第八百五夜『アズライルの書-Hi,jack!-』
2024/12/30「西」「妖精」「魅惑的な技」ジャンルは「指定なし」
あるところにジャックという男が居た。
このジャックという男は外面が良く、それでいて
ある日の事、ジャックが酒場でチビチビと酒を舐める様に飲んでいる時に、
「ああ、何か美味い
「ありますよ」
ジャックが声のした方を見ると、声の持ち主は
「はあ、それは本当に美味い儲け話なのか? 美味い儲け話というからには
ジャックは目の前の女性を
「ええ、勿論。実は私、死神をしている者でして、最近は何と言いますか、寿命? 運命? そう言った物を金品と交換するサービスを始めたのですよ」
「はあ? 死神ですか?」
ジャックは女性の言う事を更に訝しみ、疑ってかかった。
「ええそうです、ジャックさん。
「俺の名前を?」
死神を名乗る女性に対し、ジャックはわざと
「ええ、そうです。あなた様の運命を買い取る場合……そうですね、これくらい値段になります。こちらは前金になります、どうぞお収め下さい」
「おいおい待ってくれ! 運命がどうとか言って、それで金を貰うのは訳が分からない。そもそも死神とか運命とか、そんな事をいきなり言われても信じられん」
ジャックがそう言うと、死神を名乗る女性はニヤリと口角を上げた。
「そうですね……うん。あそこの席の方、名前をディキシーと言うのですが、間も無く死にます」
死神を名乗る女性が指を指した先には、仲間内で杯で酒を
「おいおい、確かにああいう飲み方は命取りかも知れないが、間も無くってのはいつの事なんだ?」
「間も無くは間も無くです」
ジャックが死神の言う事を、胡乱な者の言動だと聞き流していると、その時の事だった。
破砕音、水の弾ける音、重い物が倒れる音が
「ディキシー! おい、大丈夫かディキシー!?」
「息をしてない!」
「誰か救急車を呼んでくれ!」
酒を呷っていたグループは
自称死神はジャックの方を見て、勝ち誇った様な笑顔を浮かべた。
「何かのトリックでお前が殺したのか?」
ジャックが半ば
「それは私は死神ですからね、相手の名前と運命が分かるんですよ」
自称死神の女性はさも当り前の事を説明するかの様に言った、まるで太陽が西へと沈んで東から出ると説明しているかの様。
「それでは取引の方を。あなたの運命を金品と交換しましょう」
「いやまってくれ。名前と運命が分かるってのは、養子縁組とか結婚をした場合、名前はどうなるんだ?」
死神の女性はおかしな事を尋ねるものだと首を傾げて見せた。
「養子縁組や結婚? それは勿論、私が分かるのは今の名前です。もっとも、人間の法律だと同一人物を指す名前は全部同じ人の名前として扱うそうですが、私は死神なので」
これを聞き、ジャックは黙り込み、そして
「分かった、取引に応じよう」
ジャックと死神は、運命と金品を交換する取引を交わした。
しかし人間の運命を全て
「だから、前金という形で金品や小切手をお渡しする事になっております。プランなどは、要相談ですね!」
快活に笑う死神の女性に対し、ジャックはリターンの大きい取引を要求した。何せ死神に何かを売り渡す人間なんてものは、太く短く生きる事を
「分かりました。では来月、あなたの元に参ります。それではごきげんよう」
死神の女性は山高帽を脱いで
ジャックの元には、一生遊んで
ジャックは小切手を
「さて、それじゃあ
* * *
ジャックは小切手を現金に換えた後、戸籍を売り払った。即ち、ジャックはジャックでなくなった。
勿論ジャックという戸籍でなくなっても、ジャックと呼ばれてしまってはジャックと言う名前であるのと変わらない。故に、元ジャックは知人が誰一人存在しない遠くの街まで移動した。
「こうすれば俺はジャックじゃないし、俺の事をジャックと呼ぶ人間も居ない。だから死神からは別人にしか見えないって訳だ!」
しかし、人間とは呼び名が無いと何かと不便だ。しかし名前があると、あの死神に殺される可能性も出て来る。なので、元ジャックは便宜上の呼び名が必要な
『おい』とか『お前』とか呼ばれる人間はこの世界にどれだけいるだろうか? そんなのが名前として通ってしまっては、死神だろうが人間だろうが
「ははは、死神を
元ジャックは勝ち誇り、新たな住居である
そんな元ジャックの様子を、橋の上から見下ろす燕尾服姿の
燕尾服姿の人物は、とても
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます