第49話・とあるプレイヤーの憂鬱
中央エリアに一般のプレイヤーが来ても良いように、大きい宿屋を設置して生産職を泊めたりしている。ギルド『お昼のメニュー』が経営する宿兼レストラン。放課後ランチが出来上がっていた。
コボルトを従業員として雇い、宿屋として機能するのを確認。まだホームをタダで作り放題だが、来たばかりのプレイヤーはお金を払ったり、この町の冒険者ギルドの宿屋を借りたり、または島の主である男の日本屋敷より奥にある、島管理プレイヤーハウスに泊めてもらったりする。
プレイヤーハウスは正式名称は決まっていないが、聖樹エリアを管理する為に関係者以外立ち入り禁止にして幹部だけにする予定だがまだいいだろうとなり、見習いやレベルの低いプレイヤーが寝泊まりしてたりする。彼女『アリス』もその一人。
「はあ……兎さん気づいてそう」
そう言って黄昏ているのは中学生だが背丈は低く、髪と瞳の色をいじって金髪碧眼にして、アリスと言う名に合わせて可愛らしい衣装の生産職プレイヤーだ。
本来その中学生の割に背は小さいスタイルは嫌っていたが、現実の背丈と同じにしてゲームを始めている彼女。まだ日にちは浅く、第三陣のプレイヤー、に混じって来たβプレイヤー。
元『紅蓮の獅子戦記』副ギルドマスターであり、データを真っ白にしてGМ監視下の元にゲームを続けると選んだ子だ。ここにいるのは時計兎、レイドに謝るためだが………
「出会って少しして、なにか含みある言い方だったな……」
無意識に髪の端をいじりながら呟く、そう思いだす彼女と時計兎の挨拶は………
『………いいんじゃない?〝もうしないなら〟俺はなにも言わないよ』
なんで気づくんだろうと思いながらも、あれはもうしないなら一緒にゲームしようと言うことだと分かる。分かるのだが………
「会長さんは気づいてないっぽいし、あの人にはメロディーバードの件、私も行かなかったから怖いよお………」
ユニにはたぶん気づかれていない。レイドもとい、時計兎の性格上、反省しているならなにも言わないとこちらを信じてくれている。だから時計兎さんは良い、自分は頑張って島の為に働けば許してくれる。
『絶対に許しません』
だがユニは分からない。全プレイヤーの前で謝りに来なかった人は決して許さないと宣言するほど、許していないと公言している。
正直に言えばいいのかこのままでいいのか、おそらく誠意をここで見せなければいけない。自分がきちんと反省していると彼女に伝えないといけない。
「はあああ、それでも怖い物は怖い。なんで謝りに行かなかったんだろう……?」
実は当時からずっとこの件は彼女にとって悩みの種となっていた。メロディーバードは綺麗な歌を歌うから気に入っていたし、いなくなるなんて思わなかった。
レイドが謝る時に同行すればよかったのだが、当時のギルマスから舐められるわけにはいかないと謎の命令をギルメンに言って止めていた。ギルマスや他のプレイヤーから叱られる恐怖から行かなかったが、ギルマスから解放された途端、本当に謝らなくてよかったのかと悩んでいた答えはすぐに出た。
だからより一層、どうすればいいのか分からなくなり足踏みしている。
「……とりあえず生産スキルのレベルを上げておこう。そろそろ細かい物が足りなくなるって話だし」
造船計画と言われている、プレイヤーが一から船を作る計画が行われている。動画配信者達も喜々として各分野を配信している中で、自分にもできることがあるため、まずはそれを片付けようと動く。
とりあえず、気づいていて分かっていて連れて来たマーリンに話しかけるべきか悩む。彼女はなぜ自分を見つけたのか、しかもなにか知っている素振りを見せている。
『もう反省したなら仲間だよ♪』
そう言ったあの魔術師に相談しようか考えながら仕事場に向かっていった。
◇◆◇◆◇
「くううんううう……なにかできそうでできない」
「うむ………なにか足りない気がするのう」
「はふー」
錬金術用の生産道具の前で、鍛冶師ムラサメとムラマサ、ミスタースミスが頭をひねっていた。錬金術のスキルレベルはそれなりに高く、なにか鍛冶と組み合わせてできる気はするのだが、なにか足りないとムラサメは言い、スミスもそれに習い材料を探す。
いままで錬金術は魔法の品物を使うパーツや能力を持つ武具を作れば上がっていたが、それだけではないとムラサメは思う。だが具体的になにをすればいいか分からないらしい。
「必ずあるはずです。錬金術と鍛冶によって作れる品物が……それがなんなのか分かれば」
「うむ、町の発展に繋がるし、孫とそのパーティを呼んでもらうる交渉はうまく行きそうじゃ」
「だけど材料が分からないなー」
尻尾がへたっと下がり、頭を抱えるムラサメ。スミスは図書館に聞きに行ったが、それだけではなにも分からなかった。
「すいませーん。釘とネジとノコギリや斧の整備お願いします」
「あっ、はーい」
そこにアリスが開拓地から戻り、鍜治場にお使いに来た。ノコギリなどの整備、消耗品の補給。アリスはノコギリなどを置いて行き、釘などを受け取っている。
「どうしたんですか?なにか考え込んでましたけど」
「ええ、材料が無くって。素材は兎さん達が持って来てくれるんですが、なにか普段材料にしないなにかが必要で」
「ふーん」
アリスはそんな世間話をして考える。その時にこれはどうだろうと思い、ムラサメに見せる。
「これは」
「未使用の精霊石だよ。火と風と樹と土。私は精霊術取れるほどポイント無いから、受け取ったままなんだ」
マーリンからこれを受け取った時、びっくりした。実は精霊石は場所によっては手に入る。本土では精霊の森で水と樹が手に入ったりしている。NPCやテイムモンスターから受け取っているのは島だけだが。
貴重品なので物によっては高額で売られていて、これだけで良い装備が買える。昔だったらすぐに売るかギルマスに渡さないといけないが、いまはどうしようと言うアイテムである。
そんなアイテムを見たムラサメの尻尾は立ち上がった。
「こ、これだーーーッ!!」
「へ?」
ムラサメは風と火の精霊石を受け取り、何か作り始めた。それはエンジンのようなものであり魔鉱石、ミスリル製のエンジンが出来上がる。
◇◆◇◆◇
「船の動力源だと!?」
「これがあれば船の機動力が跳ね上がるぞ!!」
「すぐに造船に組み込んで作るぞ。ひゃっほうー」
そこから樹の精霊石で木製の物の強化、風で扇風機、火でコンロを作り出すムラサメ達。
鍛治と錬金術の組み合わせでできる物は、とても貴重な品物で検証班達もすぐに乗り出した。
「アリスでしたね。あなたが切っ掛けをくれたおかげです。ありがとうございます!」
「は、はひっ」
ユニは手を取り嬉しそうにお礼を言い、時計兎はそれを嬉しそうに見て居る。助けてと言う目線に対して、気にするなと返す。
マーリンは満足げに頷き、ユニは首を傾げた。
「どうしましたか?」
「「別に」」
大勢のプレイヤーから感謝されるが、それが圧になる。自分はしてはいけないことをした身だ。感謝されるのではなく、行動して当たり前なのだ。
「あ、あう……」
結局その後、正直にみんなの前で土下座するアリス。ユニはそれを聞いて情緒不安定になるが時計兎とマーリンがまあまあと止めて、アリスは謝り続けた。結局ユニは時計兎がいいならと滞在などを許して、他のプレイヤーも許してくれた。
結局マーリンはリアルに呼ばれるが、それ以外に何も無くアリスはホッとする。
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