第11話 悪魔の大佐
目が覚めたら、月狼は独房のような場所の椅子に座っていた。
周りは薄暗く、殺風景な雰囲気を醸し出している。
月狼の近くには数人の兵士が小銃を構えて立っている。
「うぐぐっ!」
有刺鉄線で上半身を縛られ、まともに動くことができない。
しかも袖をまくられて皮膚が露出した腕に刺が容赦なく刺さる。
「くっ!」
振りほどこうとすればするほど、刺は腕に深く刺さり、少量の血液が垂れてくる。
服で覆われた胴体も有刺鉄線の刺が貫通して、体中を刺されながら月狼は悶えていた。
「どこだここは!」
月狼が銃を突き付けてきた兵士に向かって叫んだ
「我々国家都市第二連隊の基地だよ。月狼。」
奥に座っている軍服姿の男が言った。
「誰だ、お前は!」
「初めまして。私は国家都市第二連隊長、共和国軍
「カーネル、テルだとっ!」
何度もその名は聞いている。
戦争中、少年兵を含む数多くの捕虜を拷問して情報を吐かせた後殺し、連邦国軍の間で『悪魔』として恐れられていた男だ。
「このクズがっ!
お前のせいで何人の人が苦しみを味わって死んだかっ!」
「おやおや、君がそれを言うのかい?百人殺しの狂犬が。」
「戦争で敵を殺すのは当たり前だ。だが拷問をするのは本当の鬼畜外道じゃねえか!」
しかしそう言われてもテル大佐は一切動じなかった。
「やれやれ、君は自分の立場というのがわかっていないようだね。」
「何を言ってやがる!」
「そもそも戦争に善悪などというものはない。
あるのは勝者か敗者かだけ。
勝ったものはどのような行為をしようが正当化されるのだよ。
そして私は勝った。君は負けた。
つまり私は英雄で、君は罪人だ。」
テル大佐は淡々と語る。
「何だとっ!」
月狼は叫んだ。
「生意気な子だ。装置を起動させろ。」
「はっ!」
テル大佐の命令で動いた兵士が装置の電源を入れた。
すると。
ジジッ
月狼が縛られている鎖に高圧電流が流れた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!あ゛ああああああああっ!」
「はははははっ!まあ、そう叫ぶなよ。まだ35V程度の電圧しか流していないぞ。」
「ライはっ!ライはどこにいるっ!」
「ライもお前と同じように独房にとらわれているよ。
だが安心したまえ。
あの子はちゃんと自分がどういう状況下に置かれているかわかっている子だ。
お前が余計なことをしない限りきっと無事だろう。」
「どういうことだっ!テル!」
月狼がゴキブリを睨むような眼でテル大佐を見上げた。
「戦争中、彼女はあまりにも現実が見えていなかった。
だからある夜、徹底的に教えてやったのさ。
この世界における子供の立ち位置をな。」
「まさか、ライが言っていた集団暴行って!」
「ああ、私の命令だ。
つけあがった子供には罰が下るということを思い知らせるためにね。
おかげで大人の言うことをしっかりと聞いてくれるいい子に育ってくれたよ。」
「ふっざっけるなあ!」
月狼が再び吠えた。
「やれやれ。電圧を上げろ。電流もだ。」
「はっ!」
再び装置が操作される。
月狼の体により高圧の電流が流れた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!あ゛ああああああああっ゛!あ゛あああああああああああっ゛!」
体中を針で切り裂くような電流が月狼に流れた。
筋肉に直接激痛が走り、腕が切り裂かれたトンボのようにピクピクと震える
「まだ8mA37Vでここまで反応が強いとは。まあいい。用件を伝えるにはちょうどいい。」
「なんだよっ!用件って!」
「お前はすべての国民から恨みを買っている。
だが、何の罰も下っていない。
それは理不尽だろう。
そこで、お前を軍法会議にかけることにした。
お前はここにある罪をすべて検察の前で認めればいいのだ。」
テル大佐は月狼にとある紙を突き付けた。
そこにはこう書いてあった。
『連邦国軍兵士 月狼。
捕虜虐殺。
民間人大量虐殺。
以上の罪を認める。』
全て身に覚えのない罪だった。
「認めるか!こんなもの!」
「素直じゃないな。お前。
ここに書いてある罪をすべて自白してくれれば、お前もライも助かる。
だが、罪を認めなければ、お前だけじゃない。ライも死ぬ。
ま、もし自白したところで、軍法会議で死刑を言い渡されない保証は一切ないがな。」
「くっ!」
月狼は一瞬認めそうになる。
だが
「僕は自白しない。」
「そうか。やれ。」
「はっ。」
再び電圧と電流があげられる。
「あ゛あ゛っ゛!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!」
「さあ、罪を認めろ。」
「嫌だっ゛。」
「まだ罪を認めないのか。
水をかけてやれ。」
「はっ!」
命令を聞いた兵士は月狼にバケツ一杯の水をかけた。
バシャアッ
「ゲホッ!ゲホッ!あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああっ!」
「どうだ、炭酸ナトリウム入りの水の味は。苦いか?」
「苦いしっ…!何だか、よりしびれが強くなってっ、体が、うまくっ、動かないっ!苦いしっ、あ゛あっ!体がっ!焼けるっ!」
電気をよく通すナトリウムを含む炭酸水をぶっかけられたことで、月狼のからだのあちこちを電気が刺激し始める。
月狼の体には、今までの何倍にもなる電流が流れていた。
さらに炭酸が体中の皮膚を刺すように刺激し、実際に流れている電流の何倍もの刺激が月狼の体を蝕んだ。
「さあ、まずはここで認めろ。
認めればライもお前も死なずに済む。
認めなければより強い拷問をお前に施すぞ?」
「ぐうっ!」
(結局どうなったって、僕は死ぬ。
ライが助かるんだったら、もうあきらめて罪を認めて死んだほうがマシだ。)
月狼は口を開いた。
「はいっ、僕がっ、やりましたっ…。」
「はははははっ!ついに罪を認めたか。
この悪魔、畜生、人殺しが!
ま、お前には正義の鉄槌が下る。
その時を楽しみに待つんだな。」
テル大佐は高笑いを挙げた。
月狼の体を流れていた電流が止められる。
「本当にライは助かるんだろうな。」
テル大佐がにやりと笑う。
「ああ。命は助かる。
少なくとも今のところはな。
まあ、あの子にはお前が死んだのはライのせいだってことを教えといてやるさ。」
「ふざけるなっ!」
もう叫ぶだけで精一杯だった。
こうして月狼は完全に関係のない人を大量虐殺した戦争犯罪者になったのである。
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