第六話『本音』
「次あそこ行こ」
望が指を指した先にあるのはゲームセンターだ。
ちょっと子供っぽい気もするけど、望がやりたいことなら私に断る権利はない。
「何探してるの?」
「良い感じのないかなって」
「あれとか望好きそうだけど」
今日一日で望は子供っぽい物が好きな印象を受けたので、幼い子が好きそうなぬいぐるみを勧めてみる。
「ああいうのは確率機といって、取りにくく設定されてるから今はいいかな」
「詳しいね」
「動画で見たからね」
ゲームセンター内を少し歩き回り、望は小さなクレーンゲームの前で立ち止まる。
「これにしよ。これなら簡単に取れるはず」
そういって望は、ハムスターに見えなくもない小さなウサギのぬいぐるみストラップを一プレイで二つ落とした。
「はいこれ朔にあげる。私とお揃い」
「あ、ありがとう!」
ちょっと子供っぽいとは思うけど、全く嫌じゃない。
むしろとても嬉しく感じているから不思議だ。
「何につけるのがいいかな? やっぱり鞄?」
望はそう提案しているけど、その選択肢はない。
「……落としたら嫌だからペンケースに付ける」
「なら私もそうしよっと」
お揃いの物を同じ場所に付けるのってなんていうか……すごく仲の良い友達って感じがする。
望も同じこと思ってくれてたりするのかな。
「座れる場所探して!」
「どうしたの急に」
「今から絵描く!」
「分かった」
座れる場所を探していると、急に望が頭を抑えて蹲った。
「痛っ」
「大丈夫?」
「うん、ちょっと立ちくらみしただけ。今日が楽しみで全然眠れなかったから疲れちゃったみたい」
「無理しないで。絵はまた今度でいいから」
「でもそれだと約束が……」
「いいよ別に。代わりにケーキとストラップ貰ったから」
「朔優しい好きぃ……」
“優しい”と言われ、途端に自分に嫌気が差した。
体調を心配したのは本当のことだけど、それに乗じて遊ぶ口実を作ろうとしたことに。
理由が無いと友達を遊びに誘えない自分の情けなさに。
私なんかが望のような素敵な人の友達になってしまったことに。
いつまで経っても変わらない。
昔から私は最低な人間のままだ。
「抱きつくなぁ…………!」
言葉では拒絶してみるものの、自己嫌悪と罪悪感に押し潰されそうな今の私にとって、望の激しいスキンシップは求められているようで心を軽くしてくれる。
実際には一方的に貰ってばかりで、私からは何も与えることができていない。
友達と言っておきながら、私が壁を作っているせいで、本当の意味での友達にはなれていないんだ。
友達と言ってくれる望のために、私は変わらないといけない。
二度と大切なものを失わないために――――。
◇ ◇ ◇
「本当に乗って行かなくていいの?」
「うん、大丈夫」
来る時と同じ道を辿って帰りたい気分だった。
それに他人の家の車に乗るのってすごく気まずい。
車酔いしやすい体質だから余計に……。
「そっか、またね」
「また学校で」
とても濃い一日だった。
最近の退屈だった日常が嘘のように。
電車を降りて駅の改札を出ると、見覚えのある人物を見つけたので近寄って話しかけることに。
「
「朔ちゃんか、ちょっとね。朔ちゃんはデート帰りかな?」
恒お兄ちゃんは大学生だし色々あるよね。
「友達と遊んでました」
「今は一人? 危ないから送っていくよ」
「恒お兄ちゃんありがとう」
恒お兄ちゃんは本当に優しいな。
私なんかが危ない目に遭うようなことはないけれど、隣の家に住んでるのにわざわざ断る理由もないよね。
「ちょっと待ってて。自転車取ってくるから」
やっぱり断った方が良かったかな……。
◇ ◇ ◇
「それで望が――」
すぐにからかってくるし、下の名前で呼ぶの強要してくるし、抱きついてくるし。
「朔ちゃん嬉しそうだね」
今は愚痴を言ってたはずなのに、どうして嬉しそう認定されてるんだろう。
「そう見えますか?」
「良い出会いがあったんだね」
望のことを褒められているようでなんだか嬉しい。
そっか、私は自分で思っている以上に望のことを気に入ってるんだ。
だから恒お兄ちゃんから見て、私は嬉しそうな顔をしていたんだ。
あれこれ話しているうちに家の前へ辿り着いた。
「今日もお父さんは帰り遅いのかい? 家でご飯食べていく?」
「ううん、大丈夫。恒お兄ちゃん、送ってくれてありがとう。お休みなさい」
「うん、お休み」
帰宅後、寝る準備をすべて済ませてベッドで今日のことを思い出しながらごろごろしているとスマホの通知が鳴った。
『仮眠取ったせいで眠れないから少し付き合って』
まったく……望は世話が焼けるなぁ。
連絡を受けて、すぐに返事を返す。
『私が眠くなるまでならいいよ』
私の一日はまだ終わらない。
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