妖刀に魅入られて
――藍里が僕に、あの変な薬を飲ませようとしている。
「あの、藍里さん、こんなもの、飲ませないでください……」
僕は全力で拒絶する。
「さとりくん、大丈夫です。これは生命力と引き換えに身体能力を限界まで引き出す秘薬なのです。これさえ飲めば、クリティカルヒット率だってすっごい上がります! きっと!」
藍里は謎の薬を強引におすすめしてくる。
「本当ですか……まあ、藍里がそこまで言うなら――」
「私は、さとりくんに嘘はつかないです。今までも、これからも、約束です」
藍里が真剣な眼差しで、僕にそう伝えてきた。こんな時でも、そんな風に言われてしまったら、僕はもうそれを断れないじゃないか。
――僕は藍里から謎の液体が入った小瓶を受け取り、一気に飲み干した。
僕の『チャクラ』が解放され、潜在能力を解き放った肉体からオーラが立ち昇り、眩い光に包まれた――ような、気がした。
実際、見た目上の変化は特にない。
「すごいです、サトリ。回避能力とクリティカルヒット率がメチャクチャ上昇しています! 薬の効果が切れる前に立ちふさがる敵をすべて薙ぎ払って、そのままネームドまで一気に片付けるのです!」
「それってまるで、どこかの無敵モードみたいな――」
「四の五の言わずに行くのです! 時間を無駄にするなです!」
ミィコが僕を焚きつける。
「は、はい!」
「さとりくん、頑張ってください!」
明らかに強そうなモンスターたちが、僕に群れなし襲い掛かってくる――僕は必死でそれを薙ぎ払う。
瞬く間に敵が溶けていく。それはまるで、バターのようだ。恐るべし――謎の液体。
二刀流の扱いが次第に上手くなっていくようにも感じる。
格上の相手を倒しまくっている影響なのだろうか? 身のこなしが軽やかになり、複数の相手を一撃で仕留められるようになってきた。
「サトリ、異様な速さで成長していますね……これは、ミコ的に予想外でした」
「あ、このモンスターから剥ぎ取った素材、高く売れそう! こっちの素材は調合に使えそうかも……」
藍里はミィコの話そっちのけで、僕が倒したモンスターから素材を一生懸命に採取している。
「――サトリ、気を付けてください!」
クエストの討伐対象をミィコが捕捉したようだ。
「右から――来ます!」
ネームドモンスターだ! まるでティラノサウルスのような、大きな恐竜型モンスターが僕ら目掛けて突進してきた。
その突進攻撃は衝撃波を伴い、僕らを吹き飛ばした。
僕は咄嗟に、藍里とミィコを庇っていた。
「サトリ、もう一撃、来ます!」
僕は相手の攻撃を引き付けた――が、回避が間に合わない。
突進だけはすんでのところで避けることができたが、ネームドはすかさず鋭い爪で追撃を入れてくる! 僕は咄嗟に、両手の刀で爪攻撃を受け流した。
運が良かったのだろう……おそらく、次はない。
「さとりくん、サポートします!」
藍里はそう言って、爆発する杖に何やら薬品をいくつか巻き付けている。
それをネームドに向かって投げた。
その光景はまるで、犬に『取っておいで!』と、棒を投げる飼い主といったところだろう。
――案の定、ネームドはその杖を牙で受け止め、噛み砕いてそのまま飲み込んだ。何も起こらない。
「サトリ、何やら溜め攻撃のような構えをしています! 致命的な一撃に備えてください!」
呆然と杖が噛み砕かれて飲み込まれていく光景を見つめていた僕は、ミィコの指示によって我に返った。
だが、なぜか体が思うように動かないことに気が付く。
「え、いや、無理! もう、無理!」
僕は諦めた。薬の効果が切れたのか、このまま崩れ落ちそうなくらい消耗しきっている。僕の生命力とスタミナは、ほぼゼロだ!
ネームドモンスターは溜めモーションで硬直している。
炎なのか冷気なのかレーザーなのか、明らかに危険な何かをこちらに向けて吐き出そうとしている、が――どうしたことか、そのままぐったりとしてしまった。
「薬の効果が出てきたみたいです! さとりくん、今です!」
なんと、藍里の調合した薬を体内に取り込んだことによって、敵は身動きが取れなくなっていたのだ。
こうなることを藍里は予測していたのだろうか? それとも、本当は当てるつもりで投げたものを食べられてしまって、はからずも結果オーライみたいな状況なのだろうか? あざとく可愛い藍里説がここにきてまたも浮上することとなった。
「サトリ! 何をやっているのですか! トドメを刺すのです!」
「あ、そうだった!」
――僕は全力でネームドの首目掛け、二本の刀を交差させながら一気に薙ぎ払った。
僕の全力により、『ティラノサウルス』の首が見事、上空に吹っ飛んだ。
終わった――終わったのだ。
僕たちは、討伐ターゲットを狩り取ることに成功した。少々無謀ではあったが、無事に勝利を収めることができた。
結局、『ネームドモンスター』なのに、名前すら知らずに倒してしまったようだ。僕的に名前を付けるのであれば――『ティラノサウルス』。
残念ながらこのモンスターに対しては、ティラノサウルスという呼び名が最もしっくりくる、とともに、僕の中ではその呼び名が定着しつつあった。
そんなことを考えつつ勝利の余韻に浸りながらボーっと突っ立っている僕。
その横で、藍里は目をキラキラと輝かせながら、ティラノサウルスを解体して素材の採取を行っている。逞しい。
ミィコもいやいやながら、藍里の採取作業を手伝っているようだ。
あらかた素材を採取した二人は、ボーっと突っ立っている僕の近くに駆け寄ってきた。
「サトリ、よくやってくれました! ミコ、サトリのことをちょっとだけ見直しました」
「さすがです、さとりくん!」
「いや、ミィコと藍里のおかげだよ」
二人に褒められつつも、疲労しきった僕は、疲れ果てた声でそう呟いた。
――こうして僕らは、鞄いっぱいに素材を詰め込むと、首都に向かって歩き始めた。
帰り道、僕は藍里から手渡された怪しいポーションを飲むことで、首都までの体力は何とか確保できた。
僕の背負っている大きなバックパックに、ティラノサウルスから採取した素材をこれでもかというくらい詰めてこまれ、僕がそれを荷馬のごとく運ばせられたのは言うまでもない。
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