第5話 消えた調査員
――カタスヨの園『空隙都市宝玉組合』。
聞かされたその名前に、アウルは目を丸めた。
なぜならばそれは、こんな生き物よりも木や草の方が多い辺鄙な土地で育ってきたアウルでもその名ぐらいならば知っている程度に、実に有名な組合の名だったからだ。
宝探し屋。アウルが住むこの世界、『カタスヨの園』のありとあらゆる場所にあるとされる、宝を探し出し、見つけ、手にする事を生業とした人々の事である。
『空隙都市宝玉組合』は、そんな宝探し屋達の組合とされているギルドの名だ。この林の外、そこからさらにずっと遠くにある、『空隙』という名の都市を拠点に活動をしており、宝探し屋を名乗る者の大半は、この組合に所属している、とすらいわれている。
他にも、宝に関する情報から隣の家の寝床事情まで、この世のありとあらゆる場所の情報が集まっている、宝があると見いだされた場所は、実在する証拠があるなしに関わらずその土地が土地でなくなるまで掘り起こされるだとか、彼等に目をつけられたが最後、明日の朝日を見られたら奇跡、等、様々な噂が存在する。
それがどこまで本当かは定かではない。
だが、裏を返せば、そのような数々の噂が巷で溢れ返るぐらいには、有名で大規模な組合である、といえなくもなくもないだろう。
(そもそも組合があるっていう『空隙都市』、そのものが有名な場所だしね。組合の事を知らなかったとしても、流石にこの都市の事を知らないって事はないだろうし)
なんせ空隙都市は、カタスヨの園で一番栄えているとされている、大都市の名だ。
聞く噂によれば、そこにはカタスヨの園中の、ありとあらゆる者や『物』が集っており、それこそ夜も昼も夕も関係なく様々なもの達で賑わっているという。いわゆる、中心地、首都と呼ばれるものに値する場所だと言えよう。
そんな有名な都市にある宝探し屋の組合と聞けば、それだけで充分な凄みを感じる。
たとえ組合の事は知らなくても、空隙都市の名がそこにあれば、誰もがその実力に納得の行くものを感じる筈だ。
(でも、どうしてそんな有名な組合の宝探し屋さん達が、こんな林の中に居るんだろう)
仕事の最中だと言ってはいたが、このあたりに宝があるだなんて話、アウルは一切聞いた事がない。となれば、どこか別の地へ向かう最中に、たまたまこの林を通りかかったのか――、アウルの中の疑問が、ますます深くなっていく。
すると、そんなアウルの内心を察したかのように、ジュードが口を開いた。
「まぁ、宝探し屋つっても、別に今回はお宝を探しに来たわけじゃねぇんだけどね」
「え。そうなんですか」
予想外の言葉に、思わずアウルは驚きの声をあげた。
「そうそう。だから張り合いがなくってさー」と、ジュードがわざとらしげに口をすぼめながら、拗ねたような口調で返してくる。
「探してるのは宝じゃなくて、うちの組合の奴らでねぇ。どーも、最近、ここいらで宝の調査をしていた筈の調査員達が、消える事件が多発してるんだと」
「調査員?」
「お宝調査の専門員さ。俺ら宝探し屋が探す宝に関する情報を、各地からかき集めてくれる奴等でね。そいつらが、ここいらでパーッと消えちまったんだとよ」
アウルの問いに、ジュードが答える。
いわく、組合というのは基本的に、お宝を探すハンターと、その彼等がお宝を探す為の
宝探し屋と調査員は、その仕事内容故に組合の本拠地に居る事は少ない。
特に調査員は、カタスヨの園の至るところから、お宝に関する情報を集めるのを生業としている為、情報がなければ動かない宝探し屋と異なり、常にカタスヨの園中を動き回らなくてはならない。
その為、組合に所属はしていても、顔も姿も見たことがない、という者が多いメンバーなのだそうだ。
「そんで、そんな奴らが、最近になって連絡が取れなくなる事件が発生してんのよね。それも、この林の辺りで」
この林の辺りで。
その言葉を強調するように、ジュードがパッと腕を広げた。
「正直な話、調査員からの連絡が途絶えるのは珍しい事じゃねぇのよ。なんせ、ここは『実力と命がものを言う世界』、カタスヨの園だ。連絡が途絶えたっつー事は、ものを言えるだけの実力と命がそいつらになかった、それだけの話さ」
『実力と命がものを言う世界』――、その言葉に、アウルは、どきりと心臓が冷たく鳴るのを感じた。
それは、昔からこの世界の誰もが、誰ともなしに言い続けてきた『カタスヨの園』の事を指し示す言葉だ。誰が言い出したのかは定かではない。一説によれば、この世界を生み出した誰かが言いだした、との事だが、それも真偽の程は不明である。
そもそもにしてまず、実をいえば、本当にこの世界が『カタスヨの園』という名であるのか、それすらも定かではなかったりする。
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