A-003. VS魔王群―絶望―
五年前。
〈ジンカイト〉は躍進し、
当時、
それに対抗するのは各国の軍と冒険者だった。
俺達〈ジンカイト〉も例に漏れず、
すでに最高クラスの実力者が揃っていた〈ジンカイト〉ですら劣勢を強いられた。
『ジルコ! あなたでは役に立たないわ、下がりなさい!』
『そうじゃジルコォ! 死にたくなけりゃあ、後方の援護に回らんかい!!』
当時からギルド最高戦力だったクリスタとゾイサイトにとって、俺は邪魔者以外の何者でもなかった。
俺も必死に戦っていたのだが、この二人の強さはとにかく規格外だった。
クリスタの大魔法は山を消し飛ばし、ゾイサイトの怪力は大地を割った。
闇の時代、
『俺だって――』
そんな気持ちが、ずっと俺の心の中にくすぶっていた。
◇
『彼を戦場に出すのはやめて。守りながら戦うのは骨が折れるわ』
『同意だな。わしも今のままでは気持ちよく戦えぬ!』
俺に対する
『まぁ待て。みんなジルコの銃撃に助けられたこともあるだろう』
『そうだ。ジル坊の射撃センスは知っているはずだ』
そんな時も、ギルドマスターと親方だけは俺をかばってくれた。
『相手が
『その通りですわ。毎回大怪我を負うジルコを治す私の身にもなってくださる? そのせいで戦闘に集中できませんのよ』
クリスタの意見にフローラも同意していた。
腹立たしい物言いだが、俺は何も言えない。
『私も賛成だ。ジルコ殿には前線から身を引いて、裏方で動いてもらった方がいい。大切な仲間を失いたくはない』
ルリも控えめに言ってはくれたものの、同じ意味の言葉だ。
口にこそ出さないものの、他のメンバーも同じことを思っていただろう。
当時〈ジンカイト〉の冒険者は総勢17名。
その中で俺はただ一人、等級B。
冒険者としては
『ブラド。お前が使っている
『難しいな。そもそも
『そうか……』
ギルドマスターと目が合った時、俺は思わず目を逸らした。
次に言われる言葉はわかっていた。
だが、素直に受け入れることは当時の俺にはできなかった。
『ジルコ。すまないが明日から裏方に回ってくれ』
『わかり……ました……』
◇
膠着状態を脱した〈ジンカイト〉は
『俺がいなくても戦場は回る……』
わかっていたことだが、実際目の当たりにするとキツイ。
冒険者となって、家の借金も少しずつ返していくことができるようになった。
しかし、今度は俺自身に対する不満が蓄積していく。
『暗い顔しなさんな、ジルコ!』
『メテウス……』
『お前が傍に居てくれると、いざという時に俺達も安心できるんだから』
『そうかな』
『そうさ!』
メテウスが親友と呼べるようになったのは、この頃だと思う。
『お前の銃の腕は師匠だって認めてる。気を落とすなって』
『だけど、俺は何も成果を残せていないんだ……』
『なんとかなるさ! 今は巡り合わせが悪いだけだって』
『巡り合わせって?』
『最寄りの町で会った占い師が言ってたんだけどさ。人の
『どういう意味だよ。何かの比喩か?』
『人間の未来なんて、常に幸と不幸の間で揺れ動いていて定まらない。今ついてなくても、明日には運が向いてくるかもよ……ってことらしい』
『楽天的な……』
『だから巡り合わせなのさ。気になる女と出会ったり、何か良い物拾ったり、そんなきっかけで何か変わるものもあるって!』
『お前と出会えて、俺は救われてるよ』
『こいつ!』
この時は、裏方も悪くないと思っていた。
俺が戦わなくても、俺より強い奴らが戦ってくれる。
俺は俺の心地いい場所に居ていいのだ、と……。
◇
その後、戦場はエル・ロワの遥か東――アムアシア東部へと舞台を移した。
俺達はドラゴグ帝国の軍に協力し、北上してくる
『敵は大勢力だ。万が一、俺達が撃ち漏らした奴が現れたらお前がキャンプを守るんだぞ、ジルコ』
『わかってる』
そう言って、俺はギルドマスター達を送り出した。
俺はそんなことがあるはずがないと高をくくっていたのだ。
〈ジンカイト〉の精鋭が魔物の一匹でも討ち漏らすはずがない、と。
だが、現実は恐ろしい。
キャンプに現れたのは、よりによって
今でもあの瞬間の恐怖は忘れない。
真っ黒い炎に包まれた顔には、俺を睨みつける赤い
『ジルコ、少しでもいい! 時間を稼いでくれ!!』
背後からメテウスの声が聞こえた。
だが、その時の俺は蛇に睨まれた蛙のように身動きひとつ取れなかった。
向かい合う
『お、お、俺だって……俺だってやってみせる!』
俺は下唇を噛み切り、痛みで理性を取り戻した。
やるしかない。俺がやらねばみんな死ぬ!
なんとかするんだ!!
『うおおおおっ!!』
一歩ずつ歩み寄ってくる
だが、
キャンプに据え置かれた大砲を直撃させても同じことだった。
……そりゃそうだ。
等級A以上の冒険者の攻撃でようやくダメージを負うような化け物が、人間同士の戦争に使われていた兵器ごときで傷をつけられるわけがない。
『ぎゃっ!』
だが、キャンプの非戦闘員は全員逃げおおせた。
時間を稼ぐことはできた。
それだけで、俺は自分の役割を
けれど――
『くそっ。くそっ。くそぉーーっ!!』
――俺はここで終わりかと思うと、悔しさが言葉として口から漏れた。
まだ何も果たせていない。
実家の借金もまだまだ残っている。
何よりも、もっと世界を旅したかった。
……俺の思考はそこで途切れた。
『そこまでだ!!』
その声と、その後目にした出来事に、俺の思考は霧散してしまったのだ。
まるで流れ星のように落下してきた何かが、
『な、なん……!?』
ついさっきまで
白銀の鎧に青いマントを羽織ったその人物は、氷の彫像のように美しい剣を携え、銀色の髪を風になびかせていた。
その人物が振り返った時、黄金に輝くふたつの瞳に俺は見惚れてしまった。
『我は教皇庁より遣わされし勇者なり! 胸に勇気を抱く者あらば、我と共に災厄の渦へといざ! 飛び込まん!!』
その姿は、凛々しく、美しく、神々しい。
何かに例えるならば、それはまさにダイヤモンドの永遠の輝き。
今も鮮明に覚えている、俺と勇者の出会い。
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