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 多少は基礎体力がついた今の僕なら、スライムくらい倒せそうだ。


 前回の探索でミューリエが戦った時の様子を見る限り、スライムの動きは遅いし、そんなに生命力も高くない。だから剣の扱いに慣れていない僕でも適当に振り回していればヒットして、倒せるくらいのダメージを与えることが出来るだろう。


 だって切ったり刺したりといった剣の使い方は無理でも、金属の棒で殴るという使い方なら難しくないんだから。


「よしっ!」


 意を決して僕は剣を抜き、スライムに向かって突進していった。予想通り、スライムの反応は鈍くてその場からほとんど動かない。


 そして程なく間合いに入ると僕は剣を振り上げて攻撃を仕掛ける。


「やぁああああああぁーっ!」


 足下に佇むスライムに向かって渾身の一撃。それは見事に命中し、ダメージを与える。へっぴり腰で格好悪い姿だったかもだけど、敵を倒すのが目的だから見た目なんて二の次だ。今はそれでも仕方がない。


 続いて2撃目を加えようと僕は剣を持ち上げ――ようとした時のことだった。


 スライムは体をゴムのように伸縮させ、僕に向かって瞬時に飛びかかってくる。地面を這う時とは比べものにならない速さだ。当然、僕は避けきれない。


 ハッとした時には粘液のような体の先端が眼前に迫り、あっという間に視界の全体が若草色に染まる。


「んぐっ! んっ! んーっっっっっっ!」


 僕はスライムに顔全体を覆われてしまった。引きはがそうとしても油みたいにヌルヌルとしたスライムの体が滑ってしまい、掴むことが出来ない。その体は手のひらや指の間からすり抜け、すぐに元の状態に戻ってしまう。まさに液体そのもの。



 くっ、苦しいッ! 呼吸が……出来ないっ!



 まるで滝壺にでも落ちたみたい。藻掻いても藻掻いても事態は変わらず、息を吸い込もうとしてもスライムが僕の口も鼻も塞いでいて空気が肺に入ってこない。早くスライムを顔から引きはがさないと、僕は窒息死してしまう。


 焦る! 必死になってスライムを掴もうとするけど、何度やってもそれが出来ない!



 う……ぐ……力が抜けて……視界も揺らいで……。



 手から落ちた剣の金属音がかすかに聞こえる。音の出所は足下のはずなのにすごく遠い。目の前も徐々に暗くなってきて……。


「油断したな。スライムは弱いモンスターとして知られているが、密着されたら危険なヤツなのだ。今のアレスは身をもってそれを理解していることだろう。この状態になったら火系などの攻撃魔法で排除するしか助かる手立てはない。あるいは仲間の力を借りるか――」


 ミューリエの素っ気ない感じの声が歪んで聞こえてくる。半透明なスライムの体を通した向こう側に、冷めたような彼女の顔がわずかに見える。少し怒っているような印象も受ける。



 ううん、そんなことはどうでもいい。早く助けてよ……。



 すがるような瞳で彼女を見つめるけど、直後に絶望の底へ突き落とされるような言葉が聞こえてくる。


「私はアレスから手を出すなと言われているからな。明確に助けを求められない限り、何もしない。そういう約束だ」


「……っ…………っ…………」


「おっと、もはや反応も出来ないほどの虫の息か。手足も痙攣しているぞ。……まぁ、これも運命。お前の体は融かされ消化され、スライムの血肉となることだろう」



 ――次の瞬間、僕の意識は完全に闇の中へと堕ちた。



 BAD END 6-1

 

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