第12話 水の国
青色の髪を後ろで一つに結わえた大男がパチンと指を鳴らすと、俺の身体に巻きついていたモノが、パシャンと音を立てて崩れ地面に吸い込まれていった。
「わっ!なに?水…?」
「そうだ。それはただの水だ。俺は水を操ることが出来る」
「へぇ!すごいっ。炎じゃなくて水を使えるんだ?」
俺が目を輝かせて言うと、男が大きく目を開いて立ち上がり俺の傍に来た。
「炎?俺は炎は使えん。エン国の者ではないからな」
「え?じゃあどこの…」
「俺は水の国、スイ国の者だ。名はレオナルトと言う。ここには旅の途中に寄ったのだ。ところでおまえ、珍しい髪色をしているな。エン国の者なのか?」
レオナルトと名乗った男が、珍しそうに俺の髪に触れる。
俺の後ろでヴァイスが鼻息荒く待っていて、俺は早くアルファ厶の所に戻らなきゃと焦る。
だけど助けてもらったのに無下にも出来なくて、俺はレオナルトを見上げて首を横に振った。
「違うよ。俺は…遠い所から来たんだ。でも今はエン国の人と一緒にいる。レオナルトさん、助けてくれてありがとう。連れが心配してると思うので、もう行くね?」
俺はレオナルトに向かって頭を下げると、後ろを向いて「ヴァイス、行こう」と声をかけた。
その直後、いきなり背後から腹に腕を回されて動けなくなる。
「わあっ!なにっ?」
驚いて声を上げて振り向くと、俺を抱きしめたレオナルトが不敵に笑って俺を見ていた。
「おまえ…名は何だ?」
「えっ、ちょ…っ、離せよっ!」
「名を教えるまで離さんぞ」
「はあ?横暴だな…。俺の名前は奏だ。教えたから離せよ」
「ふ~ん…カナデ、か。珍しい髪色に珍しい名…。よし!俺はおまえが気に入った。俺と共に来い」
「はっ?なんで?意味がわからないんだけどっ」
「俺に向かってそんな口を聞くとは…。まあいい。おまえに拒否する権利などない。ナジャ」
「はい。ここに」
レオナルトが声をかけると、今までどこにいたのか水色の髪をした若い男が現れた。
「見ろ。良いものを見つけた。我が国へ連れて帰るぞ。ラルクを呼べ」
「はい。ラルク、来てください」
一礼をした水色の髪の男の横に、ヴァイスと変わらないくらいの大きな黒い馬が、ぬぅっと現れた。
レオナルトは、急な展開に固まってしまった俺を抱き抱えたまま軽々と背の高い馬に飛び乗り颯爽と駆け出した。
俺は馬に揺られる振動にハッと気づいて叫ぶ。
「あっ!離せよっ!どこに行くんだよっ!」
「カナデ、おまえを俺の国に連れて行く。黒という高貴な髪色に美しい容姿…。俺はおまえにすごく興味があるぞ」
「嫌だっ!俺は行きたくないっ。ヴァイス!アルを呼んで来て!早くっ!」
後ろを振り向いて、俺の後を追いかけて来たヴァイスに叫ぶと、意味を理解したのかヴァイスが方向転換をしてアルファ厶がいる方角へと駆けて行った。
「お願いっ、アルっ!あっ、いた…っ」
「俺の腕の中にいるのに他の奴の名を呼ぶとは…」
鋭い痛みを感じた耳を押さえてレオナルトを見る。怒りに光る琥珀色の瞳に、怯えた俺の顔が映っている。
耳に触れた手にヌルリとする感触がして、恐る恐る目の前に持ってくると、掌に赤い血がベッタリとついていた。
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