アミューズメントパーク

 愛唯と藍里が改めて自己紹介をしている中、僕は愛唯と藍里になんて言い訳をしようかと考えていた。

「あ、あのさ、僕も愛唯に言おうと思っていたんだけど、タイミングが、ほら、つかめなくてっていうか、なんというか」

 これが僕の、精いっぱいの言い訳だ!

「サトリ、とてつもなく、みっともないです。今までで一番。ミコ、さとりのこと、本当に、見損ないました」

 隣にいたミィコが、きつい一言を僕にぶつけてきた。

「さとりん、言いにくい気持ち、分からないでもないけどね? でも、こういのって良くないよ。事前にちゃんと話しておいてくれないと! 事情は海風さんから聞いたけど……さとりん、海風さんの護衛を政府から任されてるっていうじゃない! ねね、さとりんの能力ってそんなにすごいんだ~? 私、ちょっと気になっちゃうな~」

 なんと、愛唯は怒るどころか、僕のことを誇らしく思ってくれているようだ。

 これは、藍里が僕に気を遣ってくれて、余計な部分は省いて要所だけを愛唯に伝えてくれたおかげだろう。さすが、藍里さんです!

 僕はチラッと藍里の方を見る――しかし、またもや彼女は、僕のことを鋭く睨みつける。え、藍里さん?

「僕の能力――」

 僕が愛唯に能力の話をしようとした途端、藍里が僕と愛唯の間に割り込んできた――

「卯月さん、さとりくんの能力なんて気にしないで、遊園地に行きましょう! さとりくんなんて放っておいてたくさん遊びましょうね」

 うわ、マジか!? あの慈悲に満ち溢れていた藍里が、優しさでできているようなあの藍里が、心なしか僕のことを邪険にしている! マジか!?

「あ~あ、サトリ、可哀想ですね。アイリから完全に嫌われていますね」

 ミィコが僕にとどめを刺してくる。

「マジか……」

 僕はミィコの一言によって、地獄の底へ突き落されたのだった。


「ま、ミコが、二人の代わりにサトリの相手をしてやってもいいですけども! 仕方なく、ですけど。仕方なく」

 ミィコは僕を地獄に突き落として、また引っ張り上げてくる。ミィコらしい表現の仕方だ。

「お心遣いに感謝します!」

 僕は、そこはかとなく丁寧に、それでいて冗談ぽく、ミィコに返事をした。


 ――愛唯と藍里、僕とミィコ、二つのグループに分断されるような形になった。

 ちょっと距離を置きながらも、みんなで駅前から遊園地に向かう。僕とミィコは、愛唯と藍里の後を追うように歩いていた。


 愛唯と藍里は楽しそうに会話をしている。何を話しているのだろう?

 ちょっとだけ、二人の会話に聞き耳を立ててみる。

「アンリさんから、実はさとりが能力者だったってことを聞いたんだけど、もしかして、藍里ちゃんも能力者なの?」

 どうやら、二人は異能超人関係の会話をしているようだ。

「ううん、私は……私自身の能力は、なにもないです」

 藍里は愛唯の質問にそう答えていた。

「そっか、私は自分の能力がよく分からなくて……アンリさんからは『その能力は眠らせておきなさい』って言われてるし……なんか、変だよね」

「そう、ですね……卯月さんの能力は、ずっと眠らせておいた方がいいのかもしれません。でも、いずれ、時が満ちれば――」

 藍里はなんだか意味ありげな発言をしている。

「ええ!? 私も能力を使いたいよ! さとりも能力使えるのに、私だけちゃんと能力使えないなんてズルいよ! 聞いた話によると、さとりの能力は光の翼だっていうし、私もそんなのがほしい! 私も、かっこいい翼がほしい!」

 正直、アユミに襲われていた時に突然僕の背中から出現したあの光の翼、何の役にも立たなかったのは言うまでもない。

 それでも、幾何学的楽園ジオメトリック・エデンでは、あの翼が大活躍だったな。現実世界でも、あんな風に使いこなせるのだろうか?

 ――愛唯は、いずれ僕を殺めるほどの能力に目覚めてしまうのだろうか? 僕の唯我独尊インビンシブルヴァニティですら、愛唯の攻撃を防げなかったというのだろうか? いや、うまく使いこなせなかった可能性も――それとも、前回のループでは、唯我独尊インビンシブルヴァニティをまだ使えなかったのか? ――謎は深まるばかりだ。


「――卯月さん、何があっても、さとりくんだけは、信じてあげてください」

 愛唯の発言の後、しばらく無言だった藍里が、その沈黙を破って愛唯にそう伝えていた。どういう意味なのだろう? 何か裏でもあるのだろうか?

「え、もちろんだよ! さとりのことは、誰よりも信じているから」

 愛唯が嬉しいことを言ってくれている!

 そう答えた愛唯に、藍里は無言のまま、静かに微笑んでいた――


 そうこうしているうちに、僕たちは遊園地の入り口までたどり着いていた。遊園地の入場口で、全員分の入園料をまとめて支払う。

 ミィコが子供料金に間違われそうになったのは言うまでもない。

「やっぱり、間違えられたね、ミィコ」

「うるさいです、サトリ。ミコ、ブチ切れますよ」

 たまにだが、ミィコはブチ切れそうになる。

 一時、激おこのミィコだったが、入場口を通り過ぎると、その表情が、仏頂面から屈託のない笑顔へと変化していった。


 ――さあ、遊園地だ。

 僕ら4人は、入り口の案内板をじっと眺めていた。

 ジェットコースターを始め、大きな船がスイングする乗り物、ゆっくりと上昇して一気に落ちる乗り物、グルグル回る乗り物と絶叫マシンのオンパレードといったところだろう。

 定番の観覧車なんかもあるが――ミィコがヒーローショーの看板を見ながら目を輝かせている。ここの目玉はヒーローショーらしいのだが、ミィコはヒーローが好きなのだろうか?

 百獣の王ライオン超人は、タテガミパラディンの『ライオネール』、爆裂ヤギ超人は、メェースウォーリアーの『ゴーティモ』、アイドル級キャット超人は、肉球ウィザードの『ネコッテ』、煩悩開放イヌ超人は、遠吠えプリーストの『イヌーイ』、欲張りウサギ超人は、ウサギシマーチャントの『ウサギガンティア』――5人? 5匹? 大人気のヒーローたちだ。

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