27話 視る人

「マオ、弱すぎ」

「だって~」


 病院の中の空きスペース。自販機が並ぶ中で、定番のアイスクリームのものにお金を入れる。負けた方がおごる。そういう約束だった。手元にあるのは、安っぽいつくりの小さなオセロ。100円ショップでも同等のものが買えるが、病院の売店というのは物価がインフレしているので、こんな物でも500円程した。


「アイ兄ちゃん、大丈夫かな」

「さぁ」

「冷たくない?カズヤもしかしてアイ兄のこと、嫌い?」


 そう言いながら、バニラのアイスを渡される。やっぱりおいしいものは定番のものだ。


「嫌いじゃないよ。むしろ好きだよ」

「ならいいけどさぁ」


 マオはそういいながらちょっと訝し気にこちらを見てくる。マオはアイちゃんのこと、好きだからな。

 実際、アイちゃんのことは嫌いではない。あれは本質としては賢いし、口こそ悪いけど素直だ。ただ、賢いから困るのだ。だから自分はマオといる。マオはバカで素直だ。だからいて楽しい。わからない人間は難しくて嫌いだ。


「……はぁ」

「落ち込んでる?」

「……カズヤはなんでそんなにいつも通りなの?」

「別に……わけわかんないから。どうしようって」


 身の回りが大変なことになっているというのに、びっくりするほど感傷に浸れない。まるで人でなしみたいだ。


「いつまでこんな感じなんだろうね」

「うん」

「また学校しばらくお休みかな」

「そんなことはないんじゃない?……僕の予想だけど。アイちゃんがあれだけキレたから、行動は緩くなると思うんだけどな」

「そうなの?」


 これは単なる予想だ。けれど、今回のことが上層部に伝われば、アイちゃんを突き飛ばした警官は捜査から外されると思う。それに現状の酷さも……。多少は僕たちの人権が確保されると思いたい。


「それでも、そのうちはなればなれなんだろうね」

「マオはいや?」

「……うん」

「どうせ大人になったらみんなバラバラだよ。それは普通の家族であってもそういうもんだしさ、現にサトルちゃんはいま寮で生活してるし」


 血の繋がりがあろうとなかろうと、死ぬまで一緒の人間なんていない。生まれてくる時も死ぬ時も一人だ。……きっとマオはそういうことが言いたいのではないと思うが。


「捜査が長引けばさ、ずっと一緒にいられるかな」

「……それはそれで、大変だと思うけど」

「でも……」

「マオはみんなと一緒が良い?」

「うん」

「じゃあ僕を信じて?」

「……?」

「一緒にいられるようにしてあげるから」

「ほんと」

「本当……だから、ね?」

「うん」


 僕だって、今の生活が嫌いなわけじゃないんだ。だってまた彼と会えたのだから。

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