第七百二十三夜『ペットボトルの中身-BRING YOUR BOTTLE-』

2024/08/24「朝」「少年」「残念な運命」ジャンルは「童話」


 ある日の事、デパートのトイレの個室の床に、中途半端ちゅうとはんぱに中身が残ったペットボトルが置いてあった。

 私は特に何の感慨かんがいも覚えず、前にトイレに来た人の忘れ物か、或いは飲みきれない飲み物を置いて行った人が居るのだろうと思い、トイレで用を足して外に出た。


 個室の利用者は気が付いていなかったが、個室に置いてあったペットボトルはただの忘れ物ではなかった。

 あのペットボトルのラベルの中には小型端末こがたたんまつが仕込んであり、つまりはあのペットボトルは盗撮用とうさつようのカメラだ。

 このペットボトルを置いた人間はトイレの利用者の様子を隠し撮りし、ペットボトルの存在に気が付いた人間がペットボトルを捨ててくれるだろう、何食わぬ顔でゴミ箱からペットボトルを回収する。

 こうして朝の内にトイレにペットボトルを置いておけば、デパートが閉まる頃にはトイレの中の映像を録画した映像が完成という訳だ。後は闇市やみいちの類で売れば良いという寸法となる。

 もしかしたら、あなたがデパートに行ったならば、あなたの排泄はいせつの一部始終が録画され、誰かの手で売買されているかも知れません……


  * * *


 ある日の事、デパートのトイレの個室の床に、中途半端ちゅうとはんぱに中身が残ったペットボトルが置いてあった。

 私は特に何の感慨かんがいも覚えず、前にトイレに来た人の忘れ物か、或いは飲みきれない飲み物を置いて行った人が居るのだろうと思い、ペットボトルをっ飛ばした。

 ペットボトルは軽い音を立ててトイレの床に倒れ、そしてペットボトルのふたは思いの外ゆるかったらしく、床に倒れた拍子に外れてしまった。

 その時、ペットボトルの様子が変わった。

「な、なんだこの煙は!?」

 ペットボトルから煙が生じ、途端とたんに目と喉とはなが痛くなった。

 思わずえずき、体が危機ききを感じて煙を肺から吐き出す動きをする。

 目からは涙がとめどなく流れ、気分は最悪で、むねの中身を全て吐き出してしまいそうに吐き気がする。

 私は用を足している最中だったが、慌てて取れの個室から飛び出した。

 視界はチカチカするし、意識いしききりがかかった様にはっきりしないし、足は真っ直ぐ歩こうとしているのにもたついて歩く事すらむずかしい。

 急に床と天井が逆になって、私は床になった天井に打ち付けられた。


 個室の利用者は気が付いていなかったが、ペットボトルに入っていたのは液体だけではなく、ビニールふくろも詰まっていた。

 ビニール袋が仕切りになっており、ペットボトルの中に入っていた液体は塩酸えんさんと次亜塩素酸ナトリウム、これらを触れ合わないようにしていた。

 ペットボトルが振られる、られる等の強い衝撃しょうげきを与えると、塩酸と次亜塩素ナトリウムが接すると塩素ガスが発生し、これは人間の呼吸機能こきゅうきのう破壊はかいしてしまう毒ガスで、最悪の場合死に至る。

 塩酸と次亜塩素酸ナトリウムと言っても入手は安易で、これらはいわゆる混ぜるな危険の洗剤。

 恐らく犯人は凶悪ないたずらをしたくてこの様なペットボトルを設置したか、或いは世の中の何もかもがいやになって誰かをきずつけたくてこの様なテロ行為を行ったのだろう。

 もしもあなたがデパートに行き、不審ふしんなペットボトルを蹴っ飛ばしてしまったら、次に毒ガステロに巻き込まれるのはあなたかも知れません……


  * * *


 ある日の事、デパートのトイレの個室の床に、中途半端ちゅうとはんぱに中身が残ったペットボトルが置いてあった。

 私は経験から、これは恐らくトイレの清掃に洗剤の容器としてペットボトルを使い、それを忘れてしまったのだろうと推測すいそくし、万に一つも無いだろうが、これを誤飲ごいんしない様にゴミ箱に捨てようと考えた。

 私は用を足した後、ペットボトルを持って個室から出て、ゴミ箱にペットボトルを捨てた。


 個室の利用者はペットボトルの中身を洗剤ではなかろうかと懸念けねんしたが、ペットボトルの中身はただのミネラルウォーター。

 その実このペットボトルはただの忘れ物で、このペットボトルには何の秘密も存在しない。

 仮にあなたが非現実を求めてデパートに行ったとしても、現実なんて物は得てしてそんなものである……


 2024/08/24「朝」「少年」「残念な運命」ジャンルは「童話」


 ある日の事、デパートのトイレの個室の床に、中途半端ちゅうとはんぱに中身が残ったペットボトルが置いてあった。

 私は特に何の感慨かんがいも覚えず、前にトイレに来た人の忘れ物か、或いは飲みきれない飲み物を置いて行った人が居るのだろうと思い、トイレで用を足して外に出た。


 個室の利用者は気が付いていなかったが、個室に置いてあったペットボトルはただの忘れ物ではなかった。

 あのペットボトルのラベルの中には小型端末こがたたんまつが仕込んであり、つまりはあのペットボトルは盗撮用とうさつようのカメラだ。

 このペットボトルを置いた人間はトイレの利用者の様子を隠し撮りし、ペットボトルの存在に気が付いた人間がペットボトルを捨ててくれるだろう、何食わぬ顔でゴミ箱からペットボトルを回収する。

 こうして朝の内にトイレにペットボトルを置いておけば、デパートが閉まる頃にはトイレの中の映像を録画した映像が完成という訳だ。後は闇市やみいちの類で売れば良いという寸法となる。

 もしかしたら、あなたがデパートに行ったならば、あなたの排泄はいせつの一部始終が録画され、誰かの手で売買されているかも知れません……


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 ある日の事、デパートのトイレの個室の床に、中途半端ちゅうとはんぱに中身が残ったペットボトルが置いてあった。

 私は特に何の感慨かんがいも覚えず、前にトイレに来た人の忘れ物か、或いは飲みきれない飲み物を置いて行った人が居るのだろうと思い、ペットボトルをっ飛ばした。

 ペットボトルは軽い音を立ててトイレの床に倒れ、そしてペットボトルのふたは思いの外ゆるかったらしく、床に倒れた拍子に外れてしまった。

 その時、ペットボトルの様子が変わった。

「な、なんだこの煙は!?」

 ペットボトルから煙が生じ、途端とたんに目と喉とはなが痛くなった。

 思わずえずき、体が危機ききを感じて煙を肺から吐き出す動きをする。

 目からは涙がとめどなく流れ、気分は最悪で、むねの中身を全て吐き出してしまいそうに吐き気がする。

 私は用を足している最中だったが、慌てて取れの個室から飛び出した。

 視界はチカチカするし、意識いしききりがかかった様にはっきりしないし、足は真っ直ぐ歩こうとしているのにもたついて歩く事すらむずかしい。

 急に床と天井が逆になって、私は床になった天井に打ち付けられた。


 個室の利用者は気が付いていなかったが、ペットボトルに入っていたのは液体だけではなく、ビニールふくろも詰まっていた。

 ビニール袋が仕切りになっており、ペットボトルの中に入っていた液体は塩酸えんさんと次亜塩素酸ナトリウム、これらを触れ合わないようにしていた。

 ペットボトルが振られる、られる等の強い衝撃しょうげきを与えると、塩酸と次亜塩素ナトリウムが接すると塩素ガスが発生し、これは人間の呼吸機能こきゅうきのう破壊はかいしてしまう毒ガスで、最悪の場合死に至る。

 塩酸と次亜塩素酸ナトリウムと言っても入手は安易で、これらはいわゆる混ぜるな危険の洗剤。

 恐らく犯人は凶悪ないたずらをしたくてこの様なペットボトルを設置したか、或いは世の中の何もかもがいやになって誰かをきずつけたくてこの様なテロ行為を行ったのだろう。

 もしもあなたがデパートに行き、不審ふしんなペットボトルを蹴っ飛ばしてしまったら、次に毒ガステロに巻き込まれるのはあなたかも知れません……


  * * *


 ある日の事、デパートのトイレの個室の床に、中途半端ちゅうとはんぱに中身が残ったペットボトルが置いてあった。

 私は経験から、これは恐らくトイレの清掃に洗剤の容器としてペットボトルを使い、それを忘れてしまったのだろうと推測すいそくし、万に一つも無いだろうが、これを誤飲ごいんしない様にゴミ箱に捨てようと考えた。

 私は用を足した後、ペットボトルを持って個室から出て、ゴミ箱にペットボトルを捨てた。


 個室の利用者はペットボトルの中身を洗剤ではなかろうかと懸念けねんしたが、ペットボトルの中身はただのミネラルウォーター。

 その実このペットボトルはただの忘れ物で、このペットボトルには何の秘密も存在しない。

 仮にあなたが非現実を求めてデパートに行ったとしても、現実なんて物は得てしてそんなものである……

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