チャリーンズ・エンジェル

和泉はじめ

第一幕・天使爆誕(前編-01)

 20XX年、これまで平穏であった世界を震撼させる事件が起きた。

北半球の或る国家間で武力侵攻が行われたのである。

世界各国はウエストサイド陣営とイーストサイド陣営に分かれ、両国の闘いを固唾を飲んで見つめていた。


 当初は世界有数の軍事力を有すると目されていた侵攻国の圧勝と思われていたのであるが、防御国の大統領は自国の存在とブライドを掛けて国民を鼓舞、これにより数週間で決着を見ると思われていたこの事件は長期戦となったのである。

 この時、侵略を受けた『マクライナ国』の『ゼンエンスキー大統領』を敵軍の包囲網から無事に脱出させた者達が居る――




「ほうほう、コレはコレは」

愛用のノートパソコンを開き、その画面を見つめながら頷いている女性が居た。


「依頼主は、ジャクソン・ボードマン。SIS(英国情報部)のお偉いさんかぁ、確かMI-6(秘密情報部6課)の出身だったかなぁ」

その女性は、ニンマリと笑うと足元に置かれたもう1台のパソコンを両足で操作する。


「ふーん、かなり儲かりそう。いっちょ、やって見るかぁ」

両手両足の指がキーボードを叩き、SNSのメッセージが送られた。



〈ヤッホー! 未羽ちゃん、紅蘭ちゃん! どーしても2人に手伝って欲しい事が出来たんで明日の10:00に成山空港で待ってるよ~。もし、来なかったら2人とも誰にも知られたくない秘密の写真が全世界にばら撒かれるからね~。んじゃ、待ってるよぉ!〉



この女性、天才ハッカーとしてその筋では知られた存在である。

又、香港大から広東薬科大へ留学したこともある天才調薬師であると同時に、火薬調合にも長け、電子工学の知識と相まった時限爆弾は解除不可能と各国の爆発物処理のプロも匙を投げる存在である。

それだけで無く、台湾の長袖拳【孫臏拳(そんぴんけん)とも呼ばれている中国拳法の一種】の名手でもあるだけでなく、中国語・韓国語・ロシア語・英語・フランス語・スペイン語・日本語の七つの言語を自在に使いこなし、IQは300を超え計測不可能と言われる多彩な才能から、【十の顔を持つ魔女】とも呼ばれている。

更に、宝石・貴金属に異常な興味と執着を示す事から別名・【暗黒のグリフォン】の異名も持つ、〈ヤミ・イーシャ〉その人である。



 同じ頃・日本――

都内にある某トレーニングジムの一画で、陶器の様な肌の美しい女性と大柄な男性が話していた。


「ミラーナ様の命令とはいえ、この仕事は・・・」

「無視するつもりか? アリス」

「無視も何も、ワタシには別の使命が与えられている。そちらを優先しているだけだ、セルゲイ」

「任務が優先か・・・。だが、大きな問題になりそうだな」

「現役を引退したお前の心配する事では、無いだろう」

「確かにな」


世界各国の外交筋・諜報組織そして、闇組織も独自に動き始めていたのである。




 翌日、9:30過ぎ――


成田空港のロビーで大きなキャリーケースに腰掛けて、人待ち顔の女性が居た。

ヤミ・イーシャである。


「そろそろかなぁ。おっ、来たねぇ」

嬉しそうに微笑むヤミに近づいたのは、ドラゴンの刺繍を施した黒いチャイナドレスを来た女性であった。


「いやぁ。やっばり、来てくれたねぇ。ボクは友情に感謝するよぉ、紅蘭ちゃ~ん!」

大袈裟に涙を拭く演技を見せるヤミ。


「わざわざこんな所に呼び出した理由を早速、聞こうか? ヤミ!」

紅蘭と呼ばれたこの女性、世界の暗黒マーケットを牛耳る組織の中国ブロック・〈萬度〉を率いる〈孫紅蘭〉である。


 元々、養父である孫王文が萬度のリーダーであったが、ある事件で国際司法裁判所に身柄を拘束された為に後継者となった。

ヤミとは広東薬科大の同級であり、師である〈劉月影〉から仕込まれた〈縄鏢や手裏剣・投げナイフ等の暗器〉の腕は師を超える腕前である。

また、広東薬科大で専攻した生体培養の知識から作り出した特殊シートを使い、あらゆる変装を可能としている。


「まぁ、いいじゃ~ん。それより、未羽ちゃん遅いねぇ」

「まだ、待ち合わせには、随分早い」

「いやいや、未羽ちゃんはプロだよぉ。時間前に着いて周囲を確認する位の用心さが

・・・!」

真後ろに人の気配を感じて振り向くヤミ。


「み、未羽ちゃん・・・」

「お前がここに来てから、ずっと真後ろに居た」

2人の会話を見て、微笑む紅蘭。


 この未羽と呼ばれた女性、本名は宇月未羽と言う。

だが、かつて実父が国有地の払い下げ疑惑の証拠隠滅に財務省から国連へと出向させられた際、ある国の内戦地で父を失ったのである。

 幸運にも傭兵・今東拓(こんどうたく)に拾われたのであるが、彼は〈ダーク・コンドー〉の異名を持つスナイパーであり、未羽は拓から様々な技術を会得し、若干14歳でプロのスナイパーとなった。

〈ドルゴ14〉という通り名は、各国の軍や警察では最も危険な人物として知られている。

 

「まぁ、2人共来たって事はぁ。やっばり、アノ写真を拡散されたら困るって事だよねぇ?」

「ワタシには、全く身に覚えがない」

「私も同感だ」

「おんやぁ~。まぁ、良さかぁ! それじゃ、行こっ! 行こっ!」

「行く?」

「何処に?」

顔を見合わせる、紅蘭と未羽。


「東京から、パーランドのメルシャワ・キョパン空港まで11時間30分の旅だよぉ」

「パーランド?」

「旅?」

「だって、今は〈マクライナ〉に直接入れないんだから仕方ないじゃーん!」

「マクライナだと?」

「戦時中だぞ!」

驚く2人の顔を見て満足そうに頷くヤミであった。



※本話は、【アナザーストーリー・テルマエ学園β】の『未羽(ドルゴ14)の章 (其の一~五)』『ヤミ・紅蘭の章 (其の一~四)』 【東京テルマエ学園】『第26話 新たなる陰謀』 【― 混沌の系譜 ― (テルマエ学園α)】『第十二話 弓道・中編 圭の射法(Part 8)』とリンクしております ※



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