第54話
しばらくは平穏な日々が続いた。
午前中はこの世界についての勉強をして、昼からはリオに剣や魔法を教えてもらう。リオがいない時は一人でもくもくと練習に励んだ。
そのため剣の腕は確実に上達してきたように思う。
時々リオやアルファムに相手をしてもらうのだけど、数回に一度は、俺の剣の方が早く相手の身体に届くようになった。
ただ魔法は中々思うようにはいかない。
まあ俺はこの世界の住人ではないのだから、使えるようになる方がおかしいのだ。
でもアルファムは『カナはこの世界の生まれではないのに、例え些細な魔法だとしても少しは使えるのだから素晴らしい』と絶賛してくれる。
確かに小さな石ころを転がすだけだったのが、指先から光を飛ばして壁に小さな傷をつけられるようにはなった。
普通の人間の俺が、どういう原理でそんなことが出来るのかは分からない。
この不思議な世界に来た時点で、俺に何らかの力が宿ったのだと自分で自分を納得させているけど。
窓を開けていると爽やかな風が入ってくるようになった心地よいある日、政務をこなすアルファムの隣で、俺はこの世界の地理を勉強していた。
ちなみに俺はこの世界に来てから、言葉はなぜか理解できるのだけど、字は全く分からなかった。
でも再び城に戻って来てから二ヶ月、毎日シアンに教えてもらって、今では簡単な字は読み書き出来るようになっている。
地理の本を見たり教えてもらってわかったのだけど、この世界には、炎の国エン、水の国スイ、風の国ウィン、山の国ベルク、日の国ディエス、月の国ルナの六カ国がある。
ということは、俺はこの世界に来て三ヶ月で、既に半分の国の王族に会ってることになる。
それってすごくない?日本にいた時に、天皇に会うことなんて一生ないと思っていたのに。
そもそもは、最初にアルファムが俺を助けてくれたところからすごいんだけど。
こうなったら後の三人の王様にも会ってみたいなぁと思っていたら、俺の隣で書類に目を通していたアルファムが、書類をテーブルに置いて俺に話しかけてきた。
「カナ、実はな、今月末に俺の即位五周年を祝う式典がある」
「へえっ!おめでとうアル!アルは若いのに五年前から王様やってたの?」
「ああ、父上が亡くなったからな。その時に皇太子だった俺が、自然と跡を継いだ」
アルファムの言い方を不自然に思い、緑色の目をジッと見つめる。
目を細めて俺の頬を撫でるアルファムの手を掴み、更に見つめ続けた。
「ふっ、アルファム様、カナデ様は聡いお方です。特に貴方様のことは、何でも知りたいとお見受けします。これから先ずっと共に過ごされるのでしたら、全部話して差し上げた方がよろしいのでは?」
アルファムと俺から離れた位置にある小さな机の前で書類整理をしていたシアンが、クスリと笑いながら言った。
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