第七百五十一夜『チラチラと視界の隅に-behind you-』

2024/10/02「楽園」「メリーゴーランド」「壊れた山田くん(レア)」ジャンルは「指定なし」


 さっきから視界の隅にチラチラと何かが映る。

 しかし実際にその方向を見ても、誰も居ないし何も無い。


 誰しも一度はこんな体験たいけんをした事があると思うが、俺はさっきからずっとこの調子が続いている。

 俺はさっき街のカフェで携帯端末けいたいたんまつをいじっていたのだが、誰も居ない筈の真横からチラチラ何かが居る気配がして、しかし真横を見ても誰も居ないし何も無い。


 かれこれ一時間程、この状況は続いた。

 一時間の間、状況は全く変化しない。強いて言うなら、俺が飲んだコーヒーだけが変化した事で、始めっから今までずーっと状況は全く変わらない!


「何だか釈然しゃくぜんとしないな……」

 俺は街中でも定期的に背後だったり横からノイズの様なの様な物を覚えて振り返ったが、やっぱり誰も居ないし何も無い。

 携帯端末をふところから取り出して、何の気無しにバッテリー残量ざんりょうと時刻を確認する。

 しかし横に何かがちらついて見え、反射的にそちらを見る。やっぱり誰も居ないし、何も無い。

「クソッ、気味が悪い……」

 俺は独り言を呟き、街の雑踏ざっとうの中へと足を踏み入れた。


  * * *


「以上が、新型の発電機はつでんきのデモンストレーションです。この様に一時間の間携帯端末を稼働かどうさせていましたが、バッテリーは八割以上をキープし続けております」

 ある会社の会議室かいぎしつ、暗中で映画でも観る様に、監視かんしカメラ様な荒い画像の映像で新型商品の試供品を利用している人物の視界……いや、帽子型発電機の映した映像が流れていた。

 この帽子型バッテリーは首や頭部を動かすごとに電力が電池内部に溜まる仕組みをしており、ワイヤーでつないだ電化製品が充電できる仕組みだ。

 無論、この映像も帽子型発電機から発生した電力によるもので、この映像そのものが帽子型発電機の実力の証左とも言える。

「素晴らしい」

「実際に街で使っている様子も自然しぜんだ」

「電力供給も申し分無いですね」

 試供品を利用している人物は事ある毎に首を大きく動かしており、会議室の人々にとって、この映像は軽く首や肩の運動をしていて、帽子型発電機のテストを積極的せっきょくてきに行っている様に見えた。

 してや、帽子に取り付けられたカメラの向こうから、多くの人からマジマジと観察されていて、視線を感じて後ろを振り向いているとは露程つゆほどにも思いやしない。

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