第八百五十九夜『異郷の食べ物-Mandarine-』

2025/03/29「茶色」「本」「静かな魔法」ジャンルは「ミステリー」


 ある大衆食堂、二人の客がジョッキを片手にを食べながら何やら話し合っていた。

 食堂はにぎわっており、二人の周囲では食堂の従業員であったり他の客の姿も見える。

 ただ、食堂に居るの大半は姿や骨格が人間のそれではなかった。

 ある者は人間とは思えぬ肌色と背丈で、またある者は背丈こと人間と近いが骨格や耳の形状がまるで異なり、またある者は根本的に体格が人間と異なっていた。


 平たく言うとここは異世界であり、即ち二人は闖入者ちんにゅうしゃ。早い話が『不思議ふしぎの国のアリス』である、西洋風ファンタジーである、こう書いておけば説明が省けるので非常に楽ちんである。

 そんな二人のかれている状況だが進退きわまった物では無く、この様に食堂で呑気に飲食を楽しむだけの余裕はあった。

 二人が話している内容だが二人が置かれている状況と同様、切羽詰まった物ではなく呑気きわまりない物だった。


「だーかーらー! ここが地球じゃない限り、何かを挟んだパン料理をサンドイッチって呼ぶのは根本的におかしいんだよ!」

 二人の片割れはいが回っていて、手に持ったサンドイッチを振り回しながらわめいている。

「何でさ? 理由を簡潔かんけつに述べろよ」

 もう一人はジョッキから酒をと舐める様に飲みつつ、手に持ったハンバーガーにみついた。

「そもそもサンドイッチは地名なんだよ! ハンバーガーにしたってそうだ! だから別世界なんだったら、サンドイッチもハンバーガーも有り得ねえの! お分かり?」

「私達には訳の都合で、パン料理って聞こえるところがサンドイッチとかハンバーガーって名称に聞こえているんじゃないのか? 或いは、この世界にもサンドイッチとハンブルグって人名か地名ががあった可能性は?」

 そう言って、ハンバーガーを食べている方の人物は自分の耳たぶ辺りをさわった。そこには何かの耳飾みみかざりが有り、サンドイッチを食べている方の人物の耳たぶにも同じ物が見えた。

 この手の作品には必ずと言っても良い程に存在する翻訳機ほんやくきだ。もしも特許が存在するならば、利権者りけんしゃはそれはもう大変なとみきずいているにちがいない。

「何が訳だよ! それに言語が全然違う世界にサンドイッチやハンブルグがあってたまるものか! それに何より……」

 その時、食堂の店員が料理をテーブルに運んで来た。

 皿には独特の良い匂いのする茶色い揚げ物があり、そのわきには刺激的しげきてきな臭いがするペースト状の調味料が絞られていた。

「こちら本日のメニュー、薩摩さつま揚げです」

 二人は今しがた聞いた言葉に絶句し、自分の耳を、或いは耳飾りをうたがった。

「薩摩揚げ……ですか?」

 放心状態じょうたいの二人だったが、サンドイッチを食べていた方の人物が我を取り戻してたずねた。

「ええ、薩摩揚げです」

 帰って来た答えに二人は黙し、互いの顔を見た。

「えっと、何でこれを薩摩揚げと呼んでるんでしょうか?」

 ハンバーガーを食べていた方の人物は物怖じした様な態度たいどでおずおずと尋ねた。

「おかしな事を言いますね、お客さん。じゃないですか!」

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