
「…ふっ!」
だが、ライは笑みを浮かべている。
「誰が相手だろうと、無理やり突破する!」
まず分隊にバイクで突入して直線状にいた敵を跳ね飛ばした。
そのままライは分隊のほうを向き、MP7を構える。
そしてそのままバイクを飛び降りる。
分隊に一気に近づいた。
そして。
パパパパパパパパ。
周囲の分隊に銃を乱射する。
ただ銃の位置を固定するのではなく、銃撃をよけながら敵のポジションに向けてフルオートで的確に銃を撃つ。
相手が狙いを定める暇も与えない。
「くっ!」
銃撃を受けてもまだ動ける二人の隊員が銃剣でライに突撃する。
しかし
「遅い」
一瞬にしてライはそれをよけた。
二人の隊員は止まることができず、お互いの銃剣で見方を刺して自滅した。
「デッドエンド」
ライは一発も当たることなく分隊を壊滅したのだ。
「これでここら辺を守る敵はある程度倒しましたね。あとはゲートに向かって進むだけです。」
ライはバイクを起こすと、アクセルをひねってエンジンを入れた。
その時。
「おい、ライ!どうした!?」
突如攻撃ヘリコプターが現れた。
「誰だ?!」
「本名は名乗れないが、俺のことはクルーと呼んでくれ、よろしくな!
乗れ、ライ!」
クルーはヘリコプターからホイストを垂らした。
ありがとうございます!
ライは垂らされたホイストをつかんだ。
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ここで全体の戦況を説明する。
まず、事前に行われた航空戦では海軍の介入により制空権を取り返され、空軍基地はすさまじい爆撃にさらされていた。
さらに地上部隊も他の連隊や旅団が介入したことにより次々と共和国第二連隊は傘下の大隊を失っていった。
共和国第二連隊は撤退を余儀なくされ、空軍基地に撤退しようとするものが続出した。
そして勢いはそのままに共和国第一旅団を率いるルイ准将は空軍基地周辺を包囲。
すでに今後の国家都市攻勢は不可能な状態にまで陥った。
そんなわけで空軍基地は大混乱に陥っていた。
空からの侵入者に気を使えないくらいには。
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「ヒャッハー!」
クルーは空軍基地の人員を徹底的に攻撃しつくしていた。
ヘリコプターで拾ってもらったライは、そのあとクルーに事情を話した。
「へえ、テルのやつに復讐かあ、まあ、いいんじゃねえかな。
じゃあ基地まで送ってやるよ。援護付きでな!」
クルーは快諾し、空軍基地まで送ってくれた。
「これでここから迎撃する暇はねえだろうなあ!」
フルフェイスヘルメットをかぶったクルーが言い放った。
「そうですね。」
「そろそろ降りろ。でなきゃやつを見逃しちまうぞ。」
「了解!」
ライはヘリコプターからスポイトで降下した。
そして上空からの指示を待つ。
「クルー!あいつはどこに?!」
「それが…どこにいるかが分からな…」
その時。
掩体壕から一機の輸送機が飛び立った。
「っておい!あれは!」
クルーが急に声を荒げた。
「何?!」
「掩体壕から一機の輸送機が飛び出てきた。
この期に及んで輸送ってことは、何か大切なものを運んでいるに違いねえ!
例えば人とか!」
「言いたいことはわかった。」
ライは携帯式地対空ミサイルを取り出した。
その時、
「ぐわっ!」
クルーのヘリコプターが突如として爆破炎上した。
「ライ、俺にかまうな!このヘリは間もなく墜落する!
その前に撃て!」
「分かった!」
ライは若干上空へ浮かんだ輸送機に地対空ミサイルを発射した。
ドゴォォォォォォォォン!
ミサイルが輸送機に命中した。
「やった…、これで復讐を果たせた。」
その時、
パンパンパン。
ライに三発の銃弾が放たれた。
「ああっ!」
「見つけた。
久しぶり、ライ。」
ショートカットの少女がそこに立っていた。
「ミラ…!」
「戦争では助けてくれてありがとう。
今はGCUで働いているんですって?」
「それがどうしたの?」
「まあいいわ。
今は敵、だもんね。」
ミラはライにストックが折りたたまれたカービンを二丁向けた。
「死ね!」
パン!
ライは発射された銃弾を銃口を見てよけた。
さすがに相手の銃を取り寄せる暇はなさそうだ。
だがミラはライがよけた先にすぐさま銃弾を叩きこんだ。
銃口の向きや弾道の特性などを正しく理解していれば、発射する前の数秒に銃弾が当たらない位置に移動することで銃弾をよけることができる。
これこそが銃術だ。
しかし、
パン!
移動した先にもう一発銃弾を放たれた。
「うっ!」
ライが回転してよける。
しかしそこに
パパパパパパン!
容赦なく銃撃を浴びせる
「あなたも知ってるでしょ。
私の能力は未来予知。
あなたが銃弾をよけようが、どこにあなたが行くかなんて目に見えてる。
そこを撃てば終わりよ。」
「くっ!」
銃術は、『相手の弾をよけつつ、自分の攻撃につなげる』ことを軸にできた戦闘技術だ。
もし相手の行動を100%読める相手がいたとすれば、その人間は間違いなく最強の銃術使いだ。
ライはそんな相手に挑んでいる。
「ほらほら!どうしたの、近づけない?!」
パン!パン!パン!
ただただ撃ち込まれ続ける攻撃をよけ続ける。
ミラはライの動きを読むことはできても、その動きを止めることはできない。
だからよけることはできるが、相手に対してカウンターで攻撃する暇はない。
パン!パン!
ただ相手の銃撃が続くだけだ。
ミラが使う銃は、AkMS-5.5。
銃術専用に改造されたライフルで、銃身長がかなり短い。
おまけにアルミとプラスチックでできているため、とても軽い。
さらに火力も高く、とてもじゃないがMP7で太刀打ちはできない。
パン!
ライは銃撃をかがんでよけた。
そしてそのまま前転し、至近距離に入る。
ここからが本当の『銃術戦』だ。
相手の銃を銃で払って狙いを外しつつ、次の攻撃につなげる。
そして防御の隙間を縫うようにして至近距離から銃撃を叩きこむのだ。
カッ!
払って
パン!
撃つ。
パン!
そして相手の銃撃をよける。
そしてよけたところから再び銃を構える。
チャキッ!
そして相手が銃撃を予測して移動する。
この繰り返しにより、自分の被弾確立を最小限に抑えつつ、次の適切な攻撃につなげる。
これが銃術なのだ。
狼をはじめとする数々の戦況を変える力を持つ能力者を保持する連邦国と戦うことになりながら共和国が5年もの間戦線を維持し続け、最終的に様々な要因もあったとはいえ戦争に勝つことができたのは、この銃術の技術が連邦国のそれより圧倒的に優れていたからに他ならない。
そのなかの傑作のひとつこそがライや、ミラなのだ。
だが、ミラの能力はあまりに強すぎる。
カチャッ
ライがいくら効果的な位置に移動して銃を構えたとしても
ヒュン!(よける音)
ミラはその動きを事前に予測して動くことができる。
カチャッ!
ヒュン!
パン!
そして30秒にわたる攻防の末、
チャキッ!
「くっ!」
ミラの銃のほうが先に弾丸が尽きた。
そしてその瞬間を狙って
パパパパパン!
「あああああああっ!」
ライはミラに銃を撃った。
ミラが銃を取り落とし、後方に倒れた。
「くっ!最強の能力を持った私が、なんでライに…!」
仰向けに倒れたミラがつらそうに息を吐きながら言った。
「あなたにまともに挑んで勝てないことくらい、私にもわかってる。
だから途中で撃つのをやめた。
弾丸を最後まで温存して、ここぞというときに撃つ。
これも立派な戦略だよ。」
「くッ!」
ミラは悔しそうに空を見つめていた。
先にリロードしたほうが負け。
それが銃術のルールだ。
だが、これはいついかなる時もリロードしないという意味ではない。
残弾が尽きる前にリロードして弾を入れ替えれば、残弾が急に尽きるという不測の事態は避けられる。
そうすれば負ける確率は格段に下がる。
だが、ミラはライに絶対に勝てるという思い込みがあったため、撃ち続ければ勝てると思いいたずらに弾を浪費して負けた。
まともに戦えば勝つ確率は低いと知っていながらも、わずかな可能性を信じて弾を温存していたライに。
「私も少し前までは、この世界に絶対っていうものがあるんだと思ってた。
絶対的なものがあって、それに服従するのが正しい道だと。」
ライはミラの手を握った。
「でも、月狼に出会って変わった。
圧倒的なものはあるけど、絶対なんてものはない。
自分のことを信じて、やれるだけのことをやれば、きっと道は切り開かれるって。」
「そう…。」
弱弱しくつぶやいたミラの手は、ライの手の中で体温を急速に失っていった。
そしてミラが目をつぶると同時にライが手を離すと、ミラの手は重力に従って地へと落ちていった。
「さようなら、ミラ。」
ライはミラの死体を見て訳も分からぬ一粒の涙を流した。
が、その涙は次の瞬間吹っ飛んだ。
バラララララララ!
「きゃははははっ!
死ね、死ね、死ねええええええええええええええ!」
サマがヘリコプターの上からドアガンをぶっ放しまくっている。
「サマ!」
ライは必死で機銃掃射をよけまくる。
「久しぶりい、ライ。
今日も楽しく遊ぼ?」
「くっ!」
さすがにマシンガンに勝てるほどの俊敏な動きはできない。
万事休す…
かと思われたその時。
「やめろ、サマ!」
そこには冬狼が立っていた。
「冬狼!」
「お兄さん!」
二人は思わず叫ぶ。
「なんで?!
この前言ったよね!
最高の狩場を用意してあげるって。
今がそうじゃないの?!」
「ああ、ここも狩場には十分ふさわしい。
特上の獲物も今目の前にいる。
だが俺たちは狩の前にやらなければならないことがあるだろう。」
「あ、ああ!」
サマはうなずいた。
「案ずるな。獲物はいつか必ず仕留める。
今まで見たこともない狩場でな。
さあ、早くヘリを下してくれ。」
「…分かった。」
サマはパイロットにヘリを下させた。
冬狼がそのヘリに搭乗する。
「じゃあな、ライ。アイルビーバック!」
そういうとヘリは離陸していった。
「え、ええ…。」
ライは若干困惑しつつも、すぐに思い直した。
「まあ、復讐は果たした。
次にやるべきは、救済だ!」
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