運営側3

 イベントが終わり、GМルームでは今回のイベントの品物交換に伴うデータの更新に大忙しだった。


 やはりと言うか違法ツールが使われた件はすぐさまニュースになり、犯人への対処は? 謝罪はどうする?と言う話が持ちきりだ。


 件の実行犯であるギルドマスターは未成年の高校生で、事件をできる限り穏便にとと社長は話を付けようとした。会社に実害があったが穏便に進めたが、バカ息子にバカ親ありで揉める事になった。むしろこちらは話を小さくしようとしてるのに向こうが大きくした。


 プログラマーの娘さんも加害者と言うより被害者として扱われ、関係者は一部を除き問題なく解決した。記者会見も終わり、プログラマーの父親は恩を感じてすぐさま全力で違法ツール無力化したり、数多くの問題を解決する為に奮起する。娘さんもブラックリスト入りを受け入れ、心を入れ替えるとスタッフや社長に謝罪文を提出した。どこぞのバカ家族も見習ってほしい。


 そんな中、一人の男が更新データを見ていて………


「どっひゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 悲鳴を上げた。


「なんだいまの悲鳴?」


「大変です主任ッ!?ランダムデータがッ!!」


「なに!?魔導書が一種類しか出なかったか?」


「それより酷いんです、これ見てくださいぃっ」


 主任は頭をかきながら画面モニターを見る。違法ツールに対するアップデートと次のイベントをする前にしなきゃいけないことが多い中の出来事。


 そんな酷い事は無いと祈りながらモニターを見る。


「魔導書は三種類、うまくばらけているが取る人は少ないな。少し高過ぎたか?」


「いえ、まだ最大自然魔法は9ですので問題ないかと。MAXに行ってなきゃ話になりませんし。それよりここ見てくださいっ」


 そう言ってとあるキャラクターデータの方をピックアップして、なんじゃこりゃっ!?と悲鳴を上げた。


「ランダムタマゴのSSSトリプルエスランクのが二つも出てるッ!?」


 作業中のスタッフ全員が顔を上げて、えっと言う顔で主任達のやり取りを見る。


「それって、一つでも出たら良いなって考えた、レアモンスターのことっすよね? えっ、二つも出たんですか?」


「ばらけてるけどねッ。ああ、手にしたプレイヤーはだれッ!? ブラックリストなら目も当てられないが」


「一番のブラリスプレイヤーは追放されてます。マナーの悪い人に渡る事は無いはずですが、どなた様が手に入れたんです?」


「えっと、まずはキャラネーム〝レフト〟。鳥のSSSトリプルエスッ!!」


「ああ、双子ちゃんで人気の片割れか………」


「次にキャラネーム〝ライト〟ッ!!虎のSSSトリプルエス!!」


「えっ!?双子ちゃん、二人でランダムタマゴ選んじゃったの?」


「ああ、しかも二人して大当たりだよっ。あの島、おふざけで動物ランドに設定したが、本当に動物ランド作る気かここ」


 そう言いながら、彼女達の取った魔導書も見る。


「魔導書はかぶっていない。ん?二つ………おいマーリンのデータを見せてくれ」


 そう言われてマーリンのリストを確認して、マジかと呟く。


「三人して被りなし。三種類が一か所に集まりやがったッ」


「ええ~」


 それを他のスタッフも確認する。ああと納得して、ついでにログを確認する。会話からしてマーリンが選んだから選んだと言う事が分かり、運が良いなと思う。


「しかし、魔導書三種類一か所は想定の範囲内ですよね?」


「ですね、他のプレイヤーが協力する可能性が高いですから。売ると言う選択肢もあるわけですし」


「な、なあ、双子ちゃん、ランダムタマゴ選んだのは時計兎さんが選んだから的に見えるのは俺だけか?」


「マジ?」


「おいッ、時計兎さんのリストを見せてくれッ!」


 即座にデータを見ると、いままさにAIがランダム抽選待機中になっていた。


「おい、頼むから引かないでくれ………あんたの周りはやっかみ言うの少ないけど、世の中にはいるんだ」


 追放されたブラリスプレイヤーみたいに裏で色々言うプレイヤーはやはりいる。クレーマー対策する係の者が祈り出し、他の人達も見守った。


「えげつない戦い方するし、運が高いからクリティカル判定多いですからね。正直ロザリオの事もありますし、Aくらいの子にして欲しいですね」


 全員が見守る中で、AIがランダムの抽選で叩きだしたデータが出る。


『竜のSSSトリプルエス SSSトリプルエススペシャル』


「よりにもよってそれかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 後ろに倒れそうになるクレーマー対策の悲鳴に絶句するスタッフ。


「あの、念のために不正されていないか確認します? 正直時計兎さんの事だからしてないと思いますけど」


「あ、ああ………そうしてくれ。正直偏り過ぎて、AIが贔屓してる線もあるからな。少し中を確認してくれ」


「あっ、そっちですね。両方やりますねー」


「そのデータくれッ、クレーマーに見せてやるから」


「さすがにそれは無理ですよ~」


 データ内からたばこデータを取り出して吸う。電脳の中だからたばこを安心して吸えるので助かると思いながら、まさか一か所に集まるなんてと思う。


「β版からあの海域を探索してたから、島発見は仕方ないと割り切れるが、そのまま動物ランドとして活動し出すのはさすがに笑ったよ。だけどここまで来ると笑えないぞおい」


「ケルベロスの卵を一発で発掘しましたからね彼。他の動物はカーバンクル以外、そうなるように設定してたから良いですけど」


「コボルトもプレイヤーなら手助けすると想定の範囲内ですしね」


 実は時計兎のプレイデータは日々監視されている。ブラックリストでは無い為に、ホワイトリストと言われてゲームスタッフNPCの人と同じ扱いをされていた。理由はロザリオ、彼女と深く関わる為に組み込んだ方が良いだろうと決定したから。


 こうして彼はえげつない攻撃方法を使う、運が良いのか人運が無いのか分からないプレイヤー。そう運営から言われていたのだ。


「ワールドクエストのトリガーも彼が引きましたね。ロザリオと今回のワールドクエストのトリガー二つを手に入れて、このゲームに愛されてますねえ」


「愛されていると言うか、運が良いのか?あの島を動物ランドにする使命を帯びた戦士にされているというか。とりあえず時計兎さんは、もうあの島を動物ランドにするのは天命だな」


「ベイビーカーバンクルも、食われる前に助けてますしね」


「ああ、ついでだから鉱山内部の探索して、残りも助けて欲しいな。このままじゃ彼奴のエサで絶滅するぞ」


「そう設定したのは我々ですが、まさか長がマジックマッドベアに挑みに行ってしまったのは痛いですね。おかげでリーフベアと聖樹が絶滅しなかったですし、あのままでしたらボス熊は二匹になってましたし」


「確かおかげで一匹で、しかも聖樹の間に入らなかったんですよね。ただ魔法反射と防御魔法じゃ、生粋のアタッカーのマジックマッドベアには勝てなかったと」


「ああ、とりあえず賽は投げられた。この件は上に持って行って、ロザリオ担当の人をどうするかだな。そろそろ力解放するだろう?」


「本人もゲーム外の時間で、演技の稽古してます。マリーさんがノリノリで」


「あの人、頼んでも無いのにうまいんだよな。連邦、このままあげちゃうか」


「ですね。早速樽を入手して、産業立ち上げる準備してますから。やり過ぎるとプレイヤーの分が無くなるのでそこは気を付けないとです」


 とりあえずデータ問題なし、そのまま交換リストは採用されて、やっかみのクレームが双方に入らないことを強く祈る。


「こういう時こそリアルで飲みに行くぞお前ら」


「はーい」


 こうして仕事を進め、夜が更けるのであった。

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