閑話 不思議の国の雪姫
何者かに揺すられる感覚で徐々に意識が覚醒する。
「……じゃ。これっ、起きるのじゃ!」
「んー…………ん?」
上下逆さまになった雪姫の顔が見える。
どうやら寝ている俺を上から覗き込んでいるようだ。
「お主やっと起きたか!」
「あれ、雪姫? って、何処だここ!?」
俺は、がばっと飛び起きて辺りを見回す。
そこはどこかの森のような場所で、目の前に小さな草原があった。
「……なんだこれ、俺大岩山から帰ってきて、その後ベッドに入って寝たと思ったんだけどな」
「妾もじゃ、そして気付いたらここにいたのじゃ……」
俺と雪姫は二人して顔を見合わす。
「どうなってんだ?」
「さあのぅ……」
するとそこにガサガサと何かが近づいてくる気配があった。
「何か来る、隠れるのじゃ!」
そう雪姫が言い俺達は木の陰に身を潜める。
すると目の前の草原に、角の生えた白いウサギが現れた。
俺はその奇妙な姿に目を見開く。
雪姫も
「なんじゃあれは……」
と驚いている。
更にだ、 そのウサギが喋ったのだ。
「あぁ、忙しい忙しい」
そう言いながらそのウサギは俺たちの前を通り過ぎて森の奥に消えて行く。
しばらくすると雪姫がぽつりと呟いた。
「よし捕まえるのじゃ」
これには俺も驚く。
「なんで!?」
「角の生えた喋るウサギじゃぞ! きっと銀に見せびらかしてやったら驚く……、自慢してやるのじゃ!!」
(く、くだらねぇ……)
俺は呆れながら言う。
「いや、今そんなことしてる場合じゃないだろ。ここが何処かも分からないのに」
「嫌じゃ! 妾はあやつにぎゅうにゅーを取られた事を忘れてないのじゃ!!」
そう言うと雪姫はウサギを追って駆け出してしまった。仕方がないので俺もその後に続く。
しばらく行くと急に雪姫が立ち止まった。
そして 近くに立っていた大木のウロを覗き込む。
「どうした」
「ウサギ穴じゃ、多分奴はここに入って行ったんじゃ!」
俺も覗き込んでみると確かにそこには穴があり斜めに下っていっているようだった。
その時だ、雪姫が手をついていた場所がボロッと崩れバランスを崩して中に転がり落ちたのだ。
俺は雪姫を捕まえて引っ張り戻そうとしたが 、一緒に落っこちてしまう。
「のじゃ~!?」
「うわぁ~!!」
そう叫び声を上げながら俺たちは団子になってゴロゴロと穴を転げ落ちていった。
****
「いてて…………」
どれほど穴を転げ落ちただろうか。なんとか止まったと思ったら、そこには不思議な空間が広がっていた。
「うみゅ~……ん、なんじゃここは!?」
明るい蛍光灯の光に照らされたそこには、リノリウムの床に中央にはくっつけられた折りたたみ机にパイプ椅子。壁際には細長いロッカーが並び金属性の扉があるという、まるでどこの会社の休憩室かという風景が広がっていた。
「なんだこれ、……俺たちウサギ穴に落ちたんだよな?」
「そのはずじゃが…………むっ」
辺りを見回していた雪姫が何かを見つけたようで机の方に近寄って行く、そこにはガラスのコップに入った牛乳と皿に乗ったワッフルが置いてあった。
「これはぎゅーにゅうと、……こっちは何じゃ?」
「それはワッフルだな、甘いお菓子だ」
「ほぅ、菓子か。では早速……いやまずぎゅうにゅーじゃな、走って喉が渇いた」
そう言うと雪姫はゴクリと牛乳を一口飲んでしまった。
「あっ馬鹿、なに勝手に飲んじゃってんだ!」
「うるさいの~、別に良いでは……ん? お、お、おぉーー」
するとどうしたことだろう。
雪姫がシュルシュルと小さくなっていくではないか。
「ゆ、、雪姫!?」
「……な、なんじゃこれは~!!」
最終的にフィギュア程の大きさになってしまった雪姫を、とりあえず俺はつまみ上げて机の上に乗せる。
「……なんでそんな小さくなっちゃったんだ?」
「わ、妾が知る訳無かろうが!!」
「はぁ…………」
なんだか疲れてしまって俺はパイプ椅子に腰をかけた。
そして、雪姫は持ち前のくよくよしない性格を発揮して、小さくなった体でフンフンとワッフルの匂いを嗅いでいる。
「うむやはりこれは旨そうじゃの、どれ……」
そう言うと雪姫はワッフルをかじってしまった。
「雪姫何やってんだよ、 今そんなの食ってる場合じゃないだろうってば!!」
「カリカリするでない、そのうち元に戻ろうて…………ん? のおぉーーー」
すると今度は雪姫がみるみるうちに大きくなっていく、しまいには部屋に入りきらないんじゃないかというほどまで大きくなってしまった。
と言うか分かったぞ…………。
「原因このワッフルと牛乳じゃねえかっ!!」
****
その後紆余曲折を挟み…………具体的には雪姫が牛乳とワッフルを交互に食べて、雪姫は元の大きさを取り戻した。
「ふぅ、ひどい目にあったのじゃ」
「いや、自業自得だろ……」
雪姫とそんな話をしている。
だがずっとこのままここにいるわけにもいかない。
そこで俺達は唯一の出入り口である扉の向こうに行こうという話になった。
「よし、開けるぞ……いいな?」
「うむ! バッチ来いなのじゃ!!」
そう頷きあい勢い良く扉を開け二人揃ってその中に突入する。
……すると、そこには先ほどの部屋と打って変わって異国情緒あふれるヨーロッパ風の街並みが広がっていたのだ。
街は賑やかでこれまた雑多な人種の人々が多く行き交っていた。
後ろを振り返る、いつのまにか扉が消えていてそこにはただ通りがあるだけだった。
「どうなってるんだこれ……」
「のじゃ~……」
どれほどの時間、俺と雪姫はそうしてぼーっと突っ立っていたのだろう。
突然肩をたたかれる。
「ねえ君たち異世界人だろ!?」
「へっ?」
「その格好やっぱりそうだ。それに顔を見るに俺と同じ日本人かな?」
そこには革製の鎧を着込み腰に西洋風のショートソードを帯びた青年が立っていた。
「あ、ああ。 確かに俺は日本人だけど。異世界人? ってどういうことだ?」
「ん? どういうことって君たちも女神様に連れてこられたんだろう? だからこの世界にいるんじゃないのか?」
(君たち? こいつ雪姫の事見えるのか? ……というか女神様? 異世界……連れて来られた? )
俺は隣をちらりと見る、確かに女神様はいるがこいつのことではないだろ。
「いや俺達は気付いたらここにいて、……ここどこなんだ?」
「ふーん、そういうパターンもあるのか……
まあいいや。じゃあ 同郷のよしみで俺がこの世界こととか色々教えてやるよ」
そう言った。……めちゃくちゃ雪姫をチラチラ見て。
****
その男はキョウヤと名乗った。キョウヤによるとこの世界は剣と魔法のファンタジー世界で、この世界には時折女神様に連れてこられた異世界人がやってくるらしい。
そしてやってきた多数の異世界人がこの世界でそれぞれ生活を営んでいるという。キョウヤもその一人だそうだ。
そしてこの世界にはモンスターという存在がいて人々に危害を加えるらしい。それを狩る存在を冒険者と言ってキョウヤも冒険者をしている。
そして俺と雪姫は、キョウヤに連れられて冒険者ギルドという所に連れてこられた。
なんでも異世界人が最も簡単に身分と金を手に入れるには冒険者になるのが一番らしい。
そこでランクだのパーティーだのといろいろ説明を受け登録してギルドカードなるものをもらうと、
「せっかくだから仮パーティー組んで一緒にクエスト受けようぜ!!」
と言ってきた。
すると雪姫が、
「面白そうじゃな!」
と言った事で仮の三人組パーティーがここに結成する事になったのだった。
その後クエストを受け、ギルドで貸し出している安物のショートソードを借り俺達は森に来た。
クエストの内容はホーンラビットの討伐だ。
ホーンラビットとは角のあるウサギの事らしい。
最初に俺たちが見たやつだ。
「それは喋るのかや?」
と雪姫が聞くがキョウヤは、
「ははは、まさか! 喋るホーンラビットなんか見たことがないよ」
と言っていた。
あれは本来喋らないらしい。
それを聞き雪姫はしょんぼりとしていた。
まあそれはともかく、しばらく森の中に分け入って行くと、しばらくして豚の顔 をした人間体のものに出くわした。
「チッ、オークか。不味いな、この人数では何ともならない。仕方がないが退却しよう」
とキョウヤが言ったが、時すでに遅し。
既に周囲を十数体の豚人間によって囲まれていた。
「くそっ、オークに加えてハイオークまでいるじゃねーか!! …………俺が突破口を開く、君らはそこから逃げろ!! ……うおぉーー!!」
そう雄叫びを上げ豚人間に突っ込んで行くが、はっきり言ってなっていない。腰も入っていなければ剣の柄の握りも甘い、これでは人間相手でも強い相手には敵わないだろう。
案の定、豚人間の持っていた棍棒によって殴り飛ばされ木の根元まで吹っ飛ばされて昏倒する。
「やれやれ、…… 仕方がないの~タカさんやっておしまいなのじゃ」
「タカさんって……、まあやるけどさ」
そういう雪姫に言われて俺はショートソードを抜く。
そして 豚人間を片っ端から片付けて行く。
力もありそこそこやりづらいが師範や山岸さんが相手だと思えばヌルい相手だった。
そして残り一体になった時、相手が武器を捨ていきなり流暢に話しかけてきた。
「ちょっと待て! ストップ、ストーップ!!」
「ん?」
俺は振り上げた剣を下に下ろす。
「……あんたら正規入場者じゃないだろう。困るなぁここは関係者以外立ち入り禁止だよ」
「何の話だ? 俺達は気付いたらこの世界に飛ばされていたんだが……」
「……そこでぶっ倒れてるお兄さんも?」
「いやあいつは違う。俺とそこの女の子だけだよ」
「 ……本当、調達部とシステム部いい加減にしろよ! 関係ない奴連れてきたら駄目じゃねえか!! ……ちょっと待っててくれ」
豚人間はそう言うと何処からかタブレットのようなものを取り出し操作しだす。
「よし、…… あんたらの出場手続き取れたからもうすぐここから出れるよ。……悪かったな。
後ここの事は他言無用で頼む」
豚人間がそう言った。
すると何だか急激な眠気に襲われ俺はその場で倒れ伏すのだった。
****
「…………ハッ」
目を覚ますと見知った天井が見えた。
俺はガバリと体を起こす。
「……夢、だったのか?」
「むにゅ?」
隣で雪姫も体を起こす。どうやらまた俺の寝床に潜り込んでいたらしい。
「……なぁ雪姫」
「……なんじゃ?」
「俺なんかすげー変な夢見たわ」
「奇遇じゃな、妾もじゃ」
そう言って俺と雪姫は顔を見合わす。
「……寝るか」
「じゃな」
そして俺と雪姫はまた布団に潜り込む。
これはそんな日曜日の早朝のお話。
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