第53話・大海の戦闘後編

 海水が浮かび上がり、一時的に空にも海ができており、それを泳ぐ大海の獣にミスリルの弾丸を放ち続けるロザリオ号。


【一服野郎】「大量の魔鉱石が湯水のように」

【神風零式】「時計兎さんじゃないと使えない手段ですね」

【ナアリ】「ダメージもだいぶ入りこんでるし、なにげに空海も進めて対処できてる」


「白薔薇、弾丸はまだあるか」


「了、まだまだあります」


 とはいえそろそろ弾丸での攻撃は打ち止めだろう。そもそも海上戦とはいえ、プレイヤーに攻撃手段が無いといけないはず。


 そう思っているとこちらに突っ込んで来る大海の獣。リーフベアがうまく躱した。


「むっはーやりおる」


「落ちた人はいませんねえッ」


「おとーさんが突撃したよー」


「………えっ?」


 命姫の言葉に大海の獣を見るユニ。うまく躱して角の根的に剣を差し込んでいる時計兎がいるのを目視した。


「張り付いた」


 そう呟く中、振り下ろそうと体をくねらせるがうまく回避している。


「兎さんの精霊石は重量軽減による動きやすさ重視。魔鉱石製品であることもあり、布装備と変わらない。うまく水の中で戦ってますね」


 角でも切り落とそうとしているのか、あの手この手で斬り落とそうとしている。


 突撃二回目が来て各船が避ける中、張り付いたのは他にもいた。


「カリバーさん達と武狼ですか。勇ましいですねぇ」


 ユニは不安定な動きをする船に捕まりつつ、水晶ちゃんが張り付いているので元気百倍になりながら耐えていた。


 息が続く中、離れたり、振り落とされた者も出る中、カリバーと時計兎は何か仕掛けている。


「……あれは?」


 傷つけた傷口に何かを差し込む時計兎。カリバーも物に気づいてストレージから取り出すそれを受け取って、張り付きながら移動して設置している。


「マーリン攻撃魔法、火力準備。紫炎の杖使用でよろしくお願いします」


「はーい、貸して」


「はーい」


 マーリンが杖を借りてから、船体の前に出て魔法準備をする。純魔の魔法で次に使用する魔法の倍加ダメージの用意して、火力のある火魔法の準備。


 そして設置し終えた彼らは離れて、海面から顔を出す。


「マーリン根元を狙え!白薔薇はその後で叩き折れッ!!」


「………了」


 その闘志に力がみなぎる。力を貯めてアーツを重ねて次に繰り出す戦斧では無く、鉄槌の準備。


「突っ込んで来るぞ」


「むっはー、いざ尋常に勝負ッ!」


 リーフベアが加速してロザリオ号が大海の獣に突撃した。


「【爆火球】」


 真正面から船を砕こうとする大海の獣に対して、角へと大火球が激突すると連鎖爆発する。


【カツ丼】「兎さん大好き火薬って言うか」

【テッキ】「ダイナマイト作ったのかーあの人ー」


 それに叩きこむ鉄槌が角をへし折り、悲鳴が響き渡る。


 海面でのたうち回る大海の獣。ロザリオ号はうまく突撃して躱したようだ。


「ラストアタック、いただくよッ!!」


 うまく位置取りしたカリバーがアーツを使えるだけ使い、精霊石の分も入れた攻撃を横っ腹に叩きこむ。


 両断、大海の獣の悲鳴が響き渡る中、ついに決着が付き、急いで元の海に急ぐ船達。大量の経験値とスキルアップ、エリア解放のメッセージと共に彼らの勝利は確定した。


 ◇◆◇◆◇


「よっしゃ大海の大角ゲット!!白薔薇の鉄槌素材にするぞ!!」


「こっちは紫紺の宝玉。目玉らしい。アクセサリーに使えそうだよ」


 張り付いて攻撃してたプレイヤーがロザリオ号に集まる中、他のギルドマスターも集まり、戦利品確認などをしていた。


 メイド服を着こむウェーブの黒髪。可愛らしくもあり上品さも持つ大学生らしき女性、マリリンも嬉しそうに確認していた。


「クジラには鱗は無いですが角の欠片扱いで多く手に入りました~良い装備になりそうです~」


「武狼的にも骨は骨素材武器に使えそうだぜッ。ナイスラストアタック!」


 ワイルド系の装備で面構えも野性味のある男がそう言う。各々のトップが巨大な大海の大角や紫紺の宝玉をゲット。皮や鱗、骨など手に入れて喜び合う。


「我々『従者同盟』は目的である大海のエリア解放ができて助かります~。おかげで船での移動や海側の探索もできるようになりまた~」


「我々親衛隊も、あの人の船を襲った奴を倒せて満足です」


「とりあえず参加ギルドは文句無しで良いレイド戦になったということだな」


「はっはーミスリル大量使用で赤字だけどなこっちはッ」


「だろうね~」


 笑い合いながら時計兎がダメージを稼ぎ、トドメはカリバーと言うところか。角を直接折った白薔薇のおかげで時計兎は角を二つ。ラストアタックで大宝玉と言う一つだけのレアドロップを獲得。


 各々は満足いく戦いをして祝杯を上げる。


「島に戻って祝杯しますか?酒も料理も島の方がありますし」


「ユニの言う通りだな。良いか兎」


「問題ない。とりあえず島に戻るか」


 そう言って戻ろうと話し合う中、何かか海面から上がり船に乗り込んだ。


 全員が反射的に武器を構える瞬間、それは叫ぶ。


「待ってくださいッ!敵ではありませんッ!」


『『『に、人魚だと!?』』』


『『『それに可愛いラッコさんだと!?』』』


 男性プレイヤーは貝のブラでは無いが水着の美しい人魚に驚愕して、そのオトモらしいラッコに驚く愛好家。


「大海の獣を倒したあなた方にお願いがありますッ。もうすぐ目を覚ます封印されし災いを倒してほしいのです」


「キューもうすぐ封印が解けて、彼奴が海の底から這いあがるんだー」


 その瞬間、ワールドクエスト発生のアナウンスが流れる。いままでのものと違い、とても大きく、切羽詰まるように。


『ワールドクエスト・封印された災い(海)が発生しました』


『超大型レイド戦が発生します、超大型レイド戦が発生します』


『全プレイヤーが強制参加、海より来たる災いを跳ね除けよ』


 それにリーフベアはむっはーと叫ぶ。


「戦いはここからなのだ」


 その通りと言わんばかりに、危機は押し寄せて来た。

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