今は最弱と呼ばれている僕だけど、あとになって欲しいと思っても、もう遅い。 その頃には洞窟の最深部で、大切な人の願いを叶えている

若葉結実(わかば ゆいみ)

第1話

 大きな岩があちらこちらに転がっていて、圧迫されそうなほど狭い通路に僕達は居る。


 僕の目の前には棍棒を持った緑色の体をしたゴブリンが一匹。


 後ろでは僕を庇って気絶したパートナーの少女が倒れている。


 ゴブリンは小柄だと言っても、僕よりは大きく、人間の子供ぐらいはある。


 きっと一撃でもまともに食らえば、僕は動けなくなる。


 そう考えると、怖くて足がすくむ。


 君がいけないんだ!

 君が敵の直接攻撃を弾く事しか能のない僕を、初日から不思議な洞窟に連れてくるから……。


 いや、今はそんなこと考えている場合じゃない。

 どうにかして、少女を守り抜かなきゃ!


 そう考えている間にゴブリンは距離を詰め、棍棒で殴り掛かってくる。


 僕はパートナーに、少しでも近づかせない様に、前に出た。


 リフレクトシールドッ!

 精一杯、自分の前に攻撃を弾く半透明で三日月状のシールドを張り、ゴブリンの棍棒を弾く。


 ゴブリンはその衝撃に負け、棍棒を地面に落とした。

 何とか時間は稼げたけど、この調子だと他の魔物が来てしまう。

 早くしなきゃ。


 ――だけど、どうすればいい?

 魔物とはいえ、猫と変わらない威力の爪や牙では、致命傷を与えるまでいかないだろう……。


 かといって、人間のように手足があって、剣を持てる訳でもない。


 ただの小動物タイプの僕には、いまの状況を打破する武器は無い!


 チラッと少女の様子を見る。

 まだ気絶をしている。

 早く起きてくれッ!


 ゴブリンが棍棒を拾い上げ、またも突進してくる。

 リフレクトシールドを使えるのも無限じゃない。


 これが最後になる。

 それから先はもう――。

 それでもやらなきゃ!


 僕はそう思いつつ、ゴブリンに駆け寄っていく。

 ゴブリンが棍棒を振り上げた瞬間、シールドを張った。

 え?


 ゴブリンが突然、棍棒を振り上げたまま、止まる。

 しまった! フェイント!?


 ゴブリンは払う攻撃に切り替え、僕を狙う。

 攻撃が横腹に当たり、猫を一回り小さくした程度の体の僕は、吹き飛ばされた。


 壁に体が当たり、そのまま落下する。

 もう駄目だ……痛くて立てもしない。


 洞窟に潜るパートナーは自分じゃ選べない。

 僕を引き当ててしまうなんて、不運だったね。

 守れなくて、ごめん。


 そう思った瞬間、人間の男の声がする。

 何を言ったのか分からないが、男の声の後、ゴブリンは炎に包まれ、その場で灰となった。


 気力を振り絞り、炎が放たれた方向を見てみる。

 その一撃は、男のパートナーのレッドドラゴンから放たれたものだった。


 レッドドラゴンは進化をしていなければ人間より一回り大きい程度の大きさだが、無防備の人間なら、簡単に殺せるほどの攻撃力があり、大きな翼で素早く飛び回る事も出来るため、洞窟に潜る人間なら誰もが欲しがるドラゴンタイプの魔物だ。


 だが非常に珍しいため、魔物の僕でさえ会うのは初めてだった。


 人間の男は僕のパートナーの少女に近づいていく。

 少女と同じぐらいの年齢に見えるけど、怪しい奴だったら、どうしよう?


 でも、まだダメージが残っていて動けない……。

 僕はその場で見守るしか出来なかった。


 男は少女を抱き起こすと、声を掛けている。

 不安げな表情を浮かべている様子から、少女の心配をしているのだと感じる。

 ひと先ず安心か?


 しばらくして少女が目を覚ます。

 男はそれをみて、パッと明るい表情を浮かべた。


 何やら話しあって、男は緑色の液体が入った小瓶を少女に渡す。


 少女はそれを受け取ると、飲み干した。

 体力が回復したのか、少女はスッと立ち上がる。


 男性もスッと立ち上がると、会話を始めた。

 少しして男は、巻物とリンゴぐらいの大きな緑色の果実を少女に渡し、ドラゴンと一緒に洞窟の奥へと進んで行った。


 少女はキョロキョロと辺りを見渡している。

 僕を探しているのかな?


『僕はここにいるよ!』


 少女は僕の声に気付き、駆け寄って来る。


 少女は僕を見つけると、心配そうに眉を顰めて両手で持ち上げ、話しかけてきた。

 僕は人間の言葉が分からない。

 他の魔物もそうなのか?


 ――いや、あのドラゴンは人間の言葉が分かっているようだった。


 少女が僕の口の前に、緑色の草を出してくる。

 食べろって事かな?

 恐る恐る、口にしてみる。

 ニガッ、何これ……。


 僕がそう思うと彼女はクスッと笑う。

 顔に出ていたのかな?

 あ……体の痛みがスゥーッ……と、消えていく。

 さっきの薬草だったのか。


 少女が自分の肩に僕を乗せる。

 さっき貰った巻物を読み上げたと思うと、景色が歪み、洞窟の外に出ていた。

 巻物は破れ散り、風と共に舞っていく。


 少女が僕を草むらに下ろす。

 布の袋から、さっきの果物を取り出すと、僕に差し出した。

 食べろって事だよね?


 僕は躊躇いもせず、果実に齧りつく。

 今度は酸っぱい……。

 でも何か理由があるのかもしれないし、黙って食べるか。


 ――少女はストレートロングの金色の髪を耳に掛け、僕が食べ進めているのを、エメラルドのような綺麗な瞳で、黙って見つめている。


 この果実、何か効果があるようには感じないけど、もしかして単なる食事だったのかな?


 少女が何やら話しかけてくる。

 でも相変わらず何を言っているのか、分からなかった。


 少女はニコッと笑顔を見せると、食べかけの果実を回収し、布の袋にしまった。


 助かった……正直、お腹一杯だったし。


 少女は優しく僕を持ち上げ、肩に乗せる。


 そのまま歩きだし、村の方へと歩き出した。


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後書き

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いかがでしたか?

過去作品なので、お手柔らかに読んで頂けたら幸いです。

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