アイアムニンジャメン

 僕の横にミィコと藍里が立って、一緒に『ニンジャソード』の棚を眺め始めた。

「これ、カッコいいですよ! さとりくんにピッタリです!」

 藍里は、ニンジャソードの棚とは別の場所に飾られている、太刀のような両手剣を指さして言った。藍里は間違いなく、見た目重視で武器を選んでいる。

「うん、確かに見た目はいいです。でも、ひ弱なサトリでは、一振りしただけでスタミナが切れて動けなくなるでしょうね。それに、肝心の性能ですが……攻撃範囲の広さと、その重量による一撃の重さに特化している武器のようです。その分、クリティカルヒット率は大幅に低下してしまうようですね」

「なるほど。でも、片手刀よりも両手刀の方が、ズバっとモンスターの首を断ち切れそうな気がするのだけど、そういうものでもないのかな?」

 僕は、ミィコにちょっとした疑問を投げかけてみた。

「ミコもそう思うのですけど、この世界では威力や重量よりも、武器特有の性能が重要みたいですね。例えば――こっちの小さい刀、『ヨミ』って言う名前みたいですけど、これは非常にクリティカルヒット率が高いです。むしろ、一点物のレアアイテムのようですね」

「価格は……ええと――金貨20枚。いや、無理」

 僕は金額の高さに驚愕した。

「うん、うん、これはお高いですね!」

 藍里も金額の高さに驚愕した。


「残念ながら、ミコたちの予算では、クリティカルヒット率は『ヨミ』に匹敵するほど高いけれど、”普段はまったく切れないなまくら刀”、みたいなのしか買えないです」

「それって、使い物になるの?」

「そうですね――サトリ、その”なまくら刀”を1本ずつ両手に持ってもらえます?」

「こう?」

 僕はミィコに言われた通り、『カゲロウ』という名の刃渡り80センチメートルほどの刀を両手に持ち、二刀流のように構えた。

「ふむふむ、なるほど、なるほど。片方を『ウタカタ』という刀に持ち替えてみてください」

 ミィコは何かに気付いたのだろうか?

「こうかな?」

  僕は左手に構えていた『カゲロウ』を戻し、刃渡り60センチメートルほどの『ウタカタ』を手に取った。

「サトリ、分かりました! 別の名称の武器ならばクリティカルヒット率が重複します! それは『カゲロウ』よりちょっと性能が劣りますけど、もう片方の手に『ウタカタ』を持つことによって、クリティカルヒット率がちゃんと実用範囲内に収まります!」

「ちなみに、クリティカルヒットの確率で言うとどのくらいなの?」

「サトリのスキルと合わせて、大体20パーセント前後です。『ソード』と『リーパー』のスキルを鍛えることで50パーセント程度まで引き上げられそうです!」

「5回に1回の確率でネームドとやらを倒せるのなら……やれる気がしてきた!」

 逆に、5回も攻撃を当てなければならないという問題点については、この際だから無視しようと決めた。

「そうですよ、サトリ! ネームドだってやれます! ただし、1撃でも被弾すれば、致命傷か、もしくは即死、でしょうね」

「マジか……」

 やっぱりそうなりますよね。僕の決意は一瞬で揺らいだ。

「マジです。頑張ってください、サトリ」

 僕はそんな現実にげんなりした。


「さとりくん、二刀流とかカッコいいですね~! 頑張ってください!」

 げんなりしている僕に、藍里が励ましの言葉、というか、フォローを入れてくれている。

「はい……ありがとう、藍里。ちなみに、ミィコ、ちょっとした疑問。その能力とかスキルとかの数値ってどんな風に見えるの?」

「ミコも、よく分からないんです。『何となくそんな感じ』みたいな、明確な数値ではなく、そんな曖昧なデータ的ものが、ミコの頭の中に浮かぶだけです」

「え、それって信用できるの?」

 僕はミィコがあまりにも適当なデータに基づいた判断をしていることに対して、不安になった。

「サトリ、この世界でスキルは絶対です。間違いないです!」

「わ、分かりました……」

 ――なんとなく、不安だ。


 こうして僕は、『カゲロウ』と『ウタカタ』を手に入れた。

 それと、二刀流用の『ソードベルト』も手に入れた。

 僕は、『カゲロウ』と『ウタカタ』を左右の腰に一本ずつ帯刀して、それっぽい見た目になったことを少しだけ喜んだ。


 ――最初は、雪音さんの気まぐれに付き合って、仕方なく協力しただけのはず、だった――でも、そんな僕は、この世界のことをなんだか楽しいとさえ思い始めている。

 おそらく、この世界でいう8日後には、僕たちはもう、現実世界に戻っていることだろう。

 儚くとも美しい、この世界を象徴するような名前を持つ二本の刀。この世界での暮らしがほんの僅かな間だとしても、その時間と共に、これらも大切にしよう。

 そう、僕は思った。


 そんなこんなで、ミィコも十字架の鈍器がとても気に入ったらしく、僕の武器と一緒にそれを購入していた。

 武器屋での買い物を済ませた僕らは、そのまま魔法店へと向かったのだ。


 藍里は魔法店で購入したルーン石を手持ちの杖に組み込み、それで敵を叩くと爆発する危険な武器を作り出していた……。

 もしかすると、藍里にガラクタを渡せば、色々と組み合わせて武器にでもしてもらえるのかもしれない。

 それからしばらくの間、藍里は店から錬金器具を借りて薬の調合をしていた。

 奇妙な色のついたポーションをいくつも作っている。毒々しい色の液体……僕があれを飲むのだけはご遠慮したい。


 ――次は防具屋に向かう。


 僕は、手ごろな価格の冒険服を選んだ。

 この服の内側は、頑丈そうな革鎧と、軽量な鎖で編み込まれた鎖帷子くさりかたびらの二重構造になっているようだ。

 藍里とミィコは、見た目重視な感じの冒険服を選んでいた――そんな防具で大丈夫なのか!?


 ――こうして、冒険の準備が整った僕らは、首都を出て、ネームドモンスター討伐へと向かったのだ。

 

 討伐ターゲットの生息地は首都の南側に位置し、その場所はおどろおどろしい植物が生い茂る密林のようだった。

 ここのモンスターたちは明らかに……計り知れない強さを感じさせる。

 危険だ――僕の直感はそう告げる。

 


「あのさ、ミィコ、前金は他の方法で稼ぐとして、このクエストはキャンセルしよう、そうしよう!」

 僕は怖気づいた。正直、ネームドどころか、この周辺に生息する通常のモンスターにすら勝てる気がしなかった。

「サトリ、安心してください。この世界は一撃必殺、やるかやられるかの世界なのです! 生命力なんて飾りなのです!」

「そうです! 生命力なんて、飾りなのです! さあ、さとりくん、これを飲んでください!」

 ミィコに続いて、藍里も無茶なことを言い出したと思えば、あの、毒々しい色をした液体の入った小瓶を差し出してきた。

 藍里さん、それだけは、それだけは勘弁してください――

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