第57話
それから式典の日まで、城内は式典の準備で慌ただしい日々が続いた。
俺は、バルテル王子が傷つけられたことを恨んで何かしてくるかもしれないと思い、より一層剣と術の稽古に励んだ。
剣は、今なら三段くらい一気に上げてもらえるんじゃないかと思うくらいに上手くなったと思う。
魔法もほんの少しずつだけど上達して、壁に拳大の穴を開けれるようになった。
そしていよいよ、アルファムの即位五周年の式典の日が近づく。
式典の前日、俺はアルファムに大広間へ来るようにと呼ばれた。
彫刻の施された重厚な扉の前で大きく息を吐くと、そっと扉に手をかける。
そんなに力を入れなくても、扉がゆっくりと向こう側へと開いた。
少し緊張しながら中へ入ると、入口から真っ直ぐ向こう側にある、大きな窓から陽が降り注ぐ玉座に、アルファムが座っていた。
その姿はとても威厳があって、美しくて、正に王様だ。
俺が立ち止まってアルファムの姿に見蕩れていると、よく通る低い声が大広間に響いた。
「カナ、何をしている。俺の傍へ来い」
「…うん」
アルファムの声に導かれるように俺の足が動く。ゆっくりと、一歩一歩玉座に近づく。
玉座より一段低い場所で立ち止まった俺に手を差し出して、アルファムが笑いながら言う。
「そこではない。カナ、俺の前まで来い」
「うん…」
段を上がり、アルファムの前に立つ。
アルファムも立ち上がり、俺を包むように抱きしめた。
「カナ、明日の式典は、おまえは俺と色違いの装いで、俺の隣のこの椅子に座るのだ」
「えっ!だって…っ、この椅子は…」
「これはもう、おまえの椅子だ。まだ正式ではないが、カナはもう俺の后だ。…と、后と言われるのは嫌か?」
「い、嫌じゃないっ、嫌じゃないよ!嬉しいよっ。でも、いいの?俺、男だよ?後継ぎとか…産めない…」
「カナ、おまえがいた世界がどうなのか知らないが、ここでは男同士、女同士でも結婚が出来る。それは王族でも同じだ。後継ぎも心配する必要は無い。俺の母親の件で、遠く離れた城に幽閉された母について行った弟がいる。継承権第一位のあいつが、いずれ俺の後を継ぐ。あいつの母親は性根の悪い女だが、あいつはとても優しい。安心して任せられる」
「弟…」
「あいつも式典に呼んでいるから、今夜辺りに到着するだろう。俺の自慢のカナを早く紹介したい」
俺の額に唇を寄せて、アルファムが嬉しそうに笑う。
きっと離れて暮らす弟と会えることが嬉しいのだと、アルファムの笑顔を見て俺まで嬉しくなった。
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