第2話 少し成長

俺は三歳に成長した。

この頃は動き回って色々なことができるようになったので、本をよく読むようになっている。

最初から言葉はわかったが、文字が読めなかった。


しかし、今の俺の脳はすごい。一度文字を見たら全てが理解できる。

あれから何回かキュアを練習しながら魔力量を増やしている。

産まれたばかりの時はキュアを一回発動しただけで魔力切れになり、すぐに寝てしまっていた。


「ジン! ご飯よぉ!」

「はい!」


何とか喋れるようになり、意思表示ができるようになった。

既に飯は自分で食べている。最初に食べたときは驚かれた。


「メルとあそんでくる!」

「すぐそこだけど、気を付けるのよぉ」

「はぁい!」


バタンッ


「あそびにきたよー!」

「あーい」


出てきたのは少し大きくなったメル。

今から既に可愛いので、将来は美女になるんではないだろうか。


「また裏に行こう」

「うん!」

「今日もキュアの魔法陣について教えるね」

「うん! まだわかんない所があるんだよねぇ」


最近の遊びといったら、魔法陣の各模様の意味をメルに教えている。

メルも魔法には興味があるみたいで、真剣に聞いては質問をしてくる。


「この模様が回復を意味しているんだ」

「これの真ん中のは?」

「これは、回復する人を指定してるんだ」

「ふーん。まだここがわからないんだけど?」

「あぁ。ここはわかりにくいかもね。ここは、回復と、対象の人を示している模様を結び付けているんだ。複雑に見えるけど結び付け方は一定だから、覚えれば何にでも活用できるよ」

「難しいなぁ。絶対覚えるぞ!」

「ははは。まぁ、徐々にでいいんじゃない?」


こんなことを普通に会話している二人は三歳にしたら異常である、高度な演算能力を有しているジンの脳も異常ではあるが、同じく理解しようとしているメルも大概異常である。


そんなことを知らないユイとダンはただ遊んでいると思っている。

アルとゲイルもまさか魔法陣に関しての勉強をしているとは思っていない。


――


「今日はこのくらいにしておこう」

「うん! また明日ねぇ!」


バタンッ


「ただいまー!」

「お帰りー! ご飯できてるから食べるわよぉ」


朝から一日中魔法陣を教えて寝る。

その生活を日々続けていた。


――――――

――――

――


五歳になった。

最近、父さんが剣術を一緒にやろうと誘ってくる。

俺は、体は鍛えていないので余り乗り気ではない。が、この日、やることになってしまった。


「じゃあ、まず基礎を教えるぞ! まずは握り方だが、軽く少し指の間隔を空けて持つんだ!」

「こう?」

「あぁ! そうだ!」

「そしたら、振りかぶって、最後だけ力をギュッと入れるんだ! そうすると」


スッ


スパァン


「おぉ。すごい。流石父ちゃん」

「ガッハッハッ! こんなのジンならすぐ出来るようになるぞ!」

「ちょっとあなた。ジンに無理させないでくださいよ。元々その子は魔法気質なんですから」


もぅ。というふうにユイはいっているが、ダンは聞き入れるような性格ではない。


「大丈夫だ! ジンは天才だからな!」

「う、うん。頑張るよ」


ジンは魔法陣等の理論は理解できるのだが、身体の動かし方は全く理解ができないでいた。


スッ


ズルッ


クルクルクル


カランッ


「あっ。飛んでっちゃった」


「ガッハッハッ! 大丈夫! コツを掴めばできるようになるさ!」


その日、何度やっても出来なかった。


――


ある日、母ちゃんに言ってみた。


「ねぇ、母ちゃん、魔導書読みたい!」

「ま、魔導書!? そんなの何処から聞いてきたのよ!?」

「母ちゃんも持ってるじゃん? それはもう見たからさ、違うの読みたいんだよ」

「い、いつの間に……」


母ちゃんは考え込むと


「村長さんの家なら何個かあるはずよ。但し、危険な魔法は発動させたりしない事! いいわね?」

「うん! わかったよ! 村長さんの所に行ってくる!」


――


コンコンッ


「そんちょーさーん」


「はいはい。どちらさんかな?」


ギィー


村長さんがドアを開けて出てきた。

細々とした長いヒゲをしたおじいちゃんである。


「村長さん、魔導書が見たいんだけど、ありますか?」

「魔導書? 見てもいいが魔法陣が理解出来てないと意味が無いものじゃよ?」

「大丈夫! 見るだけだから貸してちょうだい?」

「あぁ、構わんよ。 何冊欲しいんだい?」

「全部!」

「えっ!? 全部!? 分かったわい」


ドスッ


「ほれ、これで全部じゃから、1個づつ持っ ていきなさい」

「うん! 持てるから大丈夫!」

「いやいや、無理じゃって」


ブンッ


ジンの胸の前に魔法陣が現れ身体に吸い込まれていく。


「ほら!」


全部の魔導書を持つと持って家に帰る。


「はぁ!? な、何なんじゃ!?」


目を擦る村長さん


「歳をとったかのぉ」


そう言って家の中に入る村長さん。


数時間後


「そーんちょーさーん」

「はいはい。どちらさんですか?」

「これ、ありがとうございました!」

「おや? もういいのかい?」

「はい! 面白かったです!」

「色んな模様があるからのぉ。良かったのぉ」


そういうと家に帰ったジン。

持ってきた魔導書を片付けようと持とうとするが、二冊ずつしか持てなかった。


「はて? ジンは全部持ってた気がするが、勘違いかのぉ」


頭に沢山のハテナを浮かべながら家の中に魔導書を運ぶ。

こんなの5歳児が運べるわけがないなと自分の中で解決し、特には気にしないのであった。


――


ある日、ダンに村長から魔物の討伐依頼があった。


「じゃあ、おれはゲイルと行ってくるから、留守番頼むぞ! ジン! 何かあったら男のお前が母さんを守るんだぞ!?」

「うん! 大丈夫! 絶対守るよ!」

「ガッハッハッ! 頼もしいな! じゃあ、行ってくる!」


手を挙げると歩いていくダン。

村の男の衆が集まって三日間の討伐に出かけていく。


――


ダンが討伐に出た三日目の夜中


『ウォォォォーーン』


ダンダンッ


扉を叩く音が聞こえる。


「ユイ! 逃げるんじゃ! ダークウルフの群れがこの村に向かってきているそうじゃ!」


村長が慌てて駆けつけてきた。


「アルの所にも言ってくれ! 一刻も早く逃げるのじゃ!」

「わかったわ!アルとメルは私が連れて逃げるわ! ジン! しっかりついてきなさい!」

「うん!」


走り出すユイとジン。


ダンダンダンッ


「どうしたの!?」


バッと顔を出すアル。


「ダークウルフが群れでやって来ているみたい! メル連れて逃げるわよ! 」

「わかったわ! メル! 起きて! 逃げるわよ!」


少し待つと2人ともやってきた。


『ウォーーーーン』


「近いわ! このままじゃ逃げきれない! 私が引き止めるわ!」


ユイはそういうと村の入口の方へ走っていく。


「ジン! 逃げるわよ!」


アルに腕を掴まれ引っ張られるが


「行かない」

「ジン!?」

「俺が守る」


ブンッ


魔法陣が身体に入っていく。


ズダンッ


ジンが一瞬で見えなくなる。


「私も行く!」

「何言ってるんだい! 逃げないとみんな殺されちまうよ!」

「ジンがいれば大丈夫だよ」


そういうと村の入口の方へ駆けていく。


――


ジンがユイを視界に捉えた。

もう少しでダークウルフと接敵する。


(よかった! 間に合った!)


『ウォォォォーーン』


「ユイ! ワシらが止める! 逃げるんじゃ!」


お年寄りが集まって壁を作っていた。


「ダメよ! 私も役に立つはずよ!」

「お主は回復魔法の素質じゃろう? 無理するでない」

「光魔法は使えるわ!」

「もう少し耐えれば、男衆が戻るはずじゃ。老い先短いワシらは置いて逃げろ!」

「嫌よ!」


そうこうしているうちにダークウルフが目前まで迫ってくる。


「年寄りども手を離すな! ここで食い止めるぞ!」

「「おう!」」


もうすぐぶつかる。

皆は目をつぶった。

その時だった。


ブンッ


空に大きい魔法陣が現れた。


「ホーリーレイン」


その魔法陣から光の雨が降り注ぐ。


ズガガガ


瞬く間にダークウルフの身体が灰になっていく。


「ん!? なんじゃ!? 何が起きた!?」


狼狽える村長にジンが歩み寄る。


「もう大丈夫だよ」

「ん!? ジンか!? あれはジンがやったのか?」

「そうだよ」


「ジン!? なんでいるのよ? 逃げてって言ったでしょ!?」

「母ちゃん置いてなんて逃げれないよ」

「言うこと聞きなさい!」


バチンッ


ジンをはたいてしまったユイ。


「ごめん。母ちゃん。でも、父ちゃんとの約束を破るつもりは無かった」


「じゃあ、おれはゲイルと行ってくるから、留守番頼むぞ! ジン! 何かあったら男のお前が母さんを守るんだぞ!?」


「確かに言ってたけど!」

「まぁ、落ち着くんじゃ。現にもうダークウルフは討伐されておる」

「えっ!? 一体誰が?」

「ジンがやったそうじゃ」

「ジン。本当なの?」

「うん。俺がやった」

「そう。ありがとう」


そういうやり取りをしていると男衆が走ってやってきた。


「はぁはぁはぁ。おい! 大丈夫か!?」

「大丈夫よ。ジンが守ってくれたわ」

「おい! ジン! 本当か!?」

「うん。父ちゃんとの約束。ちゃんと守ったよ」


涙を流しながらジンとユイを抱き締めた。


「くぅ。よかった! ホントにありがとうジン! みんなダークウルフに殺されたかと思った! もうダメかと思ったよ」


力なく言うダンに


「あなた。私達の子は本当に天才よ。これから、世に名を轟かすわよ」

「ガッハッハッ! そりゃあ俺達の子だからな!」


これは、五歳の時の出来事であった。

この事件があってから、村の皆はジンの凄さを理解し、成長することに協力し合うのであった。

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