第62話・魔王城へ

 やり方は単純、ただその方向に真っ直ぐに進む。


 時計兎は白薔薇に対して、付いて来れない時は帰れと言って、白薔薇は覚悟して真っ直ぐに付いてくる。


【エタる】「頭良いのか悪いのか」

【ナアリ】「しかしこれなら確実にたどり着く、のかな?」


 俺はやるぞ。地図で小島か島っぽいところであったわんわん王国を発見した実績がある。俺はやるぞ。


 もはや両手戦斧を片腕で振るえるスキルを手に入れた白薔薇の一撃で消し飛ぶモンスター。時計兎も斬撃で相手を倒しながら、奥へ奥へと進む。


 時には崖を無理矢理上り、時には川を無理矢理横断する。普通ならどこかでつまずくのだが、アイテムでごり押しする。


 川は不壊属性のボートで渡り、崖は白薔薇と共にクライムして、山も普通に進み、簡易テントでログアウトを繰り返す。


 守りに白薔薇を連れて居るのもよかった。彼女は機械であり、24時間警護可能であり、ログアウト中無防備なアバターを守りながら、奥へと進む。


 かなり酷使しているが頭を撫でたり、褒めたりすると元気になる白薔薇。これが終わったら休ませようと決めて奥へと進んでいく。


「そろそろ転移スクロールが使いたいな」


「問、使えないのですか?」


「決まったエリアが無いと、ここまで進んだ意味が無くなる」


 山脈などを地図と照らし合わせて先を読む。


 こうして進む事リアルタイムで三日間かけて、ついにそれを目視した。


「古城?」


「了、お城と城下町のようです」


 そうして俺達は廃墟へと足を踏み込んだ。


 ◇◆◇◆◇


【侍ハート】「ついに発見したぞーーー」

【ハカセ】「連絡しました」

【神風零式】「長かった………」


 視聴者達もつまらない様子ばかりで脱落者が出始めて居た中、見知らぬモンスターも出始めてようやくモチベーションを保ち、ついに廃墟を見つけたところで息を吹き返した。


 中に入ると???と出て、転移のスクロールで移動可能になった。とりあえず進んだ道のりは無駄にならない。


「さてと、探索を始めよう」


「了」


 誰も住んでいない城下町。建物は古く、扉や窓が外されていたり、朽ちていたりしている。


 屋根もボロボロであり、人の気配はない。


「時間帯によってはアンデットが出そう」


「了」


 ちなみに魔法攻撃や属性武器しか効かない。白薔薇はMPを使いスキルのアーツを使用しないとダメージを与えられないだろう。できれば会いたくないな。


 こうして町を見て周ると気配がした。


「主」


「………そこにいるのは誰だ」


 少し考えたが、動きが知性がある。もしかしたら精霊系かも知れないため、声を出して尋ねた。


 そして現れたのは………


「………ご、ごはんください………です……」


 ハラペコキャラであった。


 ◇◆◇◆◇


 島の果物をもしゃもしゃと食べる女の子は、蒼い髪と瞳をしていて、黒いドレスを着こむ少女のような子だがアイコンの色が青。NPCである。


 赤にならないことを祈りながら、果物を与えて話を聞く事にした。


「ありあり、ここ最近は何も無く、モンスターも汚染されたものばかりで食べられず、さすがにもう無理かと思いましたです」


「汚染って、病魔か」


「はいです。古代の病魔の魔力を浴びて、ここらのものはちゃんとしたものが実らず、育ちませんです」


「問、あなたはなぜそんなところに住んでいるのですか?」


「私は吸血鬼ですので、普通の人とは住めないですよ。主か主のような人が居ればいいですが、もういませんです」


「ここに一人で暮らしているのか?」


「はいです。物好きは私しかいないです」


 食べ終えた後ごちそうさまを言い、この後はどうするか聞くと、城に戻って掃除をするらしい。


 時々掃除しないと今以上にボロボロになるから、城下町も必要最低限の掃除はしているらしい。エリアを守るために結界石と言うアイテムの点検もしないといけないようだ。


「ありでした。それではこれで」


「お前、俺らが何者か聞かないのか?」


「? ただの迷子ですよね?」


「違う、開拓者だ」


「………ああ女神のですか。ここは開拓はさせられないので、見なかったことにして欲しいです」


「いまさらなにを」


 そう言った瞬間、刀を引き抜く時計兎。吸血鬼と名乗った彼女の影から黒い片手剣が出現して、一閃放たれた。


「なるなる。ここまで来る実力はあるようですね」


「フンッ!」


 戦斧の一閃を放つ白薔薇、それを影に沈んで避ける。


 すぐ離れた位置から浮き上がり、片手剣を構えながら表情を変えずにいた。


「申し訳ないですが、ここは魔王様の領地です。彼の王以外の者に手出しさせることは許されないですよ」


「なるほど、なら魔王に関する話は聞いていいのか?」


「どゆことです?」


「災いは解き放たれた。俺ら開拓者は海の災いを退けて、他の災いに対して英気を養っているんだ」


 それを聞いて僅かに沈黙する吸血鬼。


「マジです?」


 いや、ぶっちゃけPRとかでそういうことになってるからです。俺自身目的は面白そうだからしているから。


「ほれ外装の欠片」


 そう言ってストレージから手頃な大きさの外装を取り出して投げ渡す。それを受け取り、うげっと言う顔になる。


「マジですか。海の結界は崩れたとなると、陸の封印も解けるですかね?」


「知らないが、近くにあるのか?」


「それは教えられないですが、ふむ………」


 考えながら剣を仕舞い、仕方ないですと呟く。


「魔王城に入ることは許可するです。それで陸の災いが解かれた時、対処するの手伝って欲しいです」


「分かった」


「話が早くて助かるです」


 そう言って彼女の案内で魔王城に入るのだが………


「「………」」


「どしたです?」


「いや、あの絵画」


「ああ魔王様の美しさに絶句したですか。いまも昔もお美しいですからね」


「魔王か」


「はいです。この玄関フロアにでかでかと飾られている絵こそ、初代魔王様のお姿です♪」


 胸を張って答える吸血鬼。視聴者達も絶句する。


 その絵画に描かれた女性は………


(命姫を大人にした姿なんですけど)


 そう思いながら奥へと案内された。

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