原作者も知らないドラゴン

三峰キタル

第1話 極みの冒険

 深夜2時過ぎ、一人暮らしの部屋に一人の男が家で作業していた、それは漫画だ。彼は子供の頃からの夢であった漫画家を目指している、まだ漫画という才能は開花してないが日々努力中である。



「よしやっと持ち込み用の漫画を描き終えた、今日はもう寝てあとで出版社に連絡するとしよう」



 男は電気を消しベッドの中に入っていき数分で眠りについた。



 そして空が明るくなりやがて朝になり男が起きてきた、今は大学在学中のため学校へ行くため身支度をし朝食は家を出ていくギリギリまで寝ていたため取らずに出て行った。



 激込みの満員電車に押し潰されそうながらも大学に着いたがやはり朝食を取らなかったせいか頭がぼっーとする。




 数時間後、クタクタなりながらも講義を受け終えて昼休休憩の時間になったので出版社に深夜に描き終えた読み切りの漫画の持ち込みの予約をすることにした。




「あの漫画の持ち込みをしたいのですけど…名前は中野豊と申します」




 最初の頃は出版社に持ち込みの予約を電話でするたび手汗が出るほど緊張していたが何回かしているうちに慣れた。



 やがて夕方になり今日は全て講義が終わったので今度はバイト先の本屋に直行した。本屋の仕事というのは単に本の陳列や整理だけではなく読者に売れそうだと思った本を推し出したりするのだ、豊はこの本を推し出したら絶対売れるという感覚があり実際に推し出したら飛ぶように売れたという実績もある。




 そしてバイトを始めようとしたきっかけは初めて持ち込みに行った時、編集者にこう言われたからである。




「中野くんはまだ若いからバイトとかして人生経験を積んだ方がいいよ、社会に出ていろんなことを経験していた方が後に漫画に活かされることが多いからね」




 だが豊は「必ずしも経験ではなくても取材して人の話を聞き漫画を描いてもいいのではないか」と言ったが編集者が言うには「実際に自分が経験して描く漫画は人の話を聞いて描く漫画と違い、より臨場感が増しておもしろい漫画になる」と言う。




 そして今日に至るまで本屋でバイトをしている。




 夜中になり今日も何とか一日を終えたという気持ちになりながら重い足取りで家に帰っていった。




 数日後、豊は出版社の前にいた。前に持ち込み用の漫画を描き終えたため出版社に予約していた。今日こそは名刺をもらえることを期待に胸に込め、中に入っていた。




 ビルに入るとエントランスに受付の人がいるので打ち合わせ予定の編集者の名前と時間を言うと応接室に案内された。数分待っていると40代ぐらいだと思われる男性の編集者がやってきた。



 そして軽い挨拶をした所で編集者は持ち込み用に描いてきた漫画を読み始めた。だが豊は描いた漫画がどのように編集者から評価されるのかで不安感が襲いかかりとても編集者の顔を見れずに下を向いてしまった。 「出版社に持ち込みは何度かしているけどこの時間だけは全く慣れない」




 その場所には原稿の紙をめくる音が聞こえてきた、そしたら豊は編集者は自分が描いた漫画を読んでいるという実感が湧いてきており、ますます不安が襲ってきたのであった。




 それから数分しているうちに原稿を読み終えて編集者はこう言った。




「コマの構図がいいね、無駄なコマが無いからテンポよく読めるしメリハリもしているから読者に見せたい部分がよくわかる」



「それに線が綺麗で絵がうまいね、持ち込みは初めて?」




「いえ、何回か出版社に持ち込みに行ったことがあります」




「やっぱりね、どうりでうまいなと思ったよ」




 豊は徹夜で心を込めて描いた絵をプロの編集者に評価され、さっきまでの気持ちとは裏腹にとてもいい気持ちになったがそれも束の間だった。




 「だけどキャラが薄いから感情移入できないね、セリフもそのキャラが喋っているのではなくて作者が登場人物に言わせている感じがして生きているように思えない」




「それで主人公の健介はいじめられ子で自分をいじめてきた人を復讐するという目的はわかったけどちゃんとしたテーマは定められてない感じだから何を伝えたいのかよくわからない」




「例えばこの漫画にテーマを定めるとしたら自分をいじめてきた人を復讐するという目的を通して正義とはなにか、憎しみとはなにかとかさ」




「テーマをしっかりと定めないと「結局何が描きたかったんだっけ?」ってなるよ」 




  その頃、豊は自分が描いた漫画を悪く言われられると普通なら落ち込むが平然していた、それは自分の描いた漫画が編集者に評価が悪かったのは今回が初めてではないからだ。




 数年前から出版社へ持ち込みしているが編集者の反応が悪い方が多かった、なので豊からすれば「まあいつものことか」と思っており深く落ち込むことはなかった。




 それに最初の頃に持ち込んだ漫画の評価よりも今に比べたら断然マシだった。




そのあと、編集者からは細かい指摘を受け今回も名刺を貰えずに出版社を後にした。




 帰り道、自分が描いた漫画を悪く言われたことに深くは落ち込んではいないが全く落ち込んでいるわけではなかった。毎日、徹夜をし大学の休み時間、バイトの少しの間の休憩時間、そして大学のレポートの追われながら漫画を描いてきた豊は熱心に物事を取り組んできたという努力は誰かに認めてほしいという気持ちがあった。




 そして家に帰宅したら物やゴミなどが散らかっていた。最近は漫画を描くことに熱中していたため身の回りのことをほったらかしにしていたため部屋には大量の蛆やコバエが発生しておりこれはやばいと思ったため先ほどの気持ちを入れ替えることも兼ねて部屋の整理や掃除をすることにした。




 部屋には賞味期限が切れている未開封腐ったパンや中にハエが溜まっている飲みかけのペットボトルがありそれを尽かさずゴミ袋に捨てていく。




 数時間後、ゴミなどで散らかっていたきたない部屋はごく普通の部屋になっていた




「よし、部屋は綺麗になったがクローゼットがまだだな」




 クローゼットを開けて見ると一度も整理をしてないためか物がゴチャゴチャしていた、それをひとつひとつクローゼットの外へ出していった。




 中には人から貰ったけど一度も使ってなかった粗品のタオルや買ったのはいいけど一度も手に取ってない本などがあった。



「このタオルと本はネットのフリマに出せば売れるかもしれいなから売ってみようか」



 その後もホコリだらけのクローゼットの中を整理しているとあるものを見つけた。



「あれ、これは」




 そこには中学1年生の時に初めて書いた自作漫画の「極みの冒険」もあった、トーンは貼っておらずベタすらも塗ってないが人に見せられるほどの画力はあった。




「懐かしい、まだ残っていたのか」




  ページをめくると当時は自由気ままに漫画を描いていた記憶が蘇っていく、




 今は編集者からおもしろくないなどのダメ出しの評価をされ続けていた結果、編集者や読者に受けそうな漫画を描くようになりいつのまにか本当に自分が描きたい漫画がわからなくなっていた。



 そのあともページをめくっているとあることに気づいた。




「これ途中までしか描かれてない」




 豊は初めて漫画を描いたのはいいけど途中で描くのをやめてそのまま放置していたのを思い出したと同時にひとつ思うことがあったそれは…




「この漫画の結末はどうする気でいたのか」




 そして豊が一瞬、瞬きをし目を開くとそこには得体の知れない世界の光景があったのだ

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