第27話 メロンパン宣言


「流行ってるから書く、ねぇ。言ってしまえば流行りに乗っかりたいってことか?」


「まぁ平たく言うとそうなるかなぁ。私、まだ書き始めたばっかりだし文章とかキャラクタとかストーリーとか、意見もらいたいところはたくさんあるから、まずは色んな人に読んでもらいたいなって思って」


 確かに流行りものは桁違いに読まれる。


 桁違いに読まれるんだけれども、


「『メロンパン宣言』だな」


「メロンパン? こないだのアイドルグループの話?」


 微かに眉根を寄せる美華に首肯を返す。


「『メロンパンが好き』って個性を出したら人気が出て、他のメンバーもそれに続いたろ。個性を出そうとしたのに、二番煎じが続いて埋没した。あれってそのままなろうでの流行りものが隆盛する構造なんだよ」


「その心は?」


「新しい切り口の物語が流行ると、すぐさまそれに飛び付いて似たようなものが流行る。それが『俺TUEEE』であり『悪役令嬢』であり『追放ザマァ』だ」


 俺の言葉に美華は眉を寄せながらも頷いた。


「それぞれのテンプレートで、どんな点が魅力なのか、どういうところが面白いのかとかを考えずに、ガワだけ真似てる状態なんだよ。本来ならもっときちんと分析して、読者が面白いと思える点を洗い出したり、それをかみ砕いて自分なりにストーリーに取り入れていかないと行けないんだよ」


「じゃあ何でガワだけ真似たのが人気でるのよ」


「面白いと言われたものをほぼそのまま真似てるから、読者に刺さるポイントも真似られてるんだよ。まぁきちんと考えてないから良くない点とかも普通にそのまま入ってるけど」


 そして、そういう作者の多くはきちんと考えないので次回作に生かすことができない。逆に、構造をきちんと分析する人は面白い点をきちんと織り込める可能性が高い。もちろん分析する力やストーリーをうまく作る力も必要だけどね。


「PVもブクマもバグみたいな数字が出るから、おれはすごいぞ、で止まるんだよなぁ」


 200話300話と連載を重ねていき、それでもファンや読者が減らないのであればそれも一つの手だろう。が、そこまで面白くできない人の方が多いのが現状だ。


「だいたい、自分が良さを感じてない物語には熱がない。誰かが作った魅力的なものを真似てるだけだからどっかで見たような『世界観』『ストーリー』『キャラクター』と、埋没する個性のオンパレードだ。どこかで深く感情移入できないと、明日には内容を忘れちまうような話になるだろうな」


 そこに一味も二味も足して自分ならではの作品を作る人が、いわゆる『うまい人』で『面白い作品』になるわけだ。


 それができるのであれば充分にテンプレートを使いこなしていると言えるだろうし、そういうことができる人はテンプレートものを書いても面白いものを書ける人でもある。


「ま、そうやって作られた量産型テンプレートがランキングを占領してると、読者も食傷気味になるだろうし、構造を分析した人からすると『なんであんなのが』ってなってアンチが出来上がる。ネットだと、『テンプレート=面白くない』とか『テンプレート=悪』みたいな意見もあったろ?」


「あった。テンプレは読まない、みたいな人もたくさんいた」


「ありゃそうやってテンプレそのものが嫌いになった人たちなんだよ。元々テンプレって言い換えれば王道だし、古くから愛され、色んな物語で使われてなお捨てられてないってのは多くの読者にとって魅力的だからなはずなんだよ」


 俺の言葉に美華は唇をちょんと尖らせながらも考え込む。


 小さく唸ったり、目を閉じたりと忙しない。自分なりに咀嚼してるんだろうけれど、これだけ表情に出るってのもすごい。


「中村は、結局テンプレは好きなの? 嫌いなの?」


「流行ってるから、とか読まれたいから、ってだけで作られたガワだけのテンプレは嫌い。きちんと構造を分析して作ってたり、『この作品にしかない魅力』が感じられるのは好き。そもそもテンプレってのの定義があいまいだから、ひとまとめにすること自体がナンセンスだろ」


 というか俺が書いているのはそういうものだ。


 もちろん、いつも狙い通りになるわけではないので全然伸びなかったものも多々あるけれど。


「分析かぁ……どうやってやるの?」


 ものによりけり、ではある。


「例えば『俺TUEEE』だったり『追放ザマァ』だったり、分析したいものを見つけたらとりあえずランキングに載ってるのを片っ端から読む」


 あとは共通する構造を探していって、なんでそれが面白いのか、ってのを考えたり、同じく構造的に似てるものを探すってのが俺のやり方だ。


「『追放ザマァ』なら、「お前との婚約は破棄させてもらう!」とか「このパーティから出てってもらおう!」みたいな断罪から始まるよな」


「あっ、うん。それはそうね。それが『共通する構造』ってこと?」


「まぁ有体に言えば。なんで冒頭でそれをやるのか、とか考えてみるといい」


 まぁ分析結果なんて人に変わるものだし、自分が面白いと感じたものを取り入れるのが正解だと思っている。よっぽど変わった嗜好をしてなければ、それに共感してくれる人は少なからずいるはずだ。


「じゃあ何で私のは読んでもらえないのよ」


「面白いところにたどり着く前にブラウザバックされるんだろ」


「はぁ……やっぱりホットスタートが大切ってことね。次は衝撃的な第一話にする。臓物びしゃびしゃパーティーとかにしようかしら」


 誰が面白いと思うんだよそれ。っていうかどういうパーティーなのか欠片もわかんねぇ……いや、俺にそう思わせた時点である意味成功なのか。


「――お、よよ、吉田、さん、だ」


 カランとドアベルを鳴らしながら入店してきたのはどうにも小動物系というか、なんとなくおどおどした雰囲気のある少女。


 不安そうに店内を見回しているが、俺と美華を見つけると破顔してぱたぱたと小走りに寄ってくる。うん、マメシバみたいだ。


「こんにちわ! 今日はすみません!」


「良いわよ、別に。中村も暇だしね」


「おい」


「何よ。暇でしょ?」


「……まぁ」


 ポツリと返せば何故かしたり顔の美華と、それから微妙に嬉しそうな吉田さんが目に映った。


「それで、相談って?」


「は、はい。先輩方のお時間を取って申し訳ないんですけれども、恋愛に関することなんです」


 れんあい……恋愛っ!?


 いや待てよ。年齢=彼女いない歴で、こないだ母親からはついにレジンかファブリックで彼女を作ったらどうか、なんて提案されたんだぞ!?


 そんな恋愛弱者の俺に相談!?


「ちょ、ちょっと待って。私、居て良いの?」


「えっ、是非お願いしたいです!」


「……そう」


 微妙に釈然としない顔の美華。いやお前がいてくれないと俺は死ぬぞ。


 間違いなく死ぬ。


 ……ってそうか。


 そうかそうか。これだけギャルギャルしいムーブをしておきながら実は彼氏なしと。それどころかこの不安げな態度から察するに彼氏がいた経験すらないんじゃないだろうか。


 うん。


 だいたいアニメとかラノベに出てくるギャルってファッションギャルで、実は恋愛下手だったりするし、美華もそんな感じなんだろうな。


「中村、何キモい顔してんの?」


「どんな顔だよ」


「放送禁止一歩手前くらいの顔?」


「辛辣だなおい」


 さりげなくディスってはいるものの、美華が恋愛経験ないのは透けてしまった。もちろん吉田さんの手前、そんなことを言えるはずもないだろうからさりげなくフォローしてやらねばなるまい。


 したり顔の俺をよそに、美華が話を促した。


「それで、恋愛相談って……?」

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