陽キャの俺がデスゲームで死ぬわけがない

とおる

第1話 死ぬわけがない

 空に輝く陽があれば、陰はその下にできる。陰は陽がないと認識することすらできない。日陰でこそこそ生きる醜い人間を、俺たちは学校で陰キャと呼ぶ。明るく、美しく、優れた人間を陽キャと呼ぶ。




「次、数学? だりー」


 親友のひでがSNSの美女を見ながら、覇気のない声を出す。


「今日は防災訓練に変わったっつってたろ」


 俺は食堂のチキン南蛮定食を食いながら、秀につっこみを入れる。


「まじ? ラッキー!」


 秀は虚ろだった目を突然輝かす。


「ていうか何でこんなくっそ暑い日に防災訓練?」


 彼女の茉衣まいが呆れた顔で手持ち扇風機の風を強めた。なびくオリーブカラーのショートヘアから、いつもの甘い香りがした。




 八月末、俺たちは短い夏休みを終え二学期を迎えていた。五時間目が防災訓練に変更されたと聞いたのは今朝のホームルームだ。場所は新校舎。家で俺と茉衣が夢中で汗だくになっていた三十日ちょっとの間に全て完成したらしい。久々の制服は窮屈で仕方ない。


「防災訓練で視聴覚教室っておかしくねー?」


 秀が臭そうな赤のスニーカーを脱ぎ散らかす。始業時間の二分前だった。


「何か映像見るんだって」


 茉衣がローファーをシューズボックスに入れ、真っ新な扉をスライドさせる。クラスのやつらがチラッとこちらを見る。しかし目は合わせてこない。


「茉衣ー」


 席の右後ろの辺りから、茉衣と仲の良い桃波ももはが手を振っていた。その近くには希空のああかね壮人まさと、いつものメンバーが揃っていた。


 部屋は大きく、床はやや厚みのある布地のマットだった。椅子は古臭い木製ではなく、座面と背もたれが少しふんわりした座り心地の良さそうなものだった。二クラス分の生徒くらい入りそうな広さだというのに椅子はなぜか少なく、クラス全員がぎりぎり座れるくらいしかなかった。机はなかった。窓もなかった。大きな冷暖房三台。換気口。プロジェクターとして使うのであろう巨大スクリーン。まだ何の汚れもないつるつるとした白壁。洗練されている、と言われればそれまでだが、どこか寂しく、違和感のある場所だった。


「一也、どうしたの?」


 じろじろ部屋の角を眺める俺に茉衣が気づいた。


「見ろよあれ」


 天井にあったのは監視カメラだった。校内でカメラを見かけたことがあるのは校門や駐輪場、そして職員棟の廊下だけだ。いくら新校舎とはいえ、視聴覚教室を映し出す必要があるのか……。謎だった。


「え、きも。見られてんのかな」


 二人で辺りを見回すと、対角の天井にもそれはあった。


 チャイムが鳴った。さっき閉めた出入り口の扉が開いて、大人が入ってきた。


「はい、座ってくださーい」


 知らない、小太りのおばさんだった。防災訓練のために市からやって来た特別講師だと説明された。クラスは珍しく全員出席。部屋が暗くなる。防災訓練の安っぽい映像が流れ始めると、講師は静かに部屋を出ていった。


「だる。俺寝るわ」


 秀が腕組をして俯いた。


「私も寝るー……」


 茉衣も俺にもたれかかって眠り始めた。俺も何だか眠い気がしてきた。


 “避難時のお約束!


 お・は・し・も。


 押さない! 


 走らない!



 死なない! 




 もう、戻れない”




 最後に耳に入った言葉の意味をもう、理解できるほどの意識は残っていなかった。ただ深い闇の中へ落ちていくような感覚だけがもやもやと続いた。無限か、一瞬か。次に目を覚ますことができたのは、遠くから茉衣の声が聞こえたからだ。


「良かった! 目覚ました!」


 椅子に座っていたはずだったのだが、いつの間にか床に倒れていた。随分長い時間眠ってしまっていたように感じる。上体を起こし辺りを見回したが、状況をすぐに掴めない。スクリーンに向かっていた俺以外の三十四人のクラスのやつらは椅子に座ったまま内向きの円形に並べられていた。


「ん……? スマートウォッチ?」


 左腕の違和感に気づき見ると、液晶画面のついた時計らしきものが装着されていた。


「みんなこれ腕につけられてんの! 何か取れないし」


 ベルトは黒で、茉衣にも同じものがついていた。側面に一つついたボタンを押してみても反応はなく、電源が入っていないようだった。


「ねぇ、一也。何かやばくない? 逃げようよ」


 茉衣が不安そうに膝に手を置いてくるので、握ろうとしたその時。


 視界が黒く覆われ、茉衣の手が見えなくなった。クラスのやつらが一斉にざわざわし始める。部屋の明かりが急に落ちたのだ。


 “なんでもバスケットで遊ぼう!”


 闇の中、プロジェクターが起動し巨大スクリーンに映し出されたのはその一言だった。


「はあ?」


 茉衣が苛立ちながらそう言った。俺も同じ気持ちだ。それは小学生の学級だよりみたいな馬鹿にしているようなフォントだった。


 “真ん中に立つ代表者が言ったお題に当てはまる人が立ち上がって、別の席に移動するよ! 隣の席への移動は禁止だよ! 席に座れなかった一人がまた代表者になってお題を言うよ! それを繰り返して、三回真ん中に立ってしまった人がその場で死ぬよ!”


「……死ぬって何?」


「くだらない」


「デスゲームだ……。デスゲームに巻き込まれたんだ……」


 クラスのやつらがわめきだした。


「一也、早く行こうよ」


 茉衣は信じているのか、この場から離れたいようだった。


「趣味、悪。帰る」


 一人で立ち上がったのは茜だった。無愛想に輪から離れていく。


「茜、待て!」


 スクリーンの次のテロップを読み、俺は茜を大声で引き止めた。


 “ゲームのルールを破ること、無理やり部屋を出ようとすること、腕時計を外そうとすること、嘘をつくこと、人への暴力、器物の破損でも死ぬよ! 気をつけよう!”


「何? こんなの付き合ってられねーっつの」


「俺もそうだけどさ! 何かやべーかもしんないじゃん。映像だけでも観てからにしようぜ」


 俺も完全に信じたわけではなかった。しかし、不安を感じさせる条件は十分に揃っている。授業変更してまでの防災訓練。新校舎、監視カメラ、窓のない部屋、知らない大人、眠っている間につけられたスマートウォッチ。あまりに大がかりだ。


「茜、いったん戻ってきなよ」


 桃波も茜を引き止めてくれた。茜は舌打ちしながらもこの場に残ることにしたようだ。


 “腕時計の機能を二つ紹介するよ! この時計はみんなの心拍数や血圧を測定しているよ! 嘘をつくと腕時計がそれをすぐに見抜くよ! もう一つの機能はチームへの加入、脱退だよ! このゲームは一チーム七人、全五チームのグループ戦だよ! チームを脱退する時はフルーツのアイコンを五秒間押してね! 無所属になると他のチームへ加入することができるよ! 加入するには、席が隣になった人と腕時計の画面を五秒間合わせてね!”


 ただのなんでもバスケットではないようだ。テロップで一気に表示されるだけでは理解していないやつもいるのではないかと頭によぎる。そういえば……。


「おい、秀!」


 一番の馬鹿が静かだったのでおかしいと思った。


「へ?」


 寝息をたてているその両肩を激しく揺らすと、やっと起きた。


「起きろ! ちゃんと前の文字読め!」


 “人が死ぬたびに椅子の数を自分たちで減らしていってね! ゲームは最後の一チームになるまで続くよ! 最後の一チームになった時点で無所属の人は死ぬから気をつけてね!  


 さあ、席について!


 椅子の数は三十四! 


 最初の代表者は席につけなかった人になるよ!”


 スクリーンの電源が落ちて、代わりに天井の青白いライトが円と中央に合わせて五個点灯した。席についていなかったのは、俺と茉衣、茜、陰キャ女子の群れ。突然訪れた凍りついたような緊張感の中、陰キャ女子たちは言葉を発さずに我先にと元いた席に座る。


 茉衣は急に俺の顔など一切見ないで席めがけて走っていった。動作が遅れた。残る席はあっという間に一つ。


「お前ら本気? 馬鹿馬鹿しい。そこ座れよ一也。こんなの付き合ってらんねー」


 茜は俺と最後の一席を争うつもりなどないようだった。ゲームから下りる気だ。


「茜、この席に座らないと一回分損することになるんだぞ……?」


 俺は最後の席の前に立って、輪に入ろうとすらしない茜に尋ねる。


「だからこんなゲームやんねえっつの。小学生かよ」


「どうなっても知らねえぞ……」


 俺は遠慮なく席に座る。茜の相手ばかりしていられない。座ると同時にまた照明が消えてスクリーンが作動する。


 “それから、最初の代表者はノーカウントだよ! まもなく腕時計の電源が入るから、お題を二分以内に考えてね! 二分を過ぎると死ぬよ!


 では、ゲームスタート!”


 また照明がつく。完全に主催者に馬鹿にされている。何だか監視カメラの向こうでげらげら笑われている気がした。スマートウォッチの電源が入り、りんごのネオンイラストが正方形の画面に大きく表示された。隣のやつの画面をちらりと覗くと、ぶどうの絵が表示されていた。もしかして、これがチームを表しているのか?


 そして、茜のスマートウォッチからピッと音声が鳴った。


「あ?」


 茜が腕を確認している。


「茜、お題考えてよ」


 桃波が呼びかける。クラスのやつらが一斉に茜の方を見た。


「だからやんねえつってんだろ!」


 茜が出入り口の扉へどすどすと向かっていく。


「茜! 部屋出たら危ねえって!」


 俺の言葉など全く聞かずに扉に手をかけ開けようとしている。


「何で開かねえんだよ!」


 扉を蹴りだした。


「やめろって!」


 必死に呼び止める。茜の方からピピッと音声が鳴る。


「き、君、死ぬよ! こ、これはデスゲームだ! 死にたくなかったら戻れ!」


 普段まともに声も聞いたことのない陰キャデブが茜に大きな声で話しかけている。


「命令してんじゃねーぞ!」


 茜がさらに強く扉を蹴る。幸い、扉がへこんだりはしていないようだ。


「茜! 分かんないけど参加した方がいいよ。二分くらいすぐ経っちゃうよ!」


 桃波も声を張り上げる。三度目の音声が鳴る。


「くっそ!」


 ロングカールの髪を振り乱して走り、輪に戻ってきた。そして茜は部屋中に響く声で叫んだ。


「二年一組のやつ!」


 俺たち二年一組は、茜の号令で一気に動き出した。マットの上を大群がばたばたと交差する。小さな悲鳴や、ちょっとした暴言も聞こえてくる中、俺は何とか近くの席を確保することができた。


「座んじゃねえよ!」


 茜が陰キャ女を怒鳴りつけた。名前は……覚えていない。陰キャ女は茜にびびって席を取られたようだ。茜がその席にどっしり座り込む。陰キャ女は何も言えずに怯えている様子だった。茜に反抗できるやつなんてまずいない。最初の代表者が決まった、と思った。


 ピピピピピピピピピ


 うるさく誰かのスマートウォッチが鳴る。


「え! 俺の何か鳴ってんだけど!」


 秀だった。


「お前何したんだよ!」


 秀に問うが、秀はパニックになっている。


「分かんねえよ! どうやったら止まんだ!?」


 秀はボタンを押したり、振ったりしているが鳴りやまない。なぜだ。秀のものだけがなぜ鳴っている。茜みたいな乱暴なことはしていない。スマートウォッチもちゃんと装着されている。誰かに暴力を振るった様子でもない。何もルールを破っていないのに! 


 ルール? そうだ、ルールだ。秀、あいつは!


「秀! お前ちょっと立ってみろ!」


「え!? 立ったら席盗られんじゃん!」


「いいから立て!」


 秀が言われた通りに立つと、スマートウォッチの警告音のようなものがやっと鳴りやんだ。


「お前、隣の席に移動しただろ」


「お、おう」


 陰キャ女子が秀の後ろを強引に通って、必死に席を確保した。秀が代表者にはなってしまったものの、ルール違反での即死をぎりぎり防ぐことができた。


 今度は秀の代表者としてのタイマーが作動したようだ。


「何かお題考えりゃいいんだよな」


 俺は最初の一分を、秀が寝ていた間のルール説明に使った。


「了解。ありがとな、一也。よっしゃ、ぶどうのチーム絶対勝つぞー!」


 違う、そうじゃない。ぶどうチームが勝つということは、りんごチームの俺が死んでいるということを、おそらく理解していない。


「ってことで……セックスしたことある人―!!!」


 こいつに真面目に説明した俺が馬鹿だったのか?


「こんな時にふざけんなよ!」


 茉衣がキレた。そりゃそうだ。俺は立ち上がった。秀は中央から俺の座っていた席にさっと座った。希空と茜も立ち上がり、遅れて恥ずかしそうに茉衣も立った。他にも何人か陰キャどもが立ち上がって驚いたが、それより意外だったのは桃波が動かなかったことだ。


「桃波? あんたもでしょ?」


 茉衣が桃波の前に立って、席が空くのを待っていた。俺は希空がいた席に移動して事なきを得た。


「桃波?」


 桃波は茉衣と目を合わさずに俯いていた。


「ごめん」


「は? もしかして、桃波……」


「……ごめん」


 茉衣は桃波が動くことを前提に、桃波の元へ向かっていたようだ。茉衣以外の移動は既に終わっている。このまま桃波が動かなければ、茉衣に代表者のカウントが入ってしまう。


「中学の時、したって言ってたじゃん。あれ嘘だったの?」


 千住せんじゅ桃波。姉はモデルの千住葉月はづき。姉に似て美人で大人びている。黒髪ストレートがあんなに似合う子はあまりいないと思う。茉衣と仲良しで俺もつるむようになったが、そんな見栄を張っていたとは。


「ねえ、もう他に席ないんだけど? 立ってよ。ねえ、桃波!」


「茉衣ちゃん。もうやめてあげなよ。答えは出てるよね」


 見かねた希空が茉衣に言って聞かせた。


 ピピピピピピピピピ


 また誰かのスマートウォッチが鳴りだす。桃波のものではない。


「誰!?」


 茉衣が振り返って音のする先を探し当てようとしている。


 ピピピピピヒピピピ


「……真鍋さん?」


 どうやら音の発生源は真鍋まなべだったようだ。


「嘘……嘘だ……」


 真鍋……下の名前は忘れた。生徒会に入っている真面目なやつ。見た目はそれなりに可愛いけれど、別に喋ったことはない。今、警告音が鳴っているということは……。


「真鍋さん、音鳴ってるよ? 立ってよ」


 茉衣が今度は真鍋の前に立ち、見下ろす。


「嫌だ……。してない、私そんなことしてない」


 ピピピピピピピピピ


「鳴ってんだろ! はやくどいてよ!」


「実那! とりあえず動いた方がいい! どうなるか分かんないよ!」


 そうだ、真鍋実那みなだ。真鍋と仲の良い吹奏楽部のやつが動揺する真鍋に呼びかけ始めた。


「おかしい……おかしいよ……。こんなのおかしい……」


 真鍋は警告音が鳴る事実を認めていないようだったが、崩れ落ちるように椅子から降りた。ぼろぼろ涙をこぼしながら、死にかけの老婆みたいに中央へ這っていった。茉衣が座ると、真鍋のタイマーが作動した。茉衣が代表者を逃れられたのはひとまず良かった。しかし真鍋はなぜあそこまで絶望しているのだろう。


「私は……あれを、セックスなんて思ってないから」


 真鍋は俯いたままつぶやいた。誰かに伝えているようにも聞こえる。


「もういい……。何もかも……」


 真鍋が白く細い手足でふらふらと立ち上がる。


「お題。無理やりセックスさせられて処女を奪われた人―っ!!!」


 上を向いて、真鍋が叫んだ。そのまま小さい子供みたいに大声で泣いてゆっくり膝をついた。


「実那!」


 吹奏楽部のやつが真鍋に駆け寄り抱き締める。


「ごめん、私何も気づいてあげられなくて。実那……辛かったよね、ごめんね」


 吹奏楽部のやつの警告音が鳴り始める。そう、このお題に当てはまらないあいつは立ってはいけないのだ。そして、このお題に当てはまるやつはおそらく誰もいない。真鍋はきっと、自暴自棄になってわざとこのお題を叫んだんだ。カウント、二つ。


「いづみ、座って……。いづみは生きて……」


 警告音が鳴り続ける。真鍋の息が荒い。


「何言ってんの! まだ一回あるじゃん。諦めないでよ! 何でもいいから、誰かが立つお題を言って!」


 吹奏楽部の……いづみはぎりぎりまで真鍋を抱き締めた後、元の席に着いた。


「次の、お題」


 真鍋は虚ろな目をしていた。


「最近、真鍋実那の処女を無理やり奪った人ー」


 抑揚のない声色から放たれたそのお題に、クラス全員が固まった。このお題、つまり、この中に当てはまる人間がいる!?


 ピピピピピピピピピ


 誰も動かなかったが、スマートウォッチは正直だ。音の先にいたのは……。


「おい……」


 思わず声が出た。


「お前……」


 秀だった。


 秀が青ざめた表情で立ち上がり、刈り上げたツーブロックの頭を掻く。


「いや……悪い。あれは、お前も同意したもんだと」


 真鍋は何も喋らない。


「ほら、俺の席座れよ。また……このゲーム終わったら話そうぜ。な?」


 真鍋は黙ったまま座らなかった。


「お前……座らないと死ぬんじゃねえの? 次座んねえと、もう三回目だろ?」


「……死んでやる。あんたの前で」


「え?」


「死んでやる! あんたの目の前で死んで、一生恨み続けてやる! こんな死ぬほど恥ずかしい思いさせて!!! 死んでやる!!! あんたを一生呪ってやる!!!」


「実那! だめ!」


 いづみが勢いよくまた立ち上がった。真鍋といづみ、二つの警告音が容赦なく鳴り響く。秀は真鍋の豹変に驚いたのか、何も言わずに立ち尽くしている。


「秀! 真鍋さん座らせろ! ほんとに死ぬかもしんねえぞ!」


 秀に訴えかけるが、秀は行動しない。


「そんなによ……。そんなに死にてえんなら勝手に死ねやクソアマが!!! てめえも気持ち良さそうにしてたくせに今さら被害者面してんじゃねえぞ!!!」


 秀の怒号にクラスのやつらは縮こまった。俺も、いつもへらへらしている秀がこんなにキレている所をあまり見たことがない。


「いった」


 真鍋の様子がおかしい。スマートウォッチをつけている左腕を抑えて痛がっている。やがて腕が硬直し、震え始めた。


「ア……ア……」


 真鍋が全身痙攣を起こしている。そういえば、真鍋の警告音だけいつの間にか鳴りやんでいる。


「やだっ! 実那! 実那! しっかりして!!!」


 いづみは自分の警告音など気にも留めず、痙攣する真鍋に触れる。真鍋が倒れこむ。よく見ると左腕から少量の血が出ている。そうだ、このスマートウォッチだ。真鍋が座らなかったことでスマートウォッチがルール違反と判断したんだ。


 やがて真鍋はぐったりして動かなくなった。自分のスマートウォッチを右手で触ってみる。違う。これはスマートウォッチなんかじゃない。殺人用の凶器だ……。


「いづみちゃん! 戻って! いづみちゃんまで死んじゃうよ!」


 陰キャ女がショックで動けなくなっているいづみを、何とか真鍋から引き剥がして助けた。恨みを買った秀はまた代表者になってしまった。


 非情にもゲームは続く。


 秀は訳が分からなくなったのかなぜか薄ら笑みを浮かべている。クラスのやつらは悲鳴を上げ、この円は今まさにどん底の地獄だ。


 これはやっぱり本当のデスゲームなんだ。人が死ぬんだ。生き残れるのは最後の一チーム。勝たなければ死ぬ。真鍋のようになりたくない。搾取されて、ただみんなの前で犬死にするなんて最悪の死に方だ。


 秀は……悪くない。奪われる方が悪いんだ。俺は、こんなその他大勢の雑魚どもに負けない。俺は奪う側だ。可愛い彼女と親友と、おもしれー友達がたくさんいるこの俺が……。陽の当たる素晴らしい場所にいるこの俺が……!


 デスゲームで死ぬわけがない。




〈死亡〉

 真鍋実那


 残り34人

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