忘却の戦士

ナギサ コウガ

1 忘却編


 じんわりと湿った地面の感触で目が覚めた。

 ここはどこだ?

 ゴツゴツして感触が良くない。俺、なんでこんなところで寝ているんだ?

 周りはうるさいし。

 うるさい?

 変な声がする。なんだ?

 どうなっているんだ?

 

 思わず目を開けて周囲を見渡す。

 

 愕然とした。

 目の前の光景が信じられない。

 何で?

 

 いや。そんな場合じゃない。

 このままだと俺は殺される。

 慌てて体を起こす。それでやっと気づいた。

 

 俺・・・多分気絶していたんだ。

 防具を装備しているし。

 皮鎧だろうか、体にぴったりと合っている。所々金属のプレートが埋め込まれているようだ。

 手には短めの剣を握っているし。血がこびりついているのが生々しい。

 ・・・やっぱり戦っていたんだよな。

 

 いや、そんなことはどうでもいい。

 と、ともかく目の前の現状から逃げないと。

 

 冗談じゃない。

 このままだと死んでしまうだろうが!


 なんなんだ!

 

 この・・・・目の前にいる二足歩行の豚は?

 骨みたいな武器を持ち、妙な防具を装備している。

 そんなヤツが目の前にいるんだ。

 

 一体、どうなっているんだ?

 とにかく逃げないと。

 

 剣を構え威嚇をしてみる。

 ・・・ダメだ。全く動じていない。

 気絶していた俺をカモと思っているのか。自分達の格が上と思っているのか。俺・・弱いのかも。

 

 やっぱり逃げよう。

 

 そう思った時に後頭部がチリチリする。

 なんだ?

 よく分からないけど俺の背後にも何かいる感じがする。

 少しだけ後方に目線をむける。同じ豚が一体いる。こっちも俺に向かってきている。

 

 挟み撃ちだ。

 他に豚は・・・いない。と、思う。

 あくまでも目で確認したレベルだけど。

 これ完全にピンチだね。

 

 もう最悪な状況だ。だって、誰かは知らないけど近くに人間が二人倒れている。

 体がねじ曲がっていたり、血まみれになっているぞ。あれじゃ生きていないだろう。多分、あの豚達に殺されたんだ。そもそも俺も血まみれだ。

 それにしても、この二人の事を俺は全く思い出せない。

 もしかして俺、その二人を助けようとして返り討ちに遭ったのか?

 

 このままだと間違いなく俺は殺されるんだろう。そんな確信はある。

 この豚達は俺を逃がすつもりはないようだし。

 

 だけど足が動かない。いかん。足がブルブル震えているんだ。

 ビビっているのか。

 ヤバい。

 

 とにかく逃げよう。


 豚達が襲い掛かって来る。

 ギトギトした顔は勝利を確信しているかのように歪んでいる。気持ち悪い。

 

 動けこの足!

 ゴロゴロと転がりながら距離をとる。全く歩けていない。くそう、ビビってんじゃない!

 

 ぶおぉん!

 

 後頭部を何かが掠めていく。どっちかの豚の攻撃だ。それくらいは分かる。滅茶苦茶なスピードだ。

 転がろうが構わず足を動かす。


 寒気のする咆哮が背後から聞こえる。

 無理。

 勝てる気がしない。

 

 ともかく逃げるんだ。

 心臓がパンクしようが、足が千切れようが構わない。

 逃げるんだ!

 

 無我夢中で足を動かしていく。

 

 何度か背後に空振りの音が聞こえる。

 

 必死に足を動かす。

 

 チリチリ感は少しづつ遠くなっている気がする。

 

 咆哮は良く聞こえる。油断すると追いつかれる。

 

 必死で逃げる。それしか考えていなかった。

 

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