第五百二十三夜『少なくとも横浜では御座候として知られているソレ-the sweets that must not be named-』
2023/12/09「黄色」「アルバム」「恐怖のメガネ」ジャンルは「指定なし」
「今、なんて言いました?」
「だから、今川焼きだよ。今川焼き以外になんて呼べばいいのさ?」
私の目の前で、専用の焼き器を使って焼き菓子を調理している男性はさも当然の様に言った。
別段、焼き菓子を専用の焼き器で調理しているのはいい。問題は、その焼き菓子の屋台の主人の肌が緑色で
「今川焼き、なんでこの世界に……?」
この疑問に関してなのだが、まず第一に私はこの世界の人間ではない。私はこの世界へは取材をしにトラックで移動してきたのであり、今俺が居るのは古代ローマ然とした市場の真ん中だ。これには私はやや
第二に、この場には見た事が無い人種がたくさん
そんな状況下で見つけたのが、見慣れた特徴的な焼き器で焼かれる
そもそも今川焼とは今川義元に由来する名称であり、この餡子を入れたパンケーキとも言うべき焼き菓子なのだが、私が知る限り様々な名称で呼ばれている筈だ。
今川焼きがこの世界にあるのはまだいい、しかし今川焼きと言う名称で存在している理由が全く分からないし、そもそも異世界に地名や人名由来の名称が有る事は不自然極まりない。
ついでに言うと、私はこの世界の通貨を持っていない。幸い、見に着けていた
つまりは、今は今川焼きの屋台なんぞに釣られている場合ではない。私は自分で自分の行動を恥じた。
「ほら、一つ持ってけ」
屋台の主人はそう言うと、今川焼きを包み紙で包んで私に強引に持たせてきた。
「え? すみません、でも私は今持ち合わせが……」
私がどもりがちにそう口にすると、屋台の主人は何でもない様子で今川焼きを作る作業に戻りながら言った。
「いいって、いいって。それより、お前さんは稀人なんだろ? 見た目で分かる。それを食って、うちの屋台を覚えてくれたらそれでいいぜ、最初の一個だけはサービスだ。それから、市場を北側に抜ければ酒場に出る。日雇いの仕事でも、宿泊でも、
見てみると、今川焼きの包み紙は新聞紙だった。つまりはこの世界には活版印刷があり、
新聞紙越しに持った今川焼きはあつあつで、手で二つに割くと茶色い皮の中に黄金色のスポンジと赤い餡子が湯気を出しているのが見て取れた。
「なあ店主、何でこれは今川焼きって言うんだ?」
私はどうしてもこの世界における今川焼きの由来が気になり、好奇心から店主に尋ねた。しかし店主は今川焼きを作りながら、私に関心を失った様な様相でこう言った。
「だから、今川焼きは今川焼きだからだよ。今川焼き以外になんて呼べばいいのさ?」
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