永遠と無限

 つまりは――エタニティの能力者にはゲノムの拡張化が行われている。だが、インフィニティの能力者は、ゲノムの配列、構造そのものが改変されてしまっている、ということなのだろう。

 ――そんなことが、実際にあり得るというのか?

 

 雪音さんは答える――ミィコに聞かれていた質問、インフィニティの能力者についてを。

「それはね、エタニティの能力者は、人間という生き物に特殊な能力が備わった、いわば超能力者的な位置づけ。インフィニティの能力者は、言葉は悪いけど、悪魔とか、魔族とか、よく言えば、天使? みたいな、要するに『人ならざる者』、という認識なのよ」

「人間ではない、何か……僕は、僕はいったい、何に変わってしまったのだろう」

 なんだか、僕は、心の中が虚しさでいっぱいになってしまった。

「そんな――インフィニティの能力者は人間ですらないということなのですか?」

 ずっと黙って聞いていた藍里が口を開いた。だが、そんな藍里は唖然とし、雪音さんの言葉に驚きを隠せなかった、というような表情をしている。

「……私に言えることは、生物学的な見地なんてどうでもいいのよってこと。私たち、今も、これからも、ずっと同じ人間なの、それは変わることのない事実。誰が何と言おうと、ね」

「ユキネ、サトリ……そんなことって……ダメですよ……」

 ミィコはしょんぼりしている。

 藍里も無言のまま、僕の方に視線を向けてしょんぼりしているように見える。

「それでも、そんなに悪いことばかりではなくて……さっきの話に戻るのだけど――メメント・デブリを記憶として保持できる者はインフィニティの能力者、そうでない者はエタニティの能力者――ということになるの」

 なるほど、さっきの雪音さんの“分かっちゃった”っていう話はここに繋がってくるわけか。

「つまり、インフィニティの能力者には、サトリと同じように何かしらのメメント・デブリが記憶として残っているわけですね」

 ミィコのしょんぼりが、僅かでも希望を見いだした、といった表情に変わった。

「それでも、インフィニティの能力者は『人ならざる者』という解釈なんですよね」

 僕はそれを卑屈っぽく言った。

「うん、まあ、ね……」

 雪音さんも否定はできないらしい。

「サトリ……」

 またもやミィコをしょんぼりさせてしまった。僕はなんと罪深いのだ。


 ――僕はヤギ男のことを思い出した。彼もインフィニティの能力者で、その能力が破損したことにより、能力のコントロールが効かなくなってしまった、ということなのだろう。

 だから、僕もいずれ――

 愛唯が僕を殺める理由、もしかしたら、僕の暴走が原因なのかもしれない。


 みんなでしょんぼりとした空気の中、雪音さんが顔を上げる――

「とにかく! まだ、研究段階で結論も出てないのだから、しょげていても仕方がないの! それより、インフィニティの能力者の可能性と、エタニティの能力者の命令セットの拡張性、これが今後の課題になっていくのよ!」

 雪音さんの言うとおりだ、僕らには可能性がある、インフィニティであろうと、エタニティであろうと。


「あの、僕からも、みんなに聞いてほしい話があります」

 僕は、これから起こりうる未来、愛唯との出来事を話そうと決意した。

「さとり、くん?」

 ずっと黙っていた藍里が、僕の言葉に反応した。

「サトリ、急に改まってどうしたというのですか?」

「うん、雪音お姉さんが何でも聞いてあげるから、話してごらんなさい!」

 みんな、何を言い出すのかと興味津々になりながら、こちらを向いている。


「メメント・デブリ、僕に一つだけ、ハッキリしている記憶があります。1月6日の宵の刻、僕は、僕の親友でもある女性、卯月 愛唯の手によって、その命を落とす可能性が高いです」

 僕がそう言い終えると、みんな驚いた表情をしている。

「サトリ、何を言い出すのですか? あの、メイさんが、サトリを手に掛けるなんて、何かの間違いだと思います。ミコは、少ししか話したことがありませんけど、そのようなことをする方にはとても見えませんでした」

「うん、愛唯ちゃんとは、ミィコと一緒に少しだけ話をしたけれど、全然悪い子には思えなかったよ」

「おそらく、愛唯が僕を殺めるのだとすれば、僕の暴走が原因――」

「違います!!」

 藍里が血相を変えて僕の発言を遮った。

 僕が、『暴走が原因』だと言いかけた瞬間、藍里が声を荒げて否定したのだ。これにはミィコも雪音さんも驚きを隠せなかったようだ。

「ま、まあ、藍里ちゃん、落ち着いて、落ち着いて」

「ア、アイリ、急に、どうされたのですか?」

 突然の出来事に、雪音さんもミィコも、藍里を心配してような言葉をかけている。

「あ、ごめんなさい、急に。私……その、さとりくんの暴走が原因なんかじゃないと思います……それだけです」

 藍里は気まずそうにうつむいた。


 すると、ベッドで横になっていた三ケ田さんが目を覚ます。

「あ、あれ? 藍ちゃん、どうしたの?」

 三ケ田さんはベッドからサッと起き上がり、気まずそうにしている藍里に声を掛け、その横にちょこんと座った。

「ううん、なんでも、ないんです。三ケ田さん、もう、お身体の方は平気なのですか?」

「ああ、少し休ませてもらってだいぶ良くなったよ。あの世界、精神的な負荷がとてつもないな。雪音、無暗矢鱈に人を連れ込むことは、この私が許さないからな」

「それは六花が慣れていないだけよ! この子たちなら何時間だって向こうの世界に居られるんだから! ね?」

「い、いえ、僕は、遠慮しておきます」

 雪音さんの問いかけに、僕は全力で遠慮した。

「ミ、ミコも、遠慮します」

 ミィコも遠慮した。

「三ケ田さん、無理は、しないでくださいね」

 藍里は、僕らのやり取りを全力でスルーして三ケ田さんを心配していた。


「さて、私が眠っている間に雪音が話をしてくれていたみたいだから、異能超人について大方は伝わっていると思う。私も、雪音から、海風博士のことや、ループのこと、能力のこと、雪音の解釈、その他諸々を向こうの世界で聞いてきた」

 三ケ田さんはまだ気怠そうな感じで、みんなに向かってそう言った。

「それでね、六花から面白い話も聞けたのよ。世界のことわりの存在――六花、みんなに話してもらってもいいかしら?」

「世界のことわり、ですか!?」

 僕は、雪音さんから唐突に発せられたその聞きなれない言葉が気になってしまい、三ケ田さんの返事を待たずにそう質問してしまった。

「世界のことわり、それは、『Deus ex machinaデウス エクス マキナ』と呼ばれている存在――」

 僕は、三ケ田さんのその発言に、自分の耳を疑った。

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