第四百五十三夜『綺麗な綺麗な時計の国-cake factory-』

2023/09/24「湖」「砂時計」「消えた物語」ジャンルは「王道ファンタジー」


 あるところに河口をようする国があった。ある日の事、その河口からは不思議な鉱石が採れ、人々はこれを海の恵みだとか湖の宝と呼び、この未知の石をどうにか利用しようと考えた。

 その石は精錬してみた所、光る砂となった。その国の人々は、この砂の発する光は星の光に似ていると思い、元となる鉱石を天王石と名付けた。

 人々はこの星の光を発する砂を使って工芸品を作れないかと思案し、この砂を使った時計を作った。文字盤もじばんが星の様に光る時計、落ちる砂が流れ星の様に光る砂時計、ぼんやりと夜空の如く光る水時計……どれもこれも目にうるわしい素敵な逸品だった。

 しかし、これらの時計は見て美しいだけではなかった。この天王石から発する光を浴びると、に健康になると言ううわさがたったのだ。事実、これらの時計を所有し始めると全身の細胞が活発になる様な気がして、それもあって天王石の時計は飛ぶ様に売れ、天王石の水中採掘は増々盛んになった。


 水平線が奥に見える道を、幌付ほろつきの車が走っていた。車には短筒を下げたせぎす男と、歩兵用の剣をいた少し背の低い亜麻色あまいろの髪の毛をふさにした女性とが乗っていた。

「……って話だそうだ」

 短筒を下げた男性は、車を運転しながら鉱石と時計に関する話をしていた。剣を佩いた女性の方は、その話を興味深そうに聞いている。

「ふーん。それで、その国に時計を仕入れに行って、余所よそでトンでもなく高く売ろうって計画?」

 剣を佩いた女性の言葉に、短筒を下げた男性はほんの少しだけ悲しそうな顔した。

「いや、その国は今はもうほろんで存在しないんだ」

「え、何で?」

「それが、謎の流行り病で国が丸ごと無くなったらしい。その病気にかかると全身の骨が弱くなり、体重が落ちて体力が低下し、頭痛が収まらなくなって、最終的には下顎かがくの骨や頭蓋骨ずがいこつが虫食いの様になって骨が無くなってしまうらしい」

 短筒を下げた男の言葉に、剣を佩いた女性はゾッとおびえた様子を見せ、身震みぶるいまでした。

「何それ? そんな怖い病気が実在するの?」

「ああ、実在するらしい。ところでその国の隣国りんこくが言う事には、星の光に手を伸ばしてばちがあたったとか、あの国で作られた時計は呪いの時計だの、そんな感じのやっかみ文句を言っていたらしい」

 短筒を下げた男は怖い話をする表情と、悲しい話をする表情と、そして面白おかしい表情をする顔が混ざりあった様な態度たいどで、やっかみ文句と言う語に力を入れて嘲笑ちょうしょうする様に語った。

「でもこうして国が滅んだんだし、時計が呪われていたって言うのも本当なんじゃない?」

「バカ言えって! ただの時計で国が亡ぼせるのならば、死の商人がガンガン売買しているぜ! そんな事よりも、その呪いの時計とやら俺も取り扱ってみたかったな。死ぬ程欲しくなる様な、それは綺麗な黄色いイエローの時計だったって話に聞くし……」

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