第八百五十八夜『矛と盾と-Humility-』

2025/03/28「来世」「板」「残念な運命」ジャンルは「スイーツ(笑)」


 むかしむかしと言う国のあるところ、武具を売る人が居た。

 武具売りは自分の扱う武具をめて言う。

「私の店の盾の頑丈な事! 貫く事が出来る武器など有りはしない!」

 また、盾だけでなく矛も褒めて言った。

「私の店の矛の鋭い事! どんな物でもつらぬけるでしょう!」

 そんな武具売りの商売文句をいていた冷やかしが言う。

「あんたの矛で、あんたの盾を突いたらどうなるのさ?」

 それを聞いた武具売りはだまり込んでしまった。


  * * *


 以上が『矛盾』の故事である。

 しかし矛盾の故事には欠陥が、もしくは答えがある。

 盾が矛の刃を砕きつつ、盾が矛に砕かれてしまえば一応の矛盾は発生しない。盾が矛をダメにしてしまえば矛の刃が向こうがわに貫通していないし、矛も盾を突きこわしたのだから武具売りの言葉にうそいつわりは無かったと強弁出来る。


 現に盾がダメになったのだから矛盾だ、詐欺だ。そう言われてしまうかも知れぬが、どちらがよりすぐれた武具かという観点かんてんで言えば、少なくとも矛盾は無い。


  * * *


 武具売りはしばらく黙した後、口を開いて言った。

「それは、ご購入こうにゅうされてからのお楽しみ」

 これを面白がった冷やかしは、一つだまされてやろうと矛と盾を一つずつ買った。

 そして試しに盾を思いっきり矛で打ったところ、盾は砕け、矛の刃は折れた。

「ええい、両方ダメになったじゃないか! お前のところの武具はだ、武器も防具もガラクタだ!!」

 これに対し、武具売りは自分の商売文句は間違まちがっていないと異を唱えるが、しかし一部始終を見ていた人々はそんな屁理屈へりくつで納得はしない。

「なまくら! ガラクタ! オンボロ! ポンコツ! あそこの武具店、嘘つき、ゴロツキ!」

 人々は声を大にし、武具売りの悪評を一斉に唱えた。これには武具売りの自己弁護べんごむなしく、武具売りは再び黙り込んでしまった。


 悪評がたたり、武具店は破産してしまった。

 通常なら商品を二束三文で叩き売るところだろうが、しかし悪評は知れ渡っていて、誰にもびた一でも売れる事は無かった。

 武具売りは不良在庫を投棄とうきし、逃げてしまった。


「鈍ら、ガラクタ、オンボロ、ポンコツ。詐欺師の武具店、嘘つき、ゴロツキ」

 しばらく後の事、郊外で子供達が流行りの詩を歌いながら探検していると、何かが箱に入って打ち捨てられているのを見つけた。

「なんだろコレ?」

「矛と盾だ!」

「これって本物?」

「そんな訳ないだろ、きっとオモチャか、そうじゃなかったら詩になってるガラクタだよ!」

「そうだ、きっとこれは詩に出て来るだ!」

「そうだ、良い事考えた! これを使って、みんなでチャンバラしよう!」

 子供と言うのは突拍子も無い事を考え、実行するものである、行動力の権化ごんげなのである、恐れ知らずなのである。

 しかしここで子供達にとっていくつか想定外の事があった。まず第一に、武具売りの扱っていた武具は品質が良く、子供でも軽々とり回せる程軽量けいりょうだった事。そして第二に、武具売りの商売文句には嘘偽りが一切なく、武器として優れていた事。

「それじゃあチャンバラだ、戦争ごっこだ!」

「「おう!」」

 そう言って子供達は互いに矛を持ち、そして、

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