第61話

 渋るリオの手を引いて、バルコニーからレオナルトの待つ城の入口に移動する。


「レオン元気だった?あの時の毒は大丈夫なの?」

「あの時は俺が至らないばかりにカナデに怪我をさせてしまった。悪かったな。その後どうだ?怪我も治ったか?」

「レオンは何も悪くないよ。それに俺は大丈夫!怪我もほら、綺麗に治ったよ。アルが治してくれたんだ」


 俺が上着の袖をめくって腕を見せると、レオナルトが怪我をしていた所を撫でた。


「確かに綺麗に治っているな。エン国王は、かなりの術者と見る。…カナデ、今は幸せか?」

「うん!とても幸せだよ!」

「そうか。なら良い」


 袖を直す俺の頭にポンと手を置くと、レオナルトは「部屋に案内してもらおうか」と笑った。


「リオ、水の国の方達は青の間だ。案内して差し上げよ」

「はい」


 ホルガーがリオに命令をし、リオがレオナルトと従者の先に立って案内をする。

 俺はレオナルトの一歩後ろを歩きながら、さっきから俺を見ていたナジャに声をかけた。


「ナジャ。この前はありがとう。俺、あの時ナジャに声をかけてもらって嬉しかったよ」

「カナデ様、お久しぶりでございます。いえ、結局は何の力にもなれず、申し訳なく思ってます」

「相変わらずナジャは堅いよね。歳も近いんだから、俺はナジャと仲良くなりたい」

「……俺は従者であなたは王族に連なるお方。仲良くと言われましても抵抗があります。ですが俺はあなたを好ましく思ってます。主の大切な方ですし。いきなりは無理…ですが善処します」

「うん!ありがとう」


 いつも無表情なナジャの顔が、フッ…と柔らかくなった気がして、それだけで俺は嬉しくなって破顔する。

 それを見ていたらしいレオナルトが、ボソリと「妬けるな…」と呟いていた。

 レオナルト達を部屋に案内をして去ろうとすると「待て」と呼び止められる。


「なに?」

「風の国は、国王ではなく、あのバルテル王子が来るらしいぞ。大丈夫か」

「え?あの人が来るのっ?」

「大丈夫だよ」


 俺の隣で聞いていたリオが代わりに答える。


「式典に集まった他国の王族もたくさんいる中で、風の国の王子も無茶は出来ないと思う。それにカナデの傍には、アルファム様や俺、シアン様に他にも有能な護衛をつける。特にアルファム様は、自身もそうだけどカナデを傷つけられたことをかなり怒ってらしたからな。ちょっとでも妙な動きをしたら容赦しないぜ?」


 リオの話を聞いて、俺は安堵の息を吐く。

 レオナルトは「そうだな」と笑って俺を見た。


「あのエン国王がいるから大丈夫か。それに俺も目を光らせておく。バルテル王子だけでなく他のどんな怪しい奴も、カナデには近づくことは不可能だ」

「あ…ありがとう」


 皆んなが俺を守ろうとしてくれていることが、何だか気恥ずかしくて嬉しい。でも俺はいい大人だし男だし、微々たるもんだとはいえ剣も魔法も使える。

 それに、どちらかと言えば狙われるのは国王であるアルファムの方かもしれない。

 だから俺も、誰もアルファムに手出し出来ないように見張らなければ!と密かに拳を握りしめた。


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