視線の恋
星一悟
視線の恋
僕が本当に初恋をしたのは、中学2年の時だった。
本当に、と書いたのは小学5年生の頃に、転校する女子のことを好きだと母親にいたずらのつもりで喋ったからで、恋とはどんなものか分からなかった。
その人とは中学一年で席が隣同士だったが、まだ意識していなかった。中高一貫校であるため、勉強についていくのに必死だった。
中学2年でその人と目があった。
笑顔になったその人の周りが、僕には誇張でなく明るく輝いて見えた。
好きだ!
心からそう思い、心臓がドキドキと早鐘を打ち、家に帰ってもまだ鳴っていた。
僕が電車で帰るとき、対抗車線の彼女と窓際越しに目が合った。
これは奇跡だと思った。
それから、僕は意気地がなく、告白する勇気と度胸もなかった。彼女と目が合ったが、何度も諦めてしまっていた。
自分にどうしても自信がなかった。フラれるのも怖かった。
背中を押してくれる誰かにあうこともなかった。
一人で胸にモヤモヤと溢れる気持ちを抱えて、高校生になった。
そのうち、その人が誰かと付き合っていると噂がたった。
見てて分かりやすかったのか、友達だと思っていた相手から、「Iちゃんとセックスした。」などと面と向かって嘘をつかれたとき、嘘を嘘と分かっていても心臓をカッターや包丁で切り裂かれた気分になった。
その人は僕と視線が合わなくなった。
高校3年生の時だった。体育祭で、振られていいから僕は告白しようと思った。
そういう噂もたった。
後は告白するだけだ。
やれ、僕。いけ、僕。
遂に、身体は動かなかった。
唯一の親友からどうだったと聞かれ、フラレたと言った。
僕は勝手に決めつけた。
それから、僕は恋をしていない空虚な大人になった。
初恋は視線の恋だった。
色鮮やかに、痛みと共に覚えている。
視線の恋 星一悟 @sinkin
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