第15話 クーデター

 その後三人は本部まで歩いて帰還した。


 数日後。


「さてさて、良く帰ってきたね君たち。


 まあ今のところかなり能力者犯罪の発生率は抑えられているから、しばらく任務はないかな。」


「すみません、聞きたいことがあるんですが。」


 ライが言った。


「どうしたんだい?ライ?」


「テル大佐はどうなったんですか?」


「ああ。


 あいつは軍法会議にかけられることになって指名手配がされてるけど、いまだに見つかっていなくてね。」


 その時。


ビービービービービー!


 普段はあまり聞かないけたたましいサイレンの音が鳴った。


「何事?!」


「総帥からの直接通信だ!」


「何だって!」


 エミは急いでプロジェクターを起動する。


「総帥!」


「おはよう、GCAの諸君。」


 神聖ファシスト党二代目総帥、共和国初代総帥ケイがモニターに姿を現した。


 トレンチコートと軍帽を身に着け、ライフルと対戦車兵器を椅子の近くに立てかけたその姿はとても威厳にあふれている。


「君たちの日ごろの活躍はこちらにも届いている。


 まあ、そんなことはどうでもいい。


 非常事態だ。テルが空軍基地を占拠した。」


「何だって!」


 四人は驚愕した。


 ケイ総帥は驚いた様子も見せず、淡々と事実を語っていく。


 その淡々とした口調と、明かされた情報のギャップがさらに衝撃度を強くしていた。


「もうすでに汎用戦闘機10機に爆撃機5機、そしてミサイルが首都に向けて飛びたった。


 現在アイアンドームを展開して迎撃しているが、現状は予断を許さない。」


「なんでそんなことが…。そもそも、第二連隊の勢力はあの日の冬狼襲撃で半分程度削られたはずなのに!」


 月狼が唖然とする。


「むしろそれが好都合だった…ってとこだね。」


「ああ。どうやらあいつはずっと前から第二連隊の基地から空軍基地までのルートをいくつか確保していたらしい。


 そして襲撃によってある程度小規模になった連隊が陸軍基地を離れてそのルートを移動、そしてろくな護衛もない空軍基地を占拠したものとみられる。


 小規模だと運搬費用も少なくて済むからな。」


「あいつ…、無能だと思っていたが、そこまで考えていたのか…。」


「でもマズいよ。いくら隊員の数が減ったとしても、あそこにあった武装装甲車とかは全部そのままだし、それを差し向けられたら国家都市はひとたまりも!」


 グレンが早口で言った。


「その通りだ、諸君。


 そこで、GCAに出動を命ずる。


 全力をもってこの偉大なる共和国を汚すクズどもを一人残らず殲滅せよ。」


「はっ!」


 エミがディスプレイに向けてファシスト式敬礼(親指は折りたたむ)をした。


「健闘を祈る。」


 通信が切れた。


 その後


ピー


 モニターにブルースクリーンが表示された。


「今度は何だ!」


 そしてスクリーンが切り替わり、映し出されたのは。


「幸運にも独房から無傷で脱出することができたみたいだねえ、諸君!」


「「テル!」」


 二人がまさにこれから挑もうとしている男、テル大佐がそこには立っていた。


「君たちにはもう止めることはできない。


 私の計画は何もかもが完璧だ。


 もうすでに計画は七割がた完了し、あとは国家都市中枢に攻め込むだけだ!」


 テル大佐は勝ち誇ったように高笑いを挙げる。


「つまらないことを言うなよ、テル。


 どうせ貴様を殺せばすべては解決するんだろう?」


「さあ、それはどうかな?月狼!


 半年ほど前からこの国を掌握して一党独裁から解放するために数々の用意を重ねてきた。


 軍の編成を練り直したり、あえて殲滅すべき能力者を大量に取り入れたり、空軍基地選挙までの道のりを調べたり、国民の支持を得るために月狼を処刑したりな!」


 大佐は高笑いをあげながら愚かにも長々と自分の計画を話し始めた。


「貴様の処刑と国民の支持の掌握には失敗したが、そんなのどうということはない。


 軍事力で黙らせればすむ。


 私に残された仕事は、あの独裁者を殺し、ただ国家都市を占拠するだけさ!


 まあ、無駄とわかるまであがくがいいさ!」


「口を開くな!害虫が!」


 ライはそう叫んでMP7でプロジェクターを破壊した。


 通信は強制的に切断される。


「何がこの国を独裁から解放するだ。


 ただ独裁者の名前があのクズに代わるだけだろ。」


「どうやらやるしかないみたいですね。」


「そのようだな。


 君たちを再び戦場に活かせるのはとても心苦しいが、総統の命令に逆らうことは許されない。


 必ず生きて帰ってきてくれ!」


「分かりました。」


 三人はそれぞれの武器を持って外に出た。


「あ、ちょっと待ってくれ月狼。」


 エミが月狼を呼び止めた。


「なんですか?」


「君が頼んでた刀の改造の件、ついに完成品が届いた。」


「おお!」


 約束通り2日で完成していた。


「これが実物だ。」


 エミは一振りの刀を渡した。


 元となった日本刀のシルエットは残しつつも、鍔の近くにロックがついていたり、鞘に半導体がついていたりして、かなりメカメカしい外見になっている。


「普段はこのバッテリー付きの鞘で電気を充電する。鞘は太陽光発電するようになっているが、その都合上、夜や雨天の時は充電が切れる可能性があるから注意してくれ。」


「了解。」


「抜刀はロックを外すと撃針とばねの力で自動的に刀が射出される方式になっている。


 普通に抜刀したいときは柄を鞘に押し込めながらロックを解除するといいだろう。


 電源はロックを解除したら自動で入る。」


「分かった。」


 言われた通り、月狼は刀のロックを解除した。


 自動で電源が入り、刀身が淡いオレンジ色を帯びた。


「おお…。」


 月狼は刀を虚空に向けて振り下ろした。


 シュンッという音が虚空に響いた。


「最高だ。」


 月狼が得意げな顔で静かにつぶやいた。


「きっと向こうも喜んでもらえたんじゃないかな。」


「ああ。じゃあ、あのクズを叩き斬ってくるよ。」


 月狼は入り口に向かって全速力で走る。




「機関から逃げる手間が省けたね。」


「ああ。」


「やることはただ一つ。あのクズを殺すこと。」


チャキッ


 ライがMP7に弾を込めた。


「そうだな。」


カチッ


 月狼が刀のロックを解除した。


 刀が鞘から射出され、月狼の右手に収まる。


「邪魔をする奴は全員叩き潰す。


 待ってろ、クズ大佐!」


 そして火が立ち上り始めた戦線に向かって三人は走り出した。




===============




「あのクズが放棄を始めたみたいね。冬狼。」


 サマが機関銃に弾帯をセットしながら言う。


「そうだな。サマ。」


 冬狼は燃え盛る国家都市を見つめながら言った。


「で、どうするんだ冬狼。俺は戦いたくてたまらないんだが?」


 冬狼の近くでライフルの清掃を行っていた少年が声をかける。


「まあまあ落ち着け。盲蛇メクラヘビ


 獲物を一人ずつ狩っていく狩りもいいが、どうせなら集団で集まったところを駆逐したほうが何倍も楽しいだろう?


 と、言うことは介入する瞬間は今じゃない。


 歩兵部隊が進行してからが本番だろ?」


「まあ、そうだな。」


「あれはっ!」


 サマが何かに気づいた。


「そうだな。輸送機だ。


 さすがに地上からだと奇襲性にかけると思ったのか、空中から兵士を投下していくことにしたようだな。」


 冬狼が刀を抜いた・


「ということはっ!」


「ああ!俺たちも早く飛び立つぞ。」


 冬狼がそう言うと、二人の後ろにあるヘリコプターのローターが回り始めた。


「さあ、ここからが本番だ。


 楽しもう。誰の命令も受けることなくただ殺したいだけ人を狩る、何よりも楽しい人間狩りをな!」


 盲蛇がヘリコプターに跳び乗った。


「ええ。あのクズも丁重に料理してやりましょう。それこそ私がやられたみたいに四肢を切断したりして。」


 ライは飛行機に乗った後、銃架のMG3機関銃に弾を装填した。


「ああ。待ってろクズ大佐、そして、兄弟。」


 最後に浮いたヘリコプターに冬狼がゆったりと跳び乗る。


 三人の殺戮者を乗せたヘリコプターが国家都市に向けて飛び立った。


 それを止められるものは誰もいない。


 

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