這い寄る不死には爆裂を

 ――朽ち果てた遺跡の地下。

 ミィコは鞄から小さな箱のようなものを取り出し、その中にある火打道具でランプに火を灯した。

 しかし、遺跡の地下は予想以上に暗い。さすがにランプの光だけでは心許ないようだ。

「サトリ、出番です!」

 ミィコが僕の能力に頼っている!

 僕はミィコの期待を裏切らないようにと気合を入れ、そのやる気を奮い起こした。


 光子照明フォトンランプを発動した! ――が、気合を入れすぎたせいか、少々眩しい。

「さとりくん、やりすぎ、やりすぎです!」

 眩しすぎて藍里に怒られた。

「サトリ、いいとこ見せようとして失敗しましたね」

 なんだかショックだ。

 僕はショックを受けながらも光量を調節した。光り輝く球体をそのまま手から宙に浮かせるような感じで解き放つと、僕の近くでフワフワと漂うようになった。

 僕が移動すれば光もまたついてくる。これはとても便利だ。


「さとりくん、バッチリです!」

 調整した明るさに、藍里もご満悦の様子。

「サトリ、よくできました」

 失敗は成功のもと。二人にとても褒められて僕も上機嫌だ。

 僕は上機嫌のまま、辺りを見渡してみる。地下はしっかりとした造りで、いくつかの部屋に分かれていてわりと広い。奥の方には、さらに地下へと通じる階段があるようだ。

 しかし、さっきから誰かに見られているような何か薄気味悪い感覚とともに、謎の異臭が微かに漂ってくる。

 僕は嫌な予感がしていた――


 そう、僕の嫌な予感は的中した――部屋の隅にうごめく、無数の人影。

 間違いない、そいつらはアンデッドだ! 光が苦手なのか、こちらを警戒しているのか、どちらにせよ、僕らに襲い掛かってくる様子は、まだない。

「ミィコ、アンデッドたち――」

 そう僕が言いかけたところで気付いた。ミィコはガクガクと震えながら僕にくっついている。藍里もそれとなく、僕の方へ身を寄せている。

「サトリ、離れないでください。ミコから離れると――サトリが危険なのですからね!」

「さとりくん、なにかいますね、ここ……」

 二人はとにかく得体の知れない何かから離れたい、といった感じだ。

「とりあえず、下の階に行ってみようか」

「本気で言っているのですか、サトリ!?」

「ここにいるよりも、いいかなって」

 僕の好奇心がほんの少しだけ恐怖心に勝った結果、下の階にも行ってみたいという気持ちが強くなっていた。

「うん、さとりくんの言うとおりです。ここに留まるよりはずっといいのかも……」

「アイリ、多分、下の階にはもっと別の“何か”がいます」

「え、本当に!? それはちょっと……」

 二人は弱気になっていた――だが、ここに留まっていても危険だ。様子を窺っているアンデッドたちが、今にも僕らに襲い掛かってくるかもしれないのだ。

 それに、下の階にはすごいお宝が眠っているかもしれない!

「大丈夫だよ。いざとなったら僕が守るから」

 気休めに僕はそう言った。

 だが、根拠のない大丈夫ほど当てにならないものはない。僕は知っていた。

「仕方ないです……行きましょうか、サトリ」

「ちゃんと守ってくださいね」

 

 ――下の階は重苦しい空気に満ちていた。僕は直感した! 下の階に進むという僕の判断は間違いだったのだ、と。

 上の階から唸り声のようなものが聞こえてくる。おそらく、階段の周りはアンデッドによって取り囲まれている。


 アンデッドたちが襲い掛かってこなかったのは、まさにこれが狙いだったのだろう。

 アンデッドの罠に引っかかってしまった僕たちは、完全に逃げ場を失ってしまった――退路を断たれた。これはある意味、絶体絶命だ!

 藍里とミィコの視線が僕に突き刺さる。これはアンデッドより怖い気がする。

「サトリ、完全に判断ミスでしたね」

「さとりくん……」

 二人の視線に耐えきれず、いたたまれない気持ちになっていた僕は先に進む決心をする。

「退路は断たれた! さあ、先に進もうではないか」

「あ、サトリ! 責任逃れですか!?」

 僕は強引に進み始めた。二人はいつにもまして近い。身動きが取れなくなるほど近い。

 だが、くっつくな、などと口が裂けても言えない。


 しばらく進むと、大きな墓石のようなものが目に入った。なるほど、ここは地下墓地なのだろう。

 周辺の床をよく観察してみると、その墓石を動かしたような痕跡が――

「これってやっぱり――墓石の下には隠し階段! とか、そういうやつ?」

 それとなく二人にそう聞きながらも、僕は二人の返事を待たずに墓石を動かそうと試みていた。

「そのようですね」

「お宝の予感ですね!」

 怯えていた二人も、これには少し興味がある様子。

 ビクともしない。というか、何かの仕掛けで動くのでは? 僕は疑問に思い始めた。

「さとりくん、私も手伝います!」

 藍里も墓石を押し始めた。

「仕方ないですね。ミィコも手伝います」

 肉体労働嫌いなミィコも墓石を押し始めた。

 二人と一緒に墓石を動かそうと頑張ったものの、やはりビクともしない。

「なあ、これ、動かすための仕掛けがどこかにあるんじゃないか?」

 僕がそう言うと、二人とも『うんうん』と頷き、部屋の中をみんなで探索し始める。

「これ、このレバー! 怪しいです!」

 藍里が怪しいレバーを見つけて、返事を待たずに動かした。

「アイリ! ちょっと……ちょっと待つのです!」

 “ガシャン”という音とともに部屋の奥にある鉄格子が開いたようだ。

 

 何か、薄気味悪い唸り声のようなものが聞こえるような気がする。

「ううぅぅ……おおぉぉぉ……」

 ――すると、地の底から這い出てくるかのようなうめき声をあげ、その部屋の奥からアンデッドの群れが溢れ出てきた。

「え、ええ!? ごめんなさい、ごめんなさい!」

 藍里はその光景に戸惑いつつも、状況を悪化させてしまったことに対して謝っていた。

ミィコは僕にくっつきながらも、その光景に呆然と立ち尽くしていた。そのミィコの表情からは、いつもの聡明さがいずこかへと消え去っていた。


 だが、しかし! 僕は確信した! あの鉄格子の奥に墓石を動かす仕掛けがあると!

「藍里、ナイス! あの奥に僕たちの求めた答えがきっとある! この先に進むための仕掛けがその部屋に!」

「サトリ、意味わからないこと言ってないで、このアンデッドたちの対処方法を考えてください!」

 ミィコは怯えながら怒っている。


 すると、藍里が杖を構えながら僕らの前に――

「さとりくん、私の杖には爆発するルーン石がチャージされています! これでアンデッドを退治します!」

 藍里は――やる気だ! いつになく本気の彼女のその眼差しからは、普段の藍里とは比べ物にならないほどの気迫を感じる。

 見える、僕には見えるぞ――愛理から立ち昇る、黄金色に輝く神々しいオーラが!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る