【魔王ゲーム】人狼みたいなデスゲームに招待されたら魔王になった件について

@tototete

第1ゲーム 前編 『古谷市』×『魔王』

第1話 地獄と地獄



 薄暗い体育館裏で、僕は紅に染まりつつある空を見上げる。


 綺麗な夕日を眺めながら耳を澄ましてみると、白い校舎のどこからか響く様々な楽器の音が聴こえる。


 そして、聴こえてくる楽器の音には空白があり、途切れた音の隙間には、グラウンドにいるであろう男子生徒の大きな声が微かに響いてきていた。



 部活動に励む生徒たちの声、くたびれた校舎の隙間から覗く夕日


 数年、数十年と経過すれば、僕が今いる景色は懐かしくも楽しい思い出になるのだろうか。

 僕が普通に高校生活を送れていれば、きっと、そうなっていただろう。




「…っ」


 僕は遠くから聞こえる砂利の足音にハッとなると、夕日を見ていた視線を現実へ戻す。

 そこには、僕へと迫り来る普通の男子生徒がいた。

 


 今日は1人だ。

 いつもは3人で行動しているのに珍しい。



「おう」

「うん…」



 こんな人のいない場所へ僕を呼び出す彼は、いかにも不良というわけではない。


 ぶっきらぼうに僕へ挨拶を交わす彼は、金髪ではなく黒髪であり、ピアスやそういったアクセサリーはまったく身につけておらず、むしろ、制服はしっかりと着ている。

 他の普通の男子生徒と変わらない格好だ。


 家は貧しいらしいが、彼の成績は勉強も運動も優秀であり、副生徒会長を担うほどには人望もある。


 しかし、酒やタバコを僕から奪ったお小遣いで嗜む。

 そんな人間だ。




「おい…持ってきたか?」


 僕の目の前まで彼がたどり着くと、すぐに僕の胸ぐらを掴んで尋ねてくる。




「…」


 彼に無言で答える。

 暴力で敵わない。

 言葉で抗えない。


 そんな僕の最後の抵抗だ。



「おい!!」

「っ!」



 僕は押し倒されて尻餅をつく。

 手や尻に、チクチクとした砂利の感触がする。


 起き上がるよりも先に、僕は自分の手のひらを見つめてみる。

 そこにはブツブツとした跡があり、小石の先端が当たった痕であろうか、血が滲んでいるものまであった。


 手のひらから感じるジリジリとした痛みに意識が奪われていると




「…」


「お、持ってきてんじゃん」



 自分の手のひらから男子生徒へ視線を移す。

 そこには、置いてあった僕のカバンから最新のゲーム機を取り出している彼の姿があった。



「じゃ、しばらく借りるぜ」



 彼はそういって笑うと、すぐにゲーム機を自分のポケットへ入れて立ち去ろうとする。



「ま…待って」


「あ?」


「返して…」



 僕は勇気を出した。

 友達と…顔も本当の名前も知らないけれど、友達と呼べる人がいる。

 彼とゲームで遊ぶ約束をしている。


 だから、あのゲーム機を盗られるわけにはいかない。



「返して!」

「うるせぇよ」


「がっ!」



 彼の拳が僕の顔面を打つ。

 それなりに手加減しているのか、鼻血が出るほどではなかったが、ジクジクとした痛みを鼻に感じる。


 怪我をさせずに適度に痛みを与える。

 彼がこういった行為をやり慣れていることを実感した。




「うぅ」


 僕は鼻を片手で抑えながらも、目の前の彼をギロリと睨んでみた。



「文句でもあんの?」

「…」


「おい!」




「…ありません」


「ふん…見ててイライラするな、お前」

「…」



 彼は僕からゲーム機を強引に取り上げた挙句、理不尽な言葉を吐き捨てて去っていく。

 そんな理不尽さに言い返すことのできない僕は、痛みですぐに根をあげてしまう僕は、確かに、他から見てイライラする奴なのだろう。




「…こんな人生、もう…」



 誰もいない体育館裏で、僕はポツリと呟くぐらいしかできることがなかった。




ーーーーーーーーーーーーー




「…」



 僕は憂鬱な気分でスマホを見つめている。正確には、スマホの画面にある緑のアイコンの連絡アプリだ。



「…何て説明しよう」



 僕は、ゲームで遊ぶ約束をしていた友人へ、ゲーム機を不良に盗られたから遊べなくなったことを伝えようとしていた。


 だけど、情けなさすぎて、そんなことを正直に話せるはずもなく、こうして無碍に時間を消費していた。



「普通に…具合が悪いことにしよう…そうしよう…」



 僕は理由を決めると、すぐに文字を打ち始めた。

 ゲーム機がすぐに戻ってこないのだから、体調が悪いなんて理由は長く続かない。


 でも、それ以外に、理由なんてものは思いつかなかった。



「…よし」



 僕は文字を打ち終える。

 しかし、最後の送信ボタンがなかなか押せない。



「…」



 嫌われたらどうしよう。

 仮病がバレたらどうしよう。


 そんなことが脳裏を過ぎると、返信ボタンを押す手が鈍る。



「…あと10分したら…送ろう…いや、遅すぎるか…うーん…」


 僕は画面の右上に表示されている時計を睨むようにみる。

 今は、18時41分だ。



「…45分になって数秒したら送ろう」


 そう心に決めると、僕はそのままの文章で送る決心をする。




 そう思った矢先のことだ。





「…っ!?」



 待っていた僕だったが、自分から連絡する前に、遊ぶ約束をしていた彼から連絡が入った。

 その通知音に、僕は動悸がするほど驚く。



「…既読になっちゃったし、すぐに返信しないと」



 その友人に「今日は遊べない」と送るために待機していたせいか、その友人からの連絡にはすぐに既読が付いてしまった。


 既読無視はできないし、すぐに理由を送った方が良いだろう…

 いや、それよりも、何て送って来たんだろ?




「…ん?何だこれ…?」




===============



目「魔王ゲームへ招待しました」




===============






「…魔王ゲーム?あれ?目?何だこれ?誰だこれ?」



 グループではなく1対1の連絡だ。

 その友人と僕以外が会話に参加できるはずはないのに、なぜか「目」という名前の人がいた。




「魔王ゲームの招待にしました?何だこれ?」



 僕は眉間に皺を寄せながらも、噂の架空請求やら迷惑メールやら、それらの類のものだと決めつける。



「ま、いっか」



 そこまで「魔王ゲーム」という単語を気に留めることはせず、友人へ「仮病」の連絡を送る。



「ふぅ…」



 僕は友人からの返信を待たずに、現実から逃げるようにして、ベッドへと向かう。

 すぐにスマホを充電器に繋いで目に入らない位置へと置く。


 そして、僕自身もベットに伏せることとした。



 スマホを目に入らない位置へ置いたのは、彼から送られてくるであろう返事を直視したくないからだ。

 いずれは見ることになるのだが、先送りにしたい、そんな心理状態なのだろう。



「…」



 友人と呼んでいるけど、誠意のカケラもない態度だ。

 その自覚はあるけれど、改善できない。


 だから…僕はダメなんだろう。




「僕まで自分をいじめてどうする…」



 僕はそんな罪悪感を強引に振り払うと、こんな日はさっさと寝てしまおうと考える。

 すぐに部屋の明かりを消そうとベッドの脇にあるリモコンを手に取る。


 そして、照明へリモコンを向けてスイッチを押すが…



「あれ…消えない?」



 僕は何度もリモコンで照明を消そうとするが、どうやらリモコンが壊れてしまっているようだ。



「…」



 壊れたリモコンに少し苛立ちを覚えつつも、ベッドから起き上がり、部屋の入り口になるスイッチで直接照明を消そうとする。



 そんな時だ…




「はいはーい!お邪魔しまーす!」

「っ!?」



 スイッチへと手を伸ばす前に、僕の目の前には、真っ赤な表紙の翼の生えた本が浮いていた。

 

 広辞苑ぐらいの厚さはあるだろうか。

 右に4枚、左に2枚と、天使のような翼が左右不揃いで本から生えていた。

 そして、本の表紙には、修道女が来ているような衣を纏った頭が天秤になっている女性の姿が描かれている。出るところは出ているナイスバディなのだが、いかんせん、頭が天秤になっているのがどこか不気味だ。



「こんばんはー!」

「こ、こんばんは…」



 本からは女性の声が響く。

 僕が見ているアニメの声優に似てている声色だ。



「目を擦っても、私は消えないよー!」

「…」


「頬をつねっても夢じゃありませーん!」

「…え?」



 明らかに現実離れしている。

 本が喋っている。

 本が浮いている。


 何だ…これ?



「…っ!?」

「叫ばれると困るのでー!口封じでーす!」


「…!!」

「大丈夫!すぐに話せるようにしまーす!」

「っ!!!」



「えっと!まずは自己紹介!私はミカエル!魔王ゲームのゲームマスターの1人でーす!」

「…!!」


 本は名乗り終えると、急にガタガタと挙動不審に揺れ始める。



「貴方には魔王ゲームに参加してもらいまーす!」


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