メテオフォール、それは…
そして、次の瞬間、僕が目にしたのは――直径100メートルはあろう巨大な隕石が、このダンジョンの天井を貫いて落下してきたのだ。
ただ、頭上から落ちてくる隕石を眺め、耳をつんざく轟音と共に、僕の目の前が真っ暗になるのを感じた。驚くほど痛みがない。
――僕はその時、すべてを理解した……僕の肉体は“ロスト“したのだと。漆黒のドラゴンもろとも……。当然、僕の装備も一緒に。
上空で光に包まれたまま、微動だにしないミィコと藍里は、隕石による壊滅的な被害の影響を受けることがなかったようだ。つまり、あの光の内部は『絶対に安全な領域』なのだ――
結論から、ミィコの能力は僕の能力とは比べ物にならないほどに、破滅的で破壊的な能力だったようだ――僕の霊体が“ロスト”していなくて、本当に良かった……。
――僕の今さっきまでいたであろう場所は、無残な状態へと変貌を遂げていた。
衝突したはずの巨大な隕石は、落下地点から跡形もなく消え去り、先ほどまで広大なダンジョンだったはずの場所には巨大なクレーターだけが残り、その衝撃のすさまじさを物語っていた。
おそらく、あの召喚された物体は隕石のレプリカなのだろう。本物が降ってきて、それが直撃したとなれば、この程度の被害では済まないはずだ……。
――しばらくすると、優しい光に包まれながら上空に浮いていたミィコと藍里がゆっくりと降下してきた。
『サトリ、サトリ、大丈夫ですか!? こんなことになって、本当にごめんなさい――』
ミィコが念話で話しかけてきてくれた。なんだか、こんなにも優しいミィコはとてもとても珍しいぞ! 今の僕は霊体だというのに、ミィコの優しさのおかげで気分がいい。
『いや、ミィコ、あれはすごく良い判断だったと思う! ミィコが機転を利かせて能力を発動させていなかったら、みんな謎のブラックホールに飲み込まれていたんじゃないかな?』
僕はミィコを全力で褒めた。
『えへへ、ありがとう、サトリ』
ミィコは照れながらも喜んでいる。
藍里はなんだか、ショックからなのか呆然と立ち尽くしているように見える――
『ミコちゃん……ヤバい、超ヤバい! すごい! ものすごい! 隕石!』
驚きのあまり、なのか、藍里の語彙力は崩壊していた。
おや? 念話から謎の雑音、というか、叫び声のようなものが聞こえる気がする――
『ああああ! なに? なにこれ!? 君たち、何をしたの!? ミィコ、貴女は能力使用禁止だっていったでしょ!』
『雪音さん!』
タイミングよく雪音さんの登場だ。突然の出来事に、雪音さんもかなり驚いているようだ。
『ユキネ、こんな意地悪なことして、何のつもりですか!? 倒すと発動するトラップとか卑怯です! しかも、回避不能な反則技です! あり得ないです! あれで、私たちがロストしたらどうするつもりだったんですか!?』
『まぁ、まぁ、落ち着きなさい、ミィコ。今からちゃんと説明するから、ね?』
雪音さんは必死でミィコのことをなだめようとしている。
『ユキネ、ミコは落ち着けません。それに、あの漆黒のドラゴンの能力、明らかにおかしいです! まるで、現実世界の能力者を模した存在、異能超人クローンのような――』
『当ったりー! ミィコ正解だよ!』
『ユキネ、そういうノリはやめてください。ミコ、本気で怒っています』
『そうよね……まず、3人には怖い思いさせてしまってごめんなさい、謝ります。そして、これには理由があるんです』
『ユキネ、許しません。その理由ってなんですか?』
ミィコと雪音さんが言い争う中、その会話に入っていけない僕と藍里……。
『もう、ミィコは! あのね、実はジオメトリック・エデンって、能力の解析にも使えるの。例えば、ミィコの能力が発動するタイミングで、ミィコと藍里ちゃんは光に包まれて守られていたでしょ? この世界の“ログ“のようなものによると、あの光の内部だけは”時間が止まっていた”みたい』
『”ログ”ってなんですか?』
チャンスとばかりに、僕は雪音さんに問いかける。
『サトリ、ログっていうのはユキネだけが見ることのできる、この世界の解析データみたいなものだと思います。ミコが使える【アナライズ】のスキルも、そこからのデータを断片的に取得しているのでしょうね』
ログについて、ミィコが説明してくれた。
『解析データですか……なるほど。では、その”ログ”にある、”時間が止まっていた”、というのは?』
僕は続けて聞く。
『要するに、ジオメトリック・エデンにも次元の概念が存在していて、ミィコと藍里ちゃんはミィコが能力を発動した時間、つまり、さとりちゃんから見えているミィコたちは残像のようなもので、実際は過去の時間にそのまま取り残されちゃっているって感じかな。そして、隕石落下後に本来の時間へと戻ってくるってわけ。いわゆる四次元マジック! ――はい、消えました! 種も仕掛けもありません~からの、実は過去の時間軸にそのまま置き去りとなっていました~的な!?』
『は、はあ……そ、そうなんですか』
僕は反応に困った。
『なるほど、ミコちゃんの能力によって、私たちは壊滅する前の次元に留まり、そこから壊滅した後の次元に引き戻されたというわけですね……これは、あの有名なタイムトラベルというやつですね!』
『う、うん、藍里ちゃん、大体そんな感じの認識で合ってる、と思う。実際、時間をスキップしちゃっているわけだからね』
藍里が珍しく、ちゃんと理解している。いや、なんかちょっと違うような気もするんだけど、ま、まあ、雪音さんが合っているっていうんだから、そういうもんなんだろう、多分。とにかく、ミィコの能力がすごいっていうことは分かった!
『ミィコの能力がそんなにすごいものだったなんて……』
僕は気持ちのままに伝えた。
『サトリ、簡単に言えば、神隠しみたいなものです』
神隠し!? ミィコのその言葉に、僕は耳を疑った。
『あ、確かに! ミコちゃんの言うとおり、神隠しみたいだね!』
神隠しとは、何の前触れもなく人が失踪したり、目の前から突然消え去ったりする現象だ。そして、神隠しに遭い、その後、何十年後かに偶然発見された行方不明者は、行方不明になった時と何一つ変わらぬ見た目のままだったとかいう都市伝説も存在する。ふむ、そう考えると、確かに神隠しのようでもある。
『うん、確かに神隠しっぽい』
僕も神隠しという表現が気に入った。
『それでね、ミィコの能力は原則として、隕石召喚と神隠しのセットになっているみたいなのだけど……もし、もしもだよ? 神隠しの部分だけ切り離せて使えたら絶対的な防衛手段になる気がするのよね……』
ミィコの『絶対に安全な領域』が自由に使えるかもしれない、ということだろうか?
『ユキネはその方法に心当たりでもあるのですか?』
『うーん、心当たりね……発動キャンセルすれば無敵時間が残る……みたいな?』
なんだか雪音さんが格ゲーみたいな話をし始めている。
『雪音さん、意味が分かりません。なんですか……それ、なんて格ゲーですか?』
『さとりちゃん、ガードキャンセルすれば無敵時間がある、とかそういう話じゃないのよ! それはさておき! ミィコの能力について、もう一つの仮説――伝説の聖剣、【エクスカリバー】と同じように……剣ではなく、その鞘に真価があるのだとすれば、ミィコの能力は――隕石ではなくて、神隠しこそが真の能力、という可能性も?』
雪音さんの話が、とんでもない方向へと進んでいく。
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