マーチャント最強伝説

 中ボス5人とアースセイバーの5人、それぞれが対峙し合っている。

「お前たちはここで敗れる運命なのだ! ゆけ、精鋭たちよ!」

 後方から、敵のボスがヒーローたちに負け宣言をしつつ、中ボスたちに指示を出していた。

「大変! 今度はとっても手強そうよ! みんな、アースセイバーの応援をしてあげて! アースセイバー、がんばって~!」

 司会のお姉さんがみんなに応援を求める。


「アースセイバー、がんばって~!!」

 ミィコは限界まで声を張り上げての声援を送っていた。

 なんだか、こんなミィコ、健気だなってしみじみ思ってしまう。泣けてくる。


「みんな、ありがとう! ボクたちを応援してくれて! みんなの応援のおかげで、ボクたちはこの地球を守ることができる!」

 ライオネールの一人称が『ボク』だったことに、僕はそこはかとなく衝撃を受けた。僕も一人称が僕なだけに、なんだか僕も『僕っていうのをやめようかな』とか一瞬だけ考えてしまう。それをやめたらやめたで、愛唯から色々と心境の変化とか聞かれそうだし、ミィコにも何か言われそうだ。なんだか複雑な気持ちだ。


「さあ、これで終わりよ!」

 ネコッテが得意のきめ技、大爆発魔法の構えだ。

 僕が、『僕』について考えている間に、中ボス戦が大詰めとなっていた。色々見逃したらしい。

「くらいなさい! ゼニクライシス、パワー全開!」

 なんと、ウサギガンティアがゼニクライシスのチャージをし始めた。

『百円』――『千円』――『一万円』――『十万円』――『百万円』――!

「メガクライシス!!」

 ウサギガンティアのメガクライシスが炸裂する! これは舞台上の演出が凄まじい。

 これが、圧倒的課金力というものなのだろう。

 演出が終了すると、中ボスが3人ほどその場に倒れている。


「さあ、塵になりなさい!」

 残りの二人目掛け、ネコッテが決め台詞と共に大爆発魔法を発動させる。

 先ほどのメガクライシスと色違いの演出で、爆音と共に舞台上が煙に包まれている。

 煙の中、中ボスが撤退していくのがチラチラと見える。


 煙が消えると同時に、ボスがヒーローたちを指さした。

「お、おのれ……アースセイバー! 巨大化してお前たちを踏みつぶしてやる!」

 ボスは巨大化しようとしている、フリだ。

「なんだと!? ここで巨大化するだと!? そんなことはさせない! みんな、力を貸してくれ!」

 ライオネールがみんなに呼びかける!

「みんな! ライオネールに力を集めて! ライオネールの名前を呼んであげて! ライオネール!」

 司会のお姉さんがみんなに合図を送る。

「ライオネール!」

 相変わらずミィコは、周りの子供たちにも負けぬ勢いで、真っ先に声援を送っている。


 ――声援に合わせ、ライオネールの大剣が光り輝く。

「くらえ! ルミナスブラスト!」

 ライオネールの渾身の突き技、ルミナスブラストだ! 左手には顔を覗き込ませるように盾を掲げつつ、右手の大剣をくるりと一回転させて一気に突き出す! 正直、カッコいい。あれは僕も使いたいと思う。


 ビーム音の後に、大きな爆発音、そして舞台上にカラフルな煙幕が立ち昇る。

「ぬぉぉぉ! 覚えておれ、アースセイバー! ライオネール!」

 カラフルなスモークの裏で、断末魔とともにボスがついに倒される。


 煙幕が消えるころにはボスの姿はなく、ヒーローたちが決めポーズをして並んでいる。

 そのヒーローたちの後ろで、花火のような特殊効果と効果音からの爆発! ――ドカーン!

 それからすぐに、司会のお姉さんが中央に移動してきた。

「みんなの応援のおかげで、コスモニマルヒーロー『アースセイバー』は、今日も地球の平和を守ることができました! アースセイバー、ありがとう!」

「アースセイバー、ありがとう!!」

 みんなも司会のお姉さん続く――もちろん、ミィコも。

「今日はみんなのおかげで悪に打ち勝つことができた! また、応援しに来てくれよな! ありがとう、みんな!」

 ライオネールがみんなにお礼の言葉を送った。

「みんな、ありがとう!」

 ライオネールに続いて、ヒーローたち各々がみんなにお礼の言葉を送る。

 そして、ヒーローたちは舞台脇に退場していった。


 ――しばしの静寂。

 司会のお姉さんが舞台脇から合図を受け取っている。

「皆さん、今日はご来場ありがとうございました! この後、会場出口にて、アースセイバー全員揃ってのお見送りとなりますので、一番好きなヒーローと握手を是非!」

 帰りにヒーローと握手ができるらしい。

「サ、サトリ! ミコ、ネコッテと握手がしたいです! は、はやく行きましょう!」

 もうミィコは、ネコッテとの握手のことで頭がいっぱいらしい――ミィコは僕のジャケットの袖を引っ張って出口に急ぐ。

「分かった、分かった! そんなに引っ張らなくても」

 会場出口のゲート付近にヒーローたちが並んでいる。

 各々が、好きなヒーローと握手をして、退場していく。

 握手をして、退場する際には、会場スタッフが『ご来場ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております!』と挨拶をしている。

 

 ――僕らの番だ。

 ミィコは他のヒーローには目もくれず、まっしぐらにネコッテの元へ。僕はライオネールの元へ――ルミナスブラストがカッコ良すぎて、ライオネールのファンになってしまったかもしれない。

 ここでのヒーローは無言だ。ヒーローとは、そういうものなのだろう。無言でライオネールに握手をしてもらった。


「ご来場ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております!」

 スタッフに見送られ、僕らは会場を後にした。


「ミィ――」

「サトリ、サトリ! すごく、楽しかったです! また、観たいです! また、一緒に来てくれますか!?」

 僕の言葉を遮るように、ミィコが嬉しさを爆発させている。

「ああ、もちろんだよ。また、観に来ようね」

「うん! 約束ですよ、サトリ!」

 そういってから、ミィコは肉球ぷにぷにロッドでネコッテの真似をし始めた。

 今のミィコは、いつものミィコのとは思えないほどのInnocentイノセントで満ち溢れている。これが本来のミィコなのかもしれない――いや、普段の人を蔑むような表情も、こうした無邪気さの裏返しであり、ミィコは無理に背伸びすることで、自分を大きく見せようとしていることの表れなのかもしれない。だから、こうした無邪気なミィコも、いつもの背伸びしたミィコも、どっちも本来のミィコで変わりないのだろう。

 なんだか、今日のこの時間だけで、ミィコと、とてつもなく仲良くなれたんじゃないかという、僕はそんな気持ちになっていた。


 ミィコの幸せそうな笑顔に、僕は癒され、この瞬間を大切にしたいと、心から思った。

 そして、このかけがえのない笑顔を守るために、僕の力で世界を救うんだ。

 ミィコ、藍里、愛唯――それだけじゃない、銀太も、雪音さんも、三ケ田さんも……たくさんの人の未来を、希望を、こんなところで潰えさせてはいけない。

 

 その時、愛唯からの着信が入る――

「もしもし――」

「さとりん! さとりん!! 助けて! 大変だよ! 藍里ちゃんが、藍里ちゃんが――」

 僕が愛唯からの電話に出ると同時に、愛唯は僕に言葉の弾丸を浴びせてくる。

「ちょっと、ちょっと待って! 藍里がどうしたって?」

「観覧車前の広場! 早く! 急いで! このままじゃ藍里ちゃんが……」

 藍里に何かあったのだろうか? 心配だ。

「分かった! 今すぐ行くから!」

 そういって、僕は電話を切った。愛唯はひどく動揺していたため、話を聞くよりも直接現場に向かった方が早いと考えた。


 ミィコが心配そうにこちらを見ている。

「サトリ、いったい……アイリたちに何かあったんですか?」

 案の定、ミィコは僕に状況を確認してきた。

「いや、それが、分からないんだよ……観覧車前の広場で何かあったみたいだ。急ごう!」

「はい、サトリ!」

 僕とミィコは、愛唯と藍里がいると思われる観覧車前の広場に向かって駆け出した。

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