第四百四十五夜『明るい未来-out of time-』

2024/01/02「朝」「クエスト」「憂鬱な恩返し」ジャンルは「SF」


 一人の男が、三人のタイツ姿の人達に囲まれていた。

 男の方は普通の中肉中背でどこにでも居そうな外見。三人のタイツ人間はまるでレトロフューチャー作品の未来人とでも言うべき全身タイツで、全身タイツの頭部には第三の目が描かれており、顔だけが露出ろしゅつしていて、それぞれ金と白と茶色と色はちがうが制式に見えた。

 三人のタイツ姿の人々はタイムパトロールを自称しており、どこからともなく男の家に入り込んで、彼を危険思想のかどで拘束した。彼等の弁を信じるならば、彼は俗に言う時間犯罪者と言う奴と言う事になる。

「ガミガミ……」

「クドクド……」

「まあまあ……」

 金色のタイツと白色のタイツの人物は男に自分のやった事を糾弾し、茶色のタイツの人物は男の見方をする様な発言をした。いわゆる良いお巡りさんと悪いお巡りさんと言う奴か、未来から来たタイムパトロールであっても、ここらへんは全く変わっていないらしい。

 しかし、時間犯罪者の男は彼等の説教の内容がまるで頭に入っていなかった。何やら法のフソキューだの、時間のフカギャクセーだの、ジョウチョシャクリョーがどうの、そんな事を言っている事だけは聞こえたが、上手く脳に入ってこないと言ったところか。勿論いきなりタイムパトロールを名乗る人達に拘束されたせいで、頭がついてこないせいもあった。

 しかし本意はそこでは無い。彼はタイムパトロールと遭遇そうぐうし、興奮こうふんと感動のあまり平静へいせいを保てずにいたのだ。

「ガミガミ……」

「クドクド……」

「まあまあ……」

 タイムパトロールを名乗る人々は始終この様な調子で、説教をするだけしたら拘束を解いて空飛ぶ船に乗って来た時同様どこかへと帰ってしまった。本当は逮捕してやりたいが、法的に出来ないから厳重注意げんじゅうちゅういで済ませると言う事か。殆んど専門的な言葉で、殆ど理解が出来なかった。


 何事も無かった様に元通りになった自室の中で、時間犯罪者とされていた男は満足そうに笑みを浮かべた。

 実は彼は時間犯罪の嫌疑けんぎをかけられていたが、それは半分正鵠せいこくで半分的外れだ。彼は並行世界を移動する発明を完成させ、正に実験を始めようとしていたところだったのだ。

 その矢先、タイムパトロールが現れたとなれば、興奮も感動もする。何しろ自分の発明が正しいと証明する事になる。

 そして彼の発明の理論はこうだ。時間とは幹と枝葉の様に枝分かれする物であり、例えば歴史上の人物を暗殺したとして、その時間軸は別の枝へと進むと言う事になる。歴史の動いたポイントが枝分かれであり、歴史の教科書にる様な事柄が枝ごとに異なると言える。

「私の発明は正しいとあいつらが正しいが証明してくれた、ならば後は実践じっせんするのみ!」

 そう言うと時間犯罪者の男は腰につけたベルトを起動させた。

 瞬間しゅんかん、時間犯罪者の男の姿が部屋から消えて、代わりに時間犯罪者の男とそっくりの男が現れた。

 時間犯罪者の男は並行世界に移動し、移動先の自分と入れ替わった形となる。これならすれ違いも発生しないし、移動した先で発生トラブルのリスクも軽減けいげんされる。

 時間犯罪者の男は移動先の部屋を眺め、自分の居た部屋とは様子が異なる事を認め、笑みを浮かべて拳を握った。

「やった! 成功だ! 私の理論は完璧かんぺきだった!」

 その時だった。並行世界の時間犯罪者の男の部屋に、先程の空飛ぶ船が現れた。船の側面についた窓からは、先程と同じタイツ姿の、けれども人数や顔が違うタイムパトロールの姿が見えた。

「くそっ、こっちでもか!」

 時間犯罪者の男は再びベルトを起動させて、更に別の並行世界へ移動した。

 これは咄嗟とっさの逃げで行なった事だが、しかし時間犯罪者の男にとっては勝算のある事でもあった。先程見えたタイムパトロールだが、同じ顔触れは無かった。そして並行世界と言う事は、暗殺された偉人いじんが生きていたり、或いは長生きした偉人が早逝そうせいした世界と言う事になる。即ち、並行世界ではタイムパトロールの構成員こうせいいんが異なって当り前で、ともすればタイムパトロールの存在しない並行世界もある筈である!

 再び並行世界へ渡った時間犯罪者の男だが、今度こそタイムパトロールが現れる事は無かった。

「やった! ついにやった! あのクソッタレのタイムパトロールが居ない世界に着いたぞ!」

 時間犯罪者の男の男は清々しい気分で、そう叫んだ。何せ、未来からお節介なタイムパトロールが介入しない世界へ飛ぶ事が出来たのだ! 何故だか知らないが、このであれば、どの様な時間犯罪を行っても絶対に未来から鬱陶うっとうしいタイムパトロールが捕り物に来る事が無いのだから!

 爽快な気分で、時間犯罪者の男は朝の陽ざしを浴びつつ今日はゆっくり休む事にした。

 その時、が折れる様なボキリと言う大きな嫌な音が聞こえたが、時間犯罪者の男の耳には届かなかった。

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