Chapter1. 宝探し屋(トレジャーハンター)とカクリヨの園
第4話 宝探し屋
「いやぁ、悪かったな、嬢ちゃん。急に上から降ってきたりなんかしちゃってさ。びっくりさせちまったろ? これでも一応、驚かせるつもりはなかったんだぜ? いや本当、マジで。つか、鼻怪我してっけど、大丈夫?」
そう軽やかな声で、少年がアウルに話しかけてきたのは、全ての惨劇が終わってからの事だった。
予想外の事態に放心状態にあったアウル。しかし少年が話しかけてきた事で、なんとか意識を取り戻す。
だが次の瞬間、目に飛び込んできた光景に、アウルは再び意識を飛ばしそうになった。
そこに広がっていたのは、見るも無残な林の姿だった。
先刻までは均等な間隔で立ち並んでいた筈の木々。その殆どが、地に伏し、中には縦に真っ二つ、などと、どうすればそうなるのかわからないような形状になってしまっているものまである。
草種の緑で覆われていた筈の大地は、ドス黒い大量の何かで染め上げられ、元の色をすっかり失っている。まるで辺り一体にペンキでもぶち撒けたかのような、激しい染まり具合だ。ただでさえ鬱蒼とした雰囲気のあった林の中が、一段と重暗く不気味な光景に様変わりしてしまっている。
そして何よりも目を惹くのが、そんな光景の中に転がる、おびただしい数の大鴉達の死体だ。
はたして、それらを一目見て鴉だと判別できる者は、一体どれだけいるだろうか。
姿形を保っているものと、そうでないものでわけるのであれば、明らかに後者の方が、数が多かった。首を失った胴体に、逆に胴体を失った首。複雑なパズルのように折れ曲がった羽らしきものから、ぐちゃぐちゃに潰された中身と思しきもの達。
まるで死体というよりも、残骸といった方が相応しい。
そんな大鴉達の成れの果てが、林の中の至るところに転がっていた。
(なに、これ……)
ぽかーん、とアウルの口が開かれる。
そんなアウルをどう思ったのか、アウルの目の前に立っていた少年が首を傾げた。
「嬢ちゃん? どうした? もしかして、鼻めっちゃ痛ぇ感じ?」
血まみれの大剣を地面に突き立てながら、アウルの前にしゃがみ込む。
瞬間、大剣に負けないレベルで血に汚れた少年の顔が、自身の目の中に飛び込んできた事で、アウルは再びハッと我に返った。
「あ。い、いえ、その、大丈夫、です……」
「そう? ならいいけど。せっかく助けに来たのに、大怪我させちまったら意味ねぇからなぁ」
「だろ?」と言いながら、少年が大剣を持つ手とは反対の手で、その顔につけられたゴーグルを、額の上にぐいっと持ち上げた。
ゴーグルの下から現れたのは、赤い双眼だった。ぱっちりとした、大きな瞳である。爛々と明るい色合いをしたそれは、まるで溶岩から出来たといわれる宝石をそのまま嵌め込んだかのような、燦然とした瞳だった。
綺麗な瞳――、思わず、アウルは心の中でそう呟いた。
しかも大きくはっきりとした形をしているからか、その顔立ち全体を、どこか幼く、可愛らしい雰囲気があるものに仕上げている。大剣を奮って、化物達を惨殺していた人物のものとは思えない顔立ちだ。
「あ。俺、ジュードっていうの。あっちは、俺の相棒のバディね」
そう言って少年――、ジュードが、くいっと、親指をバディがいる方へと向けた。
示された方向へアウルが目を向ければ、いつの間にそっちへ行ったのか、地面に転がる大鴉達の前にしゃがみ込んでいるバディの姿があった。
先刻と違い、横顔ではあるが、バディと呼ばれた彼の顔が、アウルの目に飛び込んでくる。少し鼻が高めの、鋭利でシャープな輪郭の顔だ。だが、その目の部分にはジュードがつけていたのと同じゴーグルが装着されている。なので、どのような顔立ちをしているのかまでは、アウルにはわからなかった。
というよりも、バディというのが『相棒』という意味ではなく、彼自身の名前であった事実の方がアウルには驚きだ。
バディとやらがジュードの相棒である事も事実ではあるようだが、はたしてそれが相棒の意だけではなく、彼自身の名でもあるとは誰が思うだろうか。彼の名前をつけた者は、一体何を考えてこの名にしようと思ったのだろう。
「いやぁ」と、ジュードが言葉を続けた。
ガリガリと頭をかきながら、その幼い顔立ちにぴったりの、人懐っこそうな笑みを浮かべる。
「俺達もまさかさ、こんなところで大鴉共に襲われてる奴に遭遇するとは思わなかったよ。バディなんざ、嬢ちゃんの姿を目にした瞬間、何も言わずに駆け出しちまうしよぉ。全く、今は組合の仕事中だっつーのに。人助けしてぇのは別にいいけど、考えなしに突っ込むのはやめろっての。追いかけるこっちの身にもなって欲しいもんだぜ。ねぇ、嬢ちゃんもそう思わん?」
「え、あ、は、え、えぇ……?」
ペラペラペラと喋り初めたジュードに、アウルの目が点になる。
どうやら目の前の少年は、喋りたがりなタイプの人間らしい。そう思わん? と訊かれても困るのだけども……、とジュードの質問にアウルは戸惑った。
「あ、あの、組合の仕事って……。お2人は何者なんですか」
質問に答える代わりに、アウルはジュードに訊ねた。
ちらりと、バディの方にも目を向ければ、大鴉の頭らしきものを拾い上げている姿が目についた。嘴の横についている白い涎らしき泡を指で拭い、それをジッと見つめている。ゴーグルのレンズが、チキチキと音をたてて伸縮しているのが、遠目に見てもわかる。
えぇ、あの人、なんであんな事してるの――、小さな吐き気がアウルを襲う。
そんなアウルに気づいてか、それとも気づかずか。ジュードが「ん?」と首を傾げた。
それから「あぁ、そっか、まだ言ってなかったか」と、己の膝を打った。
「
「ト、トレジャー、ハンター……?」
「そ。お宝探しの専門家。カタスヨの園『
「以後、お見知りおきを。なんつってな」そう茶化すように言いながら、ジュードは血まみれの笑みを深めた。
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