シンギンインザブラッドレイン
港町までは街道に沿って歩いて行けば、そのうち到着するはず、なのだが――いかんせん遠い。半日はかかるらしい。
しかも、旅人や商人を脅かすモンスターも生息しているとか。
それでも、僕らの装備はなんだかんだでだいぶ良いものに変わっている。これなら街道沿いのモンスターも怖くない、はず。
――といっても、僕の武器は『カゲロウ』と『ウタカタ』のままだ。上位武器に変えるよりも特化武器の方が安定するという、ある意味、ファンタジー世界の宿命みたいなものなのだ。それはそれで悲しい。
どうせなら、僕が背負っている魔剣で戦いたいとは思うのだが――それをミィコが許可してくれるとは思えない。
ドラゴンと対峙する時には、否が応でもこの魔剣を使うことになるのだろう。
街道をひたすらに歩きつつ、僕は珍しい薬草を見つけるたびに、それを刈り取っていった。
不意に、モンスターの群れに遭遇したりもする――大きなネズミとか大きな蜘蛛とか、大きなトカゲみたいなのとか、大抵がそんな感じのだ。
港町までのルートに出現するモンスターは、『ティラノサウルス』が生息していた森のモンスターに比べると弱い――だが、群れで襲い掛かってくる。
そのため、町の商人たちは鍛錬を積んだ傭兵を数名雇い、その傭兵たちが比較的高価な武器を使って道を切り開くのだとか。
しかし、僕の『リーパー』スキルはこの数日で、なんと熟練の領域にまで達していた。この程度のモンスターであれば数回攻撃するだけで首が飛ぶ。
ミィコが言うには、敵に攻撃が当たりさえすれば、一定の確率でクリティカルヒットが発動するという――だが、意図的に敵の弱点らしき部位を狙えば、敵はほぼ即死する――わけがわからない。
いや、待てよ――僕が相手の弱点を狙ったという結果すらも、この世界では確率計算の内に入っているということなのだろうか!? そう考えると、なんだか恐ろしいぞ。
――ミィコと藍里の二人が有能すぎるせいで、ある意味、非常にヌルい世界になってしまっている。
例えばの話だ――僕一人だけがこの世界に送り込まれたとしよう。
そして、真面目にコツコツと鍛錬して、威力重視の高価な剣をなんとか手に入れていたとする。
その僕は、街道沿いのモンスターを倒せているだろうか? おそらく、苦戦を強いられて負けるか、勝負にすらならずにボロ負けだろう。
うん、無理ゲーだ。藍里様、ミィコ様、本当にありがとうございます。感謝です。
僕はそんなどうでもいいことを考えつつも、しっかりと先陣に立ち、次から次へと現れるモンスターの群れを容赦なく屠っていく。
だが、一人で戦い続ける僕そっちのけで、ミィコと藍里はパンケーキか何かを頬張りながら、和気あいあいと雑談などしている。
「ミコちゃん、これ美味しいね!」
「そうなんです、アイリ! こっちの世界ではなんでも美味しく感じて……不思議ですよね」
モグモグしながら二人は話している。僕も食べたいんですけど、それ! そう考えながら二人を見ていると――
「サトリも食べたいですか? 仕方ないですね」
そう言って、ミィコは食べかけのパンケーキらしき物を僕に手渡してくれた。
見た目はこんがりふっくら焼きあがったパン。しかし、出来立てのようにフワフワしている。
そうだ、僕は今更気が付いた。この世界の食べ物は何もかもが出来立ての美味しさをキープしている! 朝食のパンとミルク、夕食の骨付き肉、出来立てのものばかりを食べていたせいで気が付かなかった。
――ということは……僕は一つの結論にたどり着いた。
今まで食べてきたものは、すべて作り置きだったのではないか? と――
この世界、時間の概念が現実世界とは異なるようですべてが謎だ。
何かが腐敗することもあるみたいだけど、それは微生物の影響というわけでもないらしい――謎だ。
そんなことを考えていると、突然に雨が降ってきた――にわか雨だ。
だが、この雨、微かに赤みを帯びていて、なんだかとても冷たい雨だ。
気付けば、この赤い雨により、僕らの体力が徐々に奪われていく――これはまずい!
「ミコちゃん、どこか雨宿りでき場所、この周辺にないかな?」
藍里もこの雨の危険性に気が付いたのか、ミィコに安全な場所がないか訊ねていた。
「廃墟になった遺跡のようなものがありますね――でも、危険な場所かもしれません」
「この雨の中にいるよりはマシかもしれない。行ってみようか」
「そうしましょう!」
「そうですね、サトリ」
危険な場所だったとしても、この赤い雨に打たれ続けるよりは幾分マシだろう。
僕らはその遺跡を目指し、北に向かう脇道へと入っていった。
雨はさらに強くなり、容赦なく体力を削っていく。
「ミィコ、この雨、ヤバい、いったい何なんだ?」僕はミィコに弱音を吐いた。
「ミコもよく分からないです。でも、これがうわさに聞くブラッドレインのようですね」
――ブラッドレイン。首都と港町を行き来する商人たちは、この雨をしのぐためだけに、特殊な繊維で編み込まれたレインコートを常備しているそうだ。
「この雨、冷たくて、なんだか痛いです」
「アイリ、もう少しです……」
冷たい雨に体温が奪われていく中、僕らは気を強く持ち、力強い歩みで廃墟を目指した。
――遺跡だ! 脇道からそれた場所に朽ち果てた遺跡がひっそりと佇んでいた。
幸い、モンスターに遭遇することもなく、なんとか遺跡までたどり着くことができた。
さすがに、モンスターであってもこの雨の中徘徊するようなことはしないのかもしれない。
遺跡の外壁は無残にも朽ちているが、地下に通じている階段はしっかりとしていた。
僕らは躊躇うことなく、地下へと続く階段を下りた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます