第五百七十夜『死蔵した捧げもの-sacrificial pig-』

2024/02/01「地獄」「ロボット」「真の子供時代」ジャンルは「SF」


 硬い音がひびいた。像の前に捧げられた供物が、一人でに動き出した像によって飲み込まれた音だ。

 飲み込まれた供物は、その等級によって像の中で区別される。友達はこの等級を単純に数字で呼んでいるが、ぼくはこの等級を大王級、王級、金級、銀級、銅級と呼んでいる。

 像が今飲み込んだ供物は金級で、金級の供物を飲み込んだ像は表情こそ無いものの、満足している様に感じられた。

 正直言って、ぼくはこの行為に何の意味が有るかは分からない。しかし、周囲の大人は像に供物を捧げるのが正しい事であるかの様に振舞ふるまっていて、それが絶対正しいとは口にしないが大切な事だと口外に示していた。

 像は供物を飲み込む以外、何もしない。像に供物を捧げても、ぼくは何の恩恵も感じた事が無いし、像に供物を捧げなかったから像が怒ったりあばれたりなんて事も聞いた事が無い。ただただ、大人達は像に供物を捧げなさいと言うばかりだ。

「これ、意味あるのかな?」


 少年が自室でロボットのオモチャをいじっていた。

 しかしこのロボットはただのオモチャではなく、その実丈夫でちょっとした機能きのうの付いた貯金箱だ。

 このロボットは受け取り皿に置かれた硬貨を自分の手で自らに収納し、更には硬貨を形状から判断はんだんし、同じ硬貨を同じスペースに収納する。即ち、自動販売機じどうはんばいきと同じ機能きのうを有したロボット貯金箱なのだ。

 しかし少年にとっては、貯金箱の機能性なんて物はどうでもいい。確かに初めの方は愉快だったが、大抵の子供にとって貯金箱なんて物はどれだって同じなのだ。

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