コスモニマルヒーロー

 この大人気ヒーローたちは、コスモニマルヒーロー『アースセイバー』という戦隊名らしい。

 ヒーローたちは宇宙に蔓延る悪、インベイ団という敵と日夜戦い続けているのだとか。この地球にもインベイ団が襲来したことにより、地球の生命と資源を悪の魔の手から守るため、はるばる宇宙からアースセイバーも地球にやってきたという設定、らしい。

 地球の資源を守ろうとしている……ある意味エコなヒーローなのだな。さすがアニマル超人。


 ――藍里と愛唯が何やら二人でルートの相談をしている様子。

「さてと、さとりん、私と藍里ちゃんは絶叫マシンに乗る予定なんだけど……さとりん、そういうの苦手だよね。どうしよっか?」

 愛唯が困った顔をしながら僕に言った。いつの間に二人で絶叫マシンに乗る約束していたんだろう?

「愛唯、僕は別に苦手なわけじゃない! スリルのためだけに、命を懸けてまで絶叫マシンに乗るものではないといっているのだ!」

 僕は愛唯に、僕の持論を叩きつけた。

「何を言ってるの、さとりん? ちゃんとメンテナンスされているアトラクションだよ?ルールをしっかり守って乗れば、そんな危険なことなんてないはずでしょ? そういう極端な考え方していたら人生つまらないよ! そういうとこ、さとりんは少し、銀太を見習って柔軟な考え方になってほしいなって思う」

 確かに、しっかりとメンテナンスされていて、それでいてルールを守って乗っていれば、その設計上、問題は起こらないのだろう――だが、苦手なものは何と言われようと苦手なのだ。

「愛唯、それは言い過ぎだろう!」

 そう、僕は単に、そういった類のものが苦手なのだ、ただ、それだけだ――愛唯に反論もできない自分がなんとも情けない。

「もう、さとりんは――」

 愛唯はそう言うと、しょげている僕の頭を優しく撫でてくれた。


「あの、二人でイチャイチャされているところ、本当に申し訳ないんですけど、少しの間、別行動でもいいと思います――ミコちゃんは身長制限に引っかかりそうなので、絶叫マシンの類には乗れないと思いますし。なので、さとりくん、ミコちゃんと一緒にヒーローショーを観ていてもらえませんか?」

 藍里が僕ら二人の会話に割り込んできた。ちょっとだけご立腹の様子だが、そこはかとなく、ミィコへの気遣いが感じられる。

「あ、そうですね、ミコ、身長制限に引っかかるほど身長低くはないですけど、そうしてもらえると嬉しいです。実はミコ、乗り物よりもヒーローショーが気になっているのです。なんだか、ミコ、ワクワクします!」

 やはり、ミィコはヒーローショーを見に行きたかったようだ。

「そうだね、それじゃあ、そうしようか」

 僕は藍里の提案に賛同した。

「さとりん、何かあったら連絡するね」

「うん」

 僕らは二手に分かれ、別々の場所へと向かった。


 だが、目的地に着いた僕は、衝撃の真実に驚きを隠せない。

 なんと、ヒーローショーは12時からのようだ――今は11時、まだ1時間もあるじゃないか! それなら、愛唯たちと一緒に行って、絶叫マシンは乗らずに見て待っていればよかった。失敗した! わざわざ別行動する必要があったのだろうか?

「サトリ、待ち時間、どうしましょう? ミコ、そこでソフトクリーム食べたいです」

 ミィコはソフトクリームをご所望のようだ。近くにある休憩所を指さしてそう言った。

「ああ、そこでしばらく時間を潰そうか」

 僕とミィコは、その休憩所に向かう。

 休憩所に到着すると、僕は売店で、ミィコにソフトクリームを買ってあげた。

「ありがとうございます、サトリ。これで――サトリも何か買って食べてください」

 なんと、ミィコはソフトクリーム代だけでなく、僕が何か食べられるくらい多めの金額を手渡してくれた。

「いや、いいよ! そんな――」

「サトリ、四の五の言わずにお金を受け取って何か食べなさい!」

「は、はい!」

 僕はミィコに叱られた。


 ミィコに、僕は半ば強制的にお金を渡され、その足で売店に向かった。

 僕はチラっとミィコの方を見る――テーブル席に座っているミィコは、ニコニコしながら嬉しそうな笑顔でソフトクリームを頬張っている。その姿はまるで、天使の微笑み。

 さて、僕は何を食べようか? よし、ミィコと一緒に食べられる『たこ焼き』にでもしよう。


 ――たこ焼きを手に、僕はミィコのいるテーブル席へと向かう。

 テーブル席に戻る僕は、思いがけない光景を目にする。入場口でもらったパンフレットを見ながら、何かを楽しそうに口ずさんでいるミィコの姿を目撃してしまったのだ。

「黄金タテガミ光り輝く勇者の証ライオネール♪ たくまし肉体誰にも負けない無敵の戦士ゴーティモ♪ マジカルキュートな肉球ウィザードネコッテ♪ ビッグなハート心優しき聖者イヌーイ♪ 今日もがめつくいくよ商売上手なウサギガンティア♪」

 そういえば、ミィコが歌っているこの曲、園内でも時々流れている。コスモニマルヒーロー『アースセイバー』の主題歌みたいなものか。


「お待たせ。ミィコ、なんだか、楽しそうに歌っていたね」

 僕は席に着きながら、ミィコに微笑みかけた。

「あ、サトリ、ヒーローたちのテーマソングです! ミコ、ネコッテが一番好きなのですけど、他のみんなも大好きなんです!」

 ミィコ、こういうのが好きなんだな。ちょっと意外。

「そっか――あ! ミィコ、ちょっと待ってて――」

 僕は閃いた! 僕はたこ焼きをテーブルに置いて、そのまま売店にダッシュした。


 ――売店、土産物売り場。

 これだ!

 やっぱりあった! アースセイバーグッズの中に、ひと際目を引く樹脂製の武器、各種。

 ライオネールの武器は『シシオウケン』という鍔の部分にライオンの顔が彫られている金色の剣に、『シャイニングタテガミ』というライオンの顔をした黄金の盾。

 ゴーティモはトゲトゲがついた大きなウォーメイス。無骨で何の変哲もないのだが、一番強そうな武器に見える。その名は――『鬼こん棒』。

 ネコッテは肉球ウィザードの名にふさわしい、ネコの手が先端についた杖、『肉球ぷにぷにロッド』。

 イヌーイの武器は『カラッカラカッカラ』という黄金色の錫杖しゃくじょうだ。万人に潤いの恵みを与える救いの杖なのだとか。舌を噛みそうなネーミングだ。

 最後に、ウサギガンティアの持つ武器は、『ゼニクライシス』という近未来的要素の強い狙撃銃で、その銃で撃たれた者は、全財産と共にその者の心までも失わせてしまうという、とてつもなく恐ろしい武器なのだとか。しかも、チャージの演出に時間がかかるらしい。

 そのため、最強すぎるウサギガンティア、いつも後方支援で敵を狙ってけん制するだけの役割が主で、実際にターゲットを撃ちぬくのはワンシーンだけという、可哀想なポジションなのである。


 僕はミィコのために、『肉球ぷにぷにロッド』を手に取って迷わず購入した。ちょっとお高いがこの際気にしない。


 僕は肉球ぷにぷにロッドを手に、急いでミィコのいるテーブル席まで戻った。

「ごめん、お待たせ!」

「サトリ、急にどうしたんですが? たこ焼き冷めちゃって――」

「ミィコ、これ、プレゼント」

 僕はミィコの言葉を遮るように、肉球ぷにぷにロッドを手渡した。

「え、あ、サトリ、これ、本当にいいんですか? ミコ、嬉しい……ありがとうございます――いえ、せめて、プレゼントするならば帰り際にしてください! お荷物になるじゃないですか! バカサトリ!」

「あ、ごめん、じゃあ僕が持って――」

 そういって、僕が手を伸ばすと――

「ダ、ダメです! ミコが持ちます! あ、ありがとうございます! 感謝はしておきます! 大事にもします!」

 ミィコは精いっぱい嬉しさをこらえる努力をしていたが、ミィコの抑えきれないほどの嬉しい気持ちはその表情から丸わかりだ。


 ――そうして、冷めきったたこ焼きを二人仲良く食べ始める。

 ミィコがこんなに喜んでくれるなんて、今日は一緒に来てよかったな。

 愛唯と藍里も仲良くやっているのだろうか? 藍里のことだから、愛唯と喧嘩になるようなことはないと思うけど――愛唯に至っては、僕以外の人に本性を見せたりしないので平気だろう。


 なんだか、ミィコがそわそわし始めている。

「サトリ、サトリ、そろそろ、会場に行きませんか?」

「開演30分前か……ちょっと早すぎやしないか?」

「何を言ってるんですか! いい席を確保するためには早めの行動が大事なのです! さ、行きますよ! サトリ!」

「は、はい!」

 ミィコのやる気に圧倒された僕は、ゴミをしっかりと片付けてから、ミィコと一緒にヒーローショーの会場へと向かった。

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