第51話 新たな始まり

 アルファムに後処理と身体を洗ってもらい、風呂場を出た。

 二人共にゆったりとした服を着て部屋へと戻る。

 窓の傍にある大きなテーブルに、様々な料理とタライに入った水が置いてあった。

 俺はアルファムの手を引いてベッドの端に座らせる。


「カナ?食事をしないのか?」

「するよ。だけどアルの背中の傷をまだ治してないじゃん」

「ああ…血は止めてあるから後でも大丈夫だ」

「ダメだよ!俺だけ綺麗に治してもらったのに…」

「当たり前だ。カナの白く滑らかな肌は、傷一つついてはいけない」

「なにそれ…。俺だってアルの身体に傷がつくのは嫌だよ」


 アルファムの前に立つ俺の腕を引いて、アルファムが自分の膝の上に俺を座らせる。


「おまえは優しいな。俺の身体には、この背中の傷以外にも傷跡がある。おまえも見ただろう?」

「…見た。今日の傷や他の傷を受けた時、どんなに痛かったんだろう…って辛くなった。だからこそ、アルにはもう傷ついて欲しくない…」


 アルファムの肩にペタリと頬をつけて呟く。

 大きな手が俺の髪を優しく梳いていく。


「そうか。ならばテーブルに泉の水が置いてあるだろ。その水を布地に含ませて俺の傷口に当ててくれ」

「わかった」


 俺は顔を上げるとアルファムの膝から降りてテーブルの傍にいく。

 布地を濡らして絞りアルファムを振り返ると、アルファムは上着を脱いで上半身裸になっていた。

 その逞しい身体に思わず見蕩れて、動きが止まる。

 俺…あんなかっこいいアルに、抱かれたんだ…。

 つい先程の情事を思い出してしまい、顔を伏せながらアルファムに近寄った。

 アルファムがクスリと笑って俺の頬を撫でると、背中を向けて「適当でいいぞ」と笑う。

 俺はアルファムの広い背中を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 そこには真新しい傷を無理矢理塞いだような痕と、数箇所に切られたような赤い筋があった。

 バルテル王子にやられた傷に、そっと触れる。


「アル…これ、自分で塞いだの?」

「ああ、傷口を焼いて止血した」

「すごく痛かった?」

「まあな。だが慣れてる」

「…俺の傷は綺麗に治ったのに。アルのこれは、綺麗に治せなかったの?」

「あの場では、悠長に治す時間が無かったからな。とりあえずの止血だ。カナの傷は痕が残らないように治したかったから、あの場では手当をしなかったのだ。痛みを我慢させて悪かったな」

「そんなのっ。大丈夫なのに…。この傷、泉の水で綺麗に治る?」


 アルファムが俺を振り返り、頭を引き寄せて軽く口付ける。


「痕は残るが、カナが願いを込めてその布を当ててくれたら治る」

「…うん、治るまでずっとやる」


 アルファムが笑って再び背中を向ける。

 俺は、焼けて盛り上がった傷口に泉の水を含んだ布をそっと当てた。

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